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大きく伸びをする。

けど、眠気は解消されそうにもなかった。


「ふぁ…あふぅ…」


仕方ないので、布団を抜け出す。

身体を動かしていれば、そのうち目も覚めてくるだろう…。


「おはよ、姉ちゃん」

「風華か…おはよう…」

「眠そうだね」

「ああ…眠い…。風華は元気そうだな…」

「うん。まあね」

「ふぅ…朝ごはん食べてくるよ…」

「分かった」


欠伸が止まらないな…。

どうしたものか…。

そんなことを考えてる間にも。


「あふぅ…」


…締まらないなぁ。

風華はピンピンしてるってのに…。


「ふあぁ…」

「寝不足ですか?」

「ああ…そんなものだ…」


厨房に入って席に座ると、急な眠気がする。


「………」

「隊長」

「……!ど、どうした」

「寝てきたらどうなんです?無理は禁物ですよ」

「あ、ああ…すまない…」

「謝られても困ります。ほら、これ、飲みます?」

「ん…なんだ…これは…」

「特製の飲み物です。ほら、グイッといって」

「むぅ…」


何か…変な匂いがする…。

うぅ…。


「……!」

「ど、どうです?」

「不味い…」

「そうですか…なるほど…」

「なるほど?」

「あ、いや、こっちの話です」

「お前…オレで実験してたのか?」

「いやぁ…そういうわけじゃないんですけどね~…」

「その後ろに隠してるものを見せろ!」

「あ!ダメですってば!」


ん?

これは…。


「…睡眠導入剤ですよ」

「睡眠導入剤?」

「薬じゃなくて、良い眠りに効果があると言われてるものをかき集めて作ってみたんですが…」

「ふぅん…」

「さあ、朝ごはん、出来ましたよ。これ食べて、今日はゆっくり寝てください」

「他に誰か飲んだのか?」

「いえ。さっき作ったばっかりなので」

「自分で飲んでみたのか?」

「昨日飲んでみました」

「どうだったんだ」

「よく眠れましたよ」

「そうか」

「はい。さ、これ食べて」

「ああ」


よく眠れたって…火事のことは知ってるんだろうか…。

まあ、いいか。


「む…?なんだこれ…」

「どうしました?」

「味がない…」

「えぇっ!?」


少し取って味見をする。


「…もしかして」

「どうした?」

「す、すみません!さっきので味覚が麻痺してるかもしれません!」

「え…?」

「これがですね…人によっては副作用があるとは聞いてたんですが…」


と言って、睡眠導入剤の材料の中から半分に切られた何かの実のようなものを出す。

…何か、ちょっと禍々しいかんじがするんだけど。


「本当にすみません!すぐに治るみたいなんですが…」

「あぁ、もういいよ。昼は…あれだから、夜、上手いものを食わせてくれ。それでいいから」

「すみません!」

「じゃあな。ご馳走様。あれ、ありがとな」

「いえ…すみません…」

「気にするな」


肩を軽く叩いてやって、厨房をあとにする。

むぅ…。

さっきのが効いてきたのか、厨房を出るとすぐに猛烈に眠くなってきた…。

部屋まで行けるかな…。


「おっと、危なっかしいな」

「ふむぅ…?ひぬちよかぁ…」


フラフラと倒れそうになったところを受け止めてくれたのは利家。

朝ごはんを食べにきたんだろうか。


「呂律が回ってないな。何か悪いものでも飲んだのか?」

「ちゅうぼふのひゃつに…ちょっとにゃ…」

「ふぅん…またあとで聞いとくか…。それより、どこに行くんだ?」

「はたしのへやにゃ…」

「狼なのに、ニャーニャー言って…」

「いいじゃにゃひかぁ…」

「ほらよっと…」

「はわっ!?」


突然、私を抱き上げる。

そして、ちょうどそのとき角を曲がってきた衛士と目が合ってしまった。

そのまま、そいつは角の向こうへと再び姿を消した。


「そんなフラフラじゃたどり着けもしないだろ」

「は、はじゅかしいのら…」

「分かった分かった」


眠気のせいで充分な力も出ず、結局縮こまって大人しく運ばれるしかなかった。

顔が熱いよ…。


「顔、真っ赤だぞ」

「むぅ…」


いつも通ってる道のりも、今日は随分と長く感じられた。

こんな恥ずかしいことってあるだろうか…。

朝っぱらから子供のように抱きかかえられて部屋まで送っていってもらうなんて…。

いつまでも続くと思われたこの時間も終わりを告げ、ようやく布団の上に下ろされる。


「はい。眠気を解消するには、寝るのが一番」

「ふむぅ…」

「お休み」

「ぅん…」


利家の姿が次第にぼやけて…。



目を開けると、風華が見えた。


「風華…?」

「あ、起きた?」

「今…何時だ」

「そうだね~…もうすぐ午の刻かな」

「そうか…」


もっと眠ってたかと思ったけど。


「昼にどこかに行く予定でもあったの?」

「どうして」

「厨房の人が言ってたよ。昼は食べないって」

「あぁ、また市場に行こうと思ってな」

「じゃあ、私も行こうかな」

「…でも、やってるのかな」

「やってるでしょ」

「そうかな」

「うん」


そうだよな…。

焼けたのは市場とは反対方向だし、それに、こんなときだからこそ商売をやるんだ。

少しでも、活気を分け与えられるように。


「それにしても、このお城って意外と広いんだね」

「なんで?」

「焼け出された人、みんなお城に収容出来たじゃない」

「空き部屋はいっぱいあるからな」

「そういうの、無駄じゃないの?」

「こういうとき、役に立つだろ?それに、演出でもあるんだ」

「演出?」

「これだけたくさんの部屋がある、これだけ広い城に住んでる、という演出だ」

「ふぅん…よく分からないけど…」

「金持ちであることを示すには、広い家を建てるのが一番だろ?まあ、この城は軍事目的で建てられたものだが、そういう見栄も入ってるだろうな。こうやって大きな城を建てることで、王としての威厳も保てる」

「へぇ~…。あ、ところで、調子はどう?」

「調子?」

「うん。なんか変なの飲まされてたみたいだから」

「変なの…」

「兄ちゃんが言ってたよ。ダルイルの毒を大量に摂取してる可能性があるって」

「ダルイルの…毒?」

「うん。まあ、人によって効果はまちまちなんだけど、主に催眠作用、副作用として、各神経の麻痺だとか筋肉の弛緩だとかが見られるね」

「ふぅん…」

「で、よくよく聞けば、味覚の麻痺も見られたし、全身脱力も見られた。ダルイルが何かに混じってたのかなぁって」

「あ…あの変な果物…」

「変な果物?」

「ああ。こう…表面が黒くて、中身が白いんだ。蜜柑の色違いみたいなので…」

「あぁ…それがダルイルだよ…。厨房の人、兄ちゃんが行ったときには材料を全部捨てちゃってたみたいで…」

「捨てた?」

「うん。いくら良い睡眠が取れるといっても、こんな不味いものは誰も飲まないだろうって」

「ふぅん…」


それを飲まされたんだけど…。


「まあ、ダルイルで良かったよ。同じ催眠作用でも、もしヤングルだったら危なかったよ」

「ヤングル…?」

「うん。ダルイルの何百倍もの催眠作用があるんだ。同じ量を摂ってたら、永遠に目が覚めないところだったよ。それに、副作用も幻覚症状だとか被害妄想だとか、きついものばっかりだし。正しく使えば問題ないんだよ?一万倍くらいに薄めて飲むの。そしたら、八時間は眠れる」

「へぇ…」


でも、あいつはダルイルかヤングルか、すら知らなかった。

ということは、私…死にかけてたの…?


「薬草、薬品の類は、まず薬師(くすし)さんに相談してから摂取した方がいいよ。素人が半端な知識で扱うと、大変なことになる可能性もあるからね」

「そうだな…」

「身に染みて分かったってやつ?」

「ああ…。薬師ってのは、医務班のやつらでいいのか?」

「うーん、そうだね。年配の方なら大丈夫だと思うよ」

「ふぅん…。風華は?」

「わ、私!?ダメダメ!全然!薬師さんとは程遠いよ!」

「でも、さっき、すっごく詳しそうだった」

「ダメだよ!わ、私なんて…。兄ちゃんは薬師さんだけど…」


風華の正面に座り、ジッと目を見る。


「自分を卑下したらダメだ。どうせ自分なんて…と考えるたびに、未来の可能性を潰している。器を小さくすればするほど、入れられる未来の量は少なくなっていくんだ。過信するのは禁物だが、自分に自信を持って。器を大きく持つんだ。分かるか?」

「…うん」

「じゃあ、風華。薬のこと、お前に聞いても良いんだな?」

「うん。兄ちゃんに負けないくらい、いっぱい勉強してる。絶対、薬師さんになりたいから。未熟かもしれないけど、私の分かる範囲でなら答えるから、聞いて」

「そうか。頼りにしてるぞ、薬師さま」

「もう!姉ちゃん!」

「くっ…ふふふ」

「笑わないでよ~!」


前に約束してもらったことも果たしてもらわないといけないしな。

楽しみにしてるよ。

自他ともに認める、薬師さま、風華を。

いいですね。夢があるって。

風華には是非とも頑張ってほしいです。

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