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夕飯の席。

今日は珍しく、灯が隣に座ってきて。

何か異様に目を輝かせているけど…。


「変な夢見ちゃったよ」

「ふぅん」

「聞きたい?」

「別に」

「そんなこと言ってぇ。聞きたいんでしょ?」

「お前の夢の話なんてどうでもいいからな」

「聞いてよ~…」

「聞いてほしいなら、そう言えよ」

「ホント、意地悪だよねぇ…」

「どうも」


灯はムッとした顔を見せる。

頬を引っ張ると、なかなか面白い顔の出来上がりだ。


「言いたいなら言えよ。聞いてやるから」

「言う気がなくなってきた」

「じゃあ、言わなくていい」

「聞いてよ!」

「どっちなんだ」

「むぅ…」

「なんだか調子がいいな、紅葉」

「そうか?」

「ああ」

「じゃあ、そうなんだろ」

「いつも通りの、意地悪お姉ちゃんだよ!」


灯が机を叩く。

それにビックリして葛葉が稲荷を落としたものだから、美希が睨み付けて。

でも、灯はそれに気付かずに憤慨し通す。

と、不思議そうな顔をしながら、風華がこちらに歩いてきた。


「灯、何叫んでるの?」

「あっ!風華!聞いてよ!お姉ちゃんがいじめるんだよ!」

「ふぅん」

「ふぅん…って!」

「なんか、姉ちゃん、楽しそうだもん。それならそれでいいのかなって」

「風華まで!」

「それで、何の話だったの?」

「えっ?あ、夢の話だけど」

「夢?どんな?」

「こう…お母さんがね、目の前に立ってニヤニヤ笑ってる夢」

「ニヤニヤ…?微笑んでたとかじゃなくて…?」

「それは分からないけど…。でも、笑ってた」

「ふぅん…。何の夢なんだろうね」

「さあ?」

「まあ、お母さんに何かあったんじゃない?嬉しいことが」

「そうなのかな…」

「きっとそうだよ」

「そっか…。何があったのかな」

「そこまでは分からないけど」

「また今度、聞いてみよっと」

「えっ?イタコ…?」

「違うよ…。お墓参り。なんかね、報告とかしたら、返事してくれてる気がして」

「ふぅん」

「お姉ちゃんだったら、本当に喋れるかもね」

「え?なんで?」

「お姉ちゃん、昔から霊感が強いから。あそこに白い犬がいるとか、大きな鳥がこっちを睨んでるとか、そんなことばっかり言うから、夜に厠に行けなくなって…」

「夜に厠に行けないのは、オレのせいだけじゃないだろ。父さんもたいがいだったし。それに、あれはだいたい嘘だ」

「えっ、嘘?」

「お前が怖がるのを見るのが楽しかったからな」

「えぇっ!そんなのってないよ!」

「まあ、三割くらいは本当にいたんだけど」

「えっ?三割?三割って、どの三割?ねぇ、教えてよ!」

「さあな」

「三つ目のお坊さんは?見上げるほどの狼は?百本足の百足は?」

「最後だけ、現実味があるね…」

「百足は霊じゃなくて、実際にいたからな」

「えぇっ!どこ?どこにいるの?」

「動揺しすぎだ。昔、山の中にいた百足が、なんでここにいるんだよ」

「えっ?」


間抜けな顔をする灯の頭を小突いておく。

まったく…。

こいつの臆病は治らないな。

夢に出てた母さんは、たぶん本物の幽霊だとか言ったら、引っくり返るかもしれない。

まあ、黙っておこうか。

あれはどうだ、これはどうだと聞いてくる灯はもう無視して、夕飯を食べることにする。



母さんが夢枕に立ってるかもしれないと思うと、おちおち寝てられなかった。

寝なければ、夢枕に立つこともないんだけど。

でも、なんだか落ち着かない。


「どうしたの?」

「ん?いや…」

「なんか、ソワソワしてるね」

「母さんに、夢枕に立つと言われたからな…」

「へぇ。霊感が強いって本当だったんだね」

「オレは、見えるものを見えると言っただけだ」

「今は何か見えるの?」

「そうだな…。風華の背中に、髪の長い女の霊が…」

「えっ!嘘っ!」

「…嘘だよ。そんなにたくさんいるわけじゃない」

「なんだ…」

「だから、三割程度だ。たぶん、風華が思ってる三分の一もいない」

「じゃあ、何か見られてるかんじがするのとかは?」

「単なる妄想か、あるいは、本当に見られているか。それは、その時々でないと分からない」

「えぇ…」

「霊じゃない可能性だってあるぞ?誰かが、本当に見ていることもある」

「なんか、そっちの方が怖いかも」

「まあな。幽霊は、オレたちに直接干渉してこないし」

「えっ?ホント?」

「人によって見えたり見えなかったりするものが、どうやって干渉してくるんだよ」

「じゃあ、皿屋敷の話とかはどうなるのよ」

「さあな。実際に見てないから分からないけど、たぶん、お菊さんの身内による犯行だろうな。お菊さんを殺された恨みを…とか」

「お菊さんって、身内なんていたっけ」

「知らないよ。まあ、幽霊に呪い殺されたなんて話は、たいがい幽霊の仕業に見せ掛けた犯行…というやつだろうな」

「ふぅん…」

「とにかく、不気味な気配を醸し出しながらそこにいるというようなやつはいるかもしれないけど、呪い殺したりするようなことは出来ないと思う」

「ふぅん…」

「まあ、オレの経験則でしかないんだが」

「なんだ…。じゃあ、そういうのもいるかもしれないってこと?」

「世界は広いからな」

「えぇ…」

「ははは。大丈夫だよ、たぶん。せいぜい夢に出てくるくらいだ」

「それも怖いよ!」

「さあ、寝ろ寝ろ。お休み」

「寝られないよ!」


なぜか私の布団に潜り込んできて、ギュッと服を握り締める風華。

…どこにいても一緒だと思うけどな。


「風華の夢に出てみよっか」

「やめとけ。印象悪いぞ」

「あはは、そっか」


まったく…。

少し考えたら分かることだろうに…。

しかし、幽霊って何なんだろうな。


「さあね。心の分身じゃないかな」

「それだけじゃない気がする」

「まあ、世界は広いってことだよ」

「なんでもそれで片付けようとするなよ」

「そうだね~」


相変わらずな様子に、少し噴き出してしまって。

それから、ゆっくり目を瞑ると、ほんのりした温かさを感じた。

…少し訂正だな。

直接干渉が出来ないわけじゃない。

こうやって、伝えてくれることがある。

そういえば、昔に会った幽霊もそうだった。

あのときも、伝えてくれた。

私が、忘れていたんだ。


「お休み、紅葉」

「お休み」

「お休みって言ったって、怖くて寝られないよ…」

「いいから寝ておけ」


風華の頭を小突くと、何かブツブツ言ってたけど。

…お休み、お母さん。

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