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「明日のことを考えたりはするか?」

「なんだ、いきなり」

「私は、長い時を生きてきた。長い時を生きていると、長い時を生きているから、一日一日が愛おしく思えてくるんだよ。若い頃のことなぞは覚えてないんだ。とにかく、時間が惜しかったとしか覚えていない。愛おしいなど、思ったことはなかった」

「ふぅん」

「お前はどうだ。若いお前は、今このときを愛おしいと思うか?」

「どうだろうな。でも、そういうことは、年を取ってから分かるんじゃないのか?」

「まあ、そうかもしれんが」

「…時間は惜しいさ。そう言われれば、愛おしいとも思うし」

「そうか。その程度なんだな」

「あまり意識したことなんてないかもしれないな。こうやって広場の子供たちの様子を見ながら、ゆっくりと時が流れていくのを感じたりして」

「ははは。かつての私なら、耐えられなかったかもしれないな」

「無駄にしているとは思ってないよ。こうやってあいつらを見てる時間も、有意義な時間だ」

「そうだろうな。お前は、子供たちを見ているときが一番生き生きとしている」

「なんだ。他のときは死んでいるようだと言いたげなかんじだな」

「極端だな、お前は」

「そうとも受け取れるということだ」

「それを、へそ曲がりというんだ」


カイトは翼を広げて火の粉を落とす。

少し怒ったんだろうか。

まあ、それも面白いかもしれない。


「しかし、お前と話しているのは楽しいな」

「そうか?」

「私に対しても、何の隔たりなく話してくれる。ここの者たちは、皆そうだが」

「ふぅん…。隔たりなくとはどういうことだ?」

「自慢ではないのだが…私は、自分の世界では長と呼ばれる者と肩を並べるほどだとされている。だから、ほとんどの者は、私を特別視するのだよ。こうやって気軽に話せるのは、長や五元素を司る者たちくらいだ」

「ほぅ」

「だから、お前のような若い者と話す機会というものがない。貴重な体験だ」

「昔はどうだったんだ」

「ははは。同じ歳の者と話すのなら、今だって変わらない。毎日、万年星空の下に寝転がってるジジィと話すのは、確かに楽しいさ。昔は昔で、若者同士、他愛もない話に花を咲かせていたように思う。しかし、歳の離れた者と会話する機会など、そうそうあるまい。私は、そういうことを言いたいのだ」

「まあ、分かってるけどな」

「そうだろうな」


カイトは、からかうように首を傾げる。

…歳の離れた者と気楽に話す機会がない、か。

私は、そうは感じないけどな。

城の中でも歳を取った者はいるし、そいつらと話すことも多い。

衛士長や普通の衛士なんて階級は、今となっては本当に形だけのものであるし…まあ、私に対して敬語を使うことはあれど、気を遣うことはない。

私がそう思っているだけかもしれないが、しかし少なくとも私は、この城では歳や階級の上下関係を感じない。


「いい環境なのだな」

「ああ。たぶんな」

「ふふふ。たぶん、か。当事者には分からないのだろうな」

「分からなくてもいいさ」

「まあ、そうかもしれないな」


空を見上げると、雲がゆっくりと流れていた。

カイトも、それを見ていて。

いや、何を見ているかは、私には分からないけど。

空に飛ぶ鳥から見れば、私たちはみんな同じ地面を歩いているんだろう。

年齢も何も関係なく。

でも、実際に歩いている私たちは、そんなことは分かりもしない。

自分と他人の間に壁を作って。

…私たちが正しいのだろうか。

それとも、鳥が正しいのか。

カイトは何を見てきたのか。

私は、何を見るのだろうか。

今はまだ、答えは見つからないようだ。


「何を考え、何を思う。私は私であるために。あなたがあなたであるために」

「徒々記だな。本も読むのか?」

「いや、かつての若者が詠んだ歌だ。名も知らぬ、若者が」

「ふぅん」

「徒々記か。そういえば、あの若者も旅をしていたな。自分が何を求めているのかを探すために旅をしていると言っていた。その意味が、若かったあのときの私には分からなかった」

「今は分かるのか?」

「ようやく分かり始めたところだ。あの若者も、私と同じように、分からなかったのかもしれない。だから、ずっと探していた」

「そうか」

「求めるものとは何であるか。求めるものなど、あるのだろうか。しかし、私は進む。立ち止まることを、私は許さない。…妙に詩人気取りであったな、あいつは」

「面白いやつだな」

「一緒にいると、退屈で仕方ないぞ?たまに言うのであればいいが、口を開けばこんな風であったから、喧嘩は日常茶飯事だった」

「ははは。いつもは辛いかもしれないな」

「かもしれない、ではなく、辛かったのだ。今でこそ、笑い話ではあるが」

「大変だっただろうな、そいつも。お前みたいな偏屈が相棒で」

「偏屈は向こうだ」

「ふふふ」


意地になるところを見ると、そいつのことがよっぽど好きだったらしい。

でも、なんでいきなりそんな話を始めたんだろうな。

よく分からないけど。

まあ、さっきまでの話で、何か思い出すことがあったんだろう。

…それにしても、カイトの若かった頃の話か。

あまり覚えていないとは言っていたが…気になるな。

また上手く聞き出してみよう。

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