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目が覚める。

望は、昨日と同じように眠っていて。

…約束したからな。

ずっと一緒だって。

望の頭をそっと撫でる。

太陽が、ちょうど山の向こうから顔を出すところだった。


「………」

「ひゃっ!?」

「シーッ」

「な、なんだ、犬千代、驚かすなよ…」

「別に驚かすつもりはなかったんだけど」

「…何だ」

「怒るなよ」

「怒ってない」

「そうかな?」

「…早く用件を話せ」

「ちょっと、望の様子を見にきただけなんだけど。昨日、紅葉を捜してたみたいだったし。何かあったのか?」

「…私が死ぬ夢を見たらしい」

「ふぅん」

「それで、優月草の種まで貰って」

「犬姫と忠狼の伝説だね」

「ああ。話そうかとも思ったんだが」

「また話してあげるんだろ?」

「そうだな。また、みんなにもな」

「うん」


ニッコリと頷く。

それから、少し真剣な顔に戻って。


「…ごめんな」

「何が」

「なかなか一緒にいられなくてさ」

「お前は、この国の王だ。女にかまけるより、ずっと大事な任を負っているだろ?」

「はは、女にかまけるときたか」

「………」

「でも、僕は一国の王であると同時に、大きな家族の一員だ。この城の、この国の、家族の一人だ。そして、紅葉は、その中でも一番大切な人の一人。僕の愛する妻だ。…それだけじゃ、一緒にいる理由にはならないかな」

「………」


正直なところ、分からない。

利家は、私の夫である以前に、この国の王だから。

私個人のために、束縛されるわけにはいかないから。

でも、私は…。


「考えることじゃないと思うよ」

「ふ、風華?起きてたのか?」

「姉ちゃんが悲鳴なんて上げるから」

「ご、ごめん…」

「それはいいよ、別に。それよりも、さっきの話だけど。どうせ、王が先か、夫が先か、なんて考えてたんでしょ?」

「………」

「そんなの、どうだっていいんだよ。兄ちゃんは、姉ちゃんの夫であり、この国の王である。ふたつ同時に成立することなんだから。考えることなんて、何もないでしょ?」

「…そう…かもな」

「うん」


確かに、風華の言う通りなのかもしれない。

でも、やっぱり…。


「それにしても、二人とも朝からよくも恥ずかしげもなく」

「えっ?」

「みんな、いつ起きるともしれないのにさ。私みたいに」

「あ…」


言われて初めて気付いたけど、最初に上げた悲鳴で誰かが起きるとも考えなかった時点でかなりの不注意なのに。

それに加えて、聞かれるには少々恥ずかしい話をしていたとは、不注意の域を越えている。


「まあ、誰も聞いてなかったみたいだし、いいけどね」

「………」

「あはは、気にしない気にしない。聞かれても、どうせみんな分かってるんだし」

「僕も不注意だったよ。ごめん」

「いや…」


そういう問題じゃないんだけどな…。

とにかく、風華に聞かれてしまっていたのが…。

恥ずかしい…。



厨房の椅子に座る。

望は心配そうに顔を覗き込んでくるけど。


「お母さん、大丈夫?」

「ん?ああ…大丈夫だよ」

「なんだ、紅葉。朝に何かあったのか?」

「まあな…」

「ふぅん。紅葉でも、そんなことがあるんだな」

「そりゃな…」

「何があったんだろな。望は知らないか?」

「……?」

「そうか、知らないか。よかったな、紅葉」

「お前、楽しんでるだろ」

「分かるか」

「お前なぁ…」

「まあ、そのうちにいいことがあるだろ。気を長くして待っていれば、必ず来るからさ」

「はぁ…」


いいこと悪いことじゃなくて、さっきのあれがあったということ自体が一番の悩みの種であり、いいことが来ようとも、あのときのあの恥ずかしい思いは消せないわけで…。

なんでだろうな。

利家が絡むと、ほとんど必ずこういう目に遭ってる気がするんだが…。


「さて、朝ごはんだ。腹がいっぱいになれば、嫌なことも忘れるさ」

「忘れられないよ…」

「ほら、望。卵焼きのオマケだ」

「わぁ、ありがと」

「たくさん食べて、たくさん遊ぶんだぞ?」

「うん!」


望は笑顔で答えて。

…私も負けてられないな。

しっかり食べて、全部忘れよう。

いや…出来るだけ忘れよう。

忘れよう。


「忘れよう」

「紅葉。言葉に出てるぞ」

「えっ?」

「はぁ…。お前、気付いてなかったのか?」

「お母さん、何を忘れるの?」

「いや…。別になんでもないよ…」

「そうなの?」

「ああ。…ところで、どうだ、望。昨日よりは落ち着いたか?」

「うん。今日はね、いい夢を見たんだよ」

「へぇ、どんな夢だ?」

「えっとね、えっとね…」


望はそこで止まって、グルグルと考え始める。

必死に思い出そうとして。

でも、なかなか思い出せないらしい。


「うーん…」

「無理に思い出さなくていいよ」

「でも…」

「いい夢っていうのは、すぐに忘れるものだ。それは、いい夢が心の奥に仕舞われた証拠なんだ。そうやって、嬉しいこと、楽しいことで心をいっぱいにしていってるんだ」

「そうなの…?」

「ああ」

「じゃあ、望の心の中にも、いい夢がいっぱい?」

「ああ、いっぱいだ」

「えへへ。じゃあ、思い出せなくてもいいんだね」

「そうだ。いつか、心がいっぱいになるまで、そっと仕舞っとくんだぞ」

「うん!」


やっと見れた。

望の笑顔。

本当の、笑顔を。

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