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外周を回り、散歩が終わる頃には、太陽も山の上に出てきていて。
でも、朝ごはんにはまだ早い時間のようだった。
伊織と蓮は、帰ってくるなり休憩だとか言ってゴロゴロしだすし。
「もうちょっとシャキッとしたらどうだ。特に、伊織。あの程度でバテるとは…」
「ゥウ…」
「運動不足なんじゃないのか?あんまりダラダラしているとな、そのうち、尻に根が生えて動けなくなるぞ」
「……?」
「ああ、本当だ」
「………」
「嫌なら、運動することだな」
「ォオン…」
引き籠り生活が長かったせいか、伊織はすっかり出不精になってるな。
外で遊ぶくらい、嫌がることもないだろうに。
身体も元気になったんだから、少しずつでも外に出ないと。
「まあ、子供たちやセトと遊ぶくらいでいいから、ちゃんと身体を動かしておくんだぞ」
「……?」
「どこって…。洗濯場と厨房だけど…」
「ワゥ!」
「ついてこなくてよろしい」
「ゥウ…」
「それより、昼に備えて休んでろよ。朝ごはんを食べる前から消耗しすぎるのもダメだし」
「ゥルル…」
「オレは、さっきはお前の背中に乗ってただけだからな」
「ゥウ…」
「ずるくはないさ。お前たちは朝ごはんまで休憩。オレは、誰か起きてないか見に行く。それだけのことだ。自分たちでも休憩って言ってたじゃないか」
「………」
「じゃあな」
ブツブツ文句を言う二人を置いて、家を出る。
そのまま洗濯場に回ってみるけど、やっぱり誰もいなかった。
すぐそこの出入口から城の中に入り、厨房へ向かう。
「…と、そういえば」
用事を思い出した。
回れ右をして、厨房とは反対方向に進む。
…そういえば、今日は夜勤組に会わないな。
珍しいこともあるものだ。
「あっ、隊長。おはようございます」
「噂をすれば影、か?」
「えっ?なんです?」
「いや。夜勤明けか?」
「はい。今からお風呂に入って、一眠りしようかと」
「そうか。ご苦労だったな」
「いえ。ありがとうございます」
「…そういえば、調理班はまだだったか?」
「そうですね。今日は寝坊大魔人ですし」
「そうか。じゃあ、自分で作った方が早いかもしれないな」
「あはは、そうですね。仕込みは済んでるみたいですし」
「まあ、今日の朝ごはんは、洗濯のあとだな」
「そうですね。寝坊大魔人にも困ったものです」
「ああ」
「…では、これで失礼させていただきます」
「ああ。ご苦労さま」
剛はもう一度お辞儀をして、風呂場へと向かっていった。
私も、目的地を目指す。
…しかし、朝ごはんが洗濯のあとなんて、結構酷だな。
今から大魔人を起こしに行ってもいいが…。
まあ、このあとだな。
しばらく歩いて、目的地に到着。
ひんやりとした空気の中、階段を降りていく。
一番下は真っ暗だったので、明り窓を開ける。
昨日、ユタナが入れられてた部屋を覗くと、やっぱりいた。
桜かユカラか、ちゃんと布団を敷いてあって、ユタナはそこで寝ていた。
アルヴィンは来たのだろうか。
分からないが、まあいい。
起こさないように、また階段を上がっていく。
ユタナの姿を確認出来ただけで、今は充分だから。
再び廊下に出て。
「さて…」
寝坊大魔人だな。
真っ直ぐに、大魔人の部屋を目指す。
布団の上で目を擦る香純を横にはねのけて、布団を片付けてしまう。
まったく、手間を取らせるやつだ。
「隊長~…。まだ早くないですかぁ…?」
「お前、今日の当番だろ」
「あ、そうでした」
「そうでしたじゃない。早く着替えろ」
「むぅ…。仕込みはしてありますんで、隊長が朝ごはんを作るというのは…」
「何か言ったか?」
「いえ…。すみません…」
適当にその辺の服を叩きつけると、香純は欠伸を圧し殺しながら着替え始める。
こいつの朝寝坊は昔からだけど、一向に治る気配がないな。
いや、起きるだけマシなのか…?
灯なんかは起きないし…。
「ふぁ…」
「お前、朝寝坊を治そうとは思わないのか?」
「んー…。そうですねぇ…。でも、種族的にも朝はどうしても苦手で…」
「何言ってるんだ。同じ梟でも、辰紀は早起き出来てるじゃないか」
「辰紀は特別なんですよ。私はもう眠くて眠くて」
「…毎朝起こしにきたら、治るかな」
「や、やめてくださいよ。寝不足で死んじゃいます!」
「お前、昨日はどれくらいに寝たんだ」
「え?えっと…戌の刻くらいですかねぇ」
「寝すぎだ、お前は」
「夜は苦手なんですよねぇ」
「梟のくせに…」
「あはは、そうですね」
「とにかく、お前は当番の日くらい早起きするべきだ。ほとんど朝昼兼用じゃないか」
「努力はしますけど…」
「頼りないな」
「すみません…」
しかし、ここで長話をしている間にも、空腹の度合いは進んでいる。
…こいつを少しでも厨房に近付けるのが先決だな。
「まあ、詳細については、歩きながら話そう」
「えっ?」
「お前を起こしにいく当番を決めないとな」
「えっ、いいですよ、そんなの!」
「でも、起こしにいかないと起きないだろ?」
「それは…」
「やっぱり、起こしにいかないと」
「い、いいです!」
「遠慮しなくてもいいんだぞ」
「え、遠慮なんてしてません!」
「ふぅむ…。やっぱり辰紀に頼むのが一番いいかな」
「た、隊長~…」
「ははは。じゃあ、次に寝坊したら、それも考えるぞ」
「うぅ…。結局、変わらないですよ…」
「ということは、寝坊する予定なんだな」
「ち、違います!」
「どうせ決めるなら、今決めてもいいな」
「勘弁してください…」
そんな調子で、空腹を紛らせる。
…厨房までの道のりが長いな。