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短い間に癖になってしまったのだろうか。

まだ山の稜線が少し明るくなったかどうかというあたりで、目が覚めてしまった。

もう一度寝るにしても、なぜか今日は目が冴えていて。

…仕方ないな。

とりあえず布団から出て、どうするかを考えてみる。

部屋を出ると、冷たい空気が肌を撫でる。

少し寒いが、まあこのままでも耐えられる範囲ではあるな。

廊下を進んで階段へ。

そのまま降りていく。

そういえば、ツカサはまた市場だろうか。

さっき、部屋にはいなかったけど…。

まあ、何かに熱心になるのはいいことだ。

訓練なんて二の次。

街のために働いてるなら尚更な。

階段を降りきって、どこに行こうかと思案してみる。

ふぅむ…。

朝風呂もいいが、一人で入るのは寂しいし…。

厨房に行っても、誰もいないのは明らか。

広場に行って、セトとウトウトするのもいいけど…。

まあ、今日は伊織と蓮のところに行ってみるか。

裏口を出て、さらに裏に回る。

伊織と蓮の家に着いてみると、風華が開けていったのだろうか、窓がいくつか開いている。

そこから中を覗いてみると、二人は真ん中あたりで眠っていて。

…布団はちゃんと二つあるのに、二人はひとつの布団に固まって寝ている。

そして、二人が寝るだけにしては広すぎる家は、少し物哀しいかんじがした。

まあ、とりあえず家に入り、余っている布団を真ん中まで持ってきて、二人の横に寝転がる。

適度に暗い家の中は、冴えていたはずの目に、ゆっくりと闇を重ねていく。

二人の姿も、そのまま薄れていった。



生温かい感触。

そして、ずっしりとした圧迫感。

このかんじは、よく知っている。


「おい、お前ら、顔を舐めるな」

「ォオ…」

「分かったから。そこからどいてくれ」


半ば投げ飛ばすように二人をどかせて起き上がる。

まったく…。

いつから顔を舐められていたんだろうか、かなりベタベタなんだけど…。


「ワゥ!」

「なんで自分たちだけで行かないんだよ…」

「……?」

「そりゃ、ここで寝てたけど…」

「ワゥ!」

「分かった分かった」


二人に急かされて立ち上がる。

窓から外を見てみると、やっとこさ太陽が山の上から顔を出そうかというところで。

四半刻くらいしか寝られなかったのかな。

…散歩くらい、二人だけでも行けるだろうに。

なんで私を起こすんだ…。


「ワゥ!ワゥ!」

「ん?なんだ、それは」

「ワゥ!」

「首輪?なんでまた…。お前たち、本当に犬みたいだな…」


誰が買ったのか、おそらく特製の首輪を咥えてきた二人。

ご丁寧に、簡単には切れなさそうな太い縄も付いている。

とりあえず、首輪を着けて縄を持ってみるが…。


「丸っきり、大きい犬の散歩だな…」

「ゥルル…」

「おい、待て。注意しておくことがある」

「……?」


伊織はすぐに立ち止まって首を傾げるが、蓮はグイグイと引っ張るので、思いっきり縄を引いてこちらを向かせて。

少し咳き込む蓮を睨み付けて、話を進める。


「見ての通り、オレとお前たちでは体格に大きな差がある。それに比例して、力の差もあるだろうな。お前たちが強くて、オレが弱い」

「ゥウ…」

「何か言ったか」

「………」

「まあ、この首輪と縄があるということは、オレ以外の誰かと散歩することもあるかもしれないということだ。そのときに、さっきの蓮みたいなことになると、だいたいのやつはズルズルと引きずられるだろうことは想像に難くない。それは分かるだろ?」

「ゥウ…」

「言いたいことはひとつだ。誰かと散歩したいなら、相手に合わせろ。それを守れないで、誰かが怪我をしたともなれば、即刻この首輪と縄は没収する。分かったな?」

「………」

「分かったのか?」

「ゥウ…」「ワゥ…」

「よし。じゃあ、行こうか」

「ワゥ!」


こうなることは予測済み。

相手に合わせろということは、相手の力が自分より上ならば遠慮する必要はないということ。

つまり、私が相手なら全速全開で走り出してもいいということだ。


「そら、行け!」

「ワゥ!」


二人が走り出したと同時に縄を引いて飛び上がり、蓮の背中に乗る。

あっという間に広場に出て、セトの鼻先を掠め、まだ半分閉まってる正門へ突っ込む。

寝惚け眼で門を開ける門番の背中を叩いて、そのまま横を抜けて。

振り返ってみると、今日の門番…吾郎は、何が起こったのかと周りを見回していた。

橋を渡ったあと、すぐに左へ舵を取る。

二人は素直に曲がって、城の外周へ。

外周の森を一気に駆け抜けていく。

…しかし、これは散歩というのか?

ただ首輪を着けて走り回ってるだけのような…。

まあ、本人たちが楽しんでるならいいけど。

それより…


「ハッ、ハッ…」

「おい、伊織、大丈夫か?」

「ゥウ…」

「蓮、止まれ。少し休憩だ」


蓮の首輪を引っ張って止める。

遅れ気味だった伊織も追い付いて、横で止まる。

伊織はかなり息が切れてるな。

心配そうに、蓮も伊織の顔を舐める。

それから、息を整えさせるために少し歩かせて。

何の準備もなく、いきなり走るのはやっぱり無理があったか。

これからは、ちゃんと管理してやらないとな。

…しかし、それにしても、この程度の距離で息が切れるとは、軟弱すぎやしないか?

運動不足なんだろうか。

まあ、その辺も、きちんと見ておかないといけないだろうな。

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