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昼ごはんを食べてからも、さっき寝ていたせいか昼寝もせず、サンはかなり元気だった。

医療室の中を走り回ったり、いろんなものを触りたくったり。


「サン。あんまり変なとこ触っちゃダメだよ」

「うん」

「危ないものだってあるんだから」

「危ないもの?」

「素手で触ったら、漆みたいにかぶれて腫れ上がる草とか。その草の俗称がニバイソウって言うんだけど、触った部分が二倍以上に膨れ上がるからなんだ」

「へぇ…」

「なんで、そんなものを置いてるの?」

「薬に使うからだよ」

「あ、そりゃそうか」

「擂り潰したものに水を入れて煮沸したら、漆とかのかぶれものに効く塗り薬になるんだよ」

「えぇ~、逆に酷くなるんじゃないの?」

「毒をもって毒を制す、か」

「うん。まあ、そんなかんじかな」

「なんか信じられないなぁ…」

「じゃあ、実際にやってみる?ニバイソウのかぶれをニバイソウの薬で治すことも出来るよ」

「遠慮しときます…」

「そう。残念」


そして、また擂り粉木を動かし始める。

…擂り鉢の中には何か不気味な色のものが入ってるけど、あれも薬なんだろうか。


「気になる?」

「まあ…少し」

「これの水分を飛ばしながら練っていったら、いつもみんなが使ってる胃薬になるんだよ」

「ほぅ…」

「あ、そういえば、姉ちゃんは使ったことないよね」

「胃が丈夫だからな」

「桜はしょっちゅうお腹を壊すから、いつもいっぱい用意しておかないといけないんだ」

「風華!」

「…しょっちゅうって、何を食べてるんだよ、お前は」

「何って…お腹空いたときに、スクンとか…」

「まさに、道草を食ってるわけだね」

「あのね、桜。スクンによく似た毒草があるって、前にも話したよね?」

「うっ…」

「あと、厨房の上の方の棚にしまってある団子とかは傷んでるからな」

「えっ、そうなの?」

「あれは、加熱処理をしてから、子供たちが食べない料理に混ぜて使うためのものだ。隠してあるおやつじゃないぞ。当然、腹も下す」

「えぇ…」

「盗み食いなんかするからダメなんだろ。ちゃんと当番に言えば、作ってくれるんだから」

「その場で作るの?」

「他にどこで作るんだ」

「作り置きとかは?」

「たぶんしてないと思うけど」

「えぇ…。なんでさ?」

「お前みたいなやつがいるからだろ。勝手に食べて腹を下されても困るからな」

「うぅ…」

「今度からは、当番に言うんだぞ」

「はぁい…」

「桜の真似をして、つまみ食いをするチビがいないとも限らないし…」

「今のところ、桜以外に何かに中ってお腹を壊したような子はいないかな」

「それならいいけど」

「桜がそれだけ意地汚いってことだよね~」

「ユカラ!」

「あはは、冗談冗談」

「あながち冗談でもないけどな」

「うぅ…」


桜はガックリとして、何か唸っている。

しかし、本当に棚の傷んだおやつを食べてるとはな。

いつチビたちが手を出すかも分からないから、置いておく場所を変えるように言っておいた方がいいかもしれない。


「これ、何?」

「サン。あんまりわけの分からないものを持ってくるな。危ないものかもしれないだろ」

「それは薬包紙だよ。薬を包むんだ」

「ふぅん」

「まあ、普通の紙なんだけどね、この部屋にはいろいろ危ないものもあるから、何か聞きたいときにも絶対に触らないで。私を呼べば、ちゃんと教えてあげるから」

「はぁい」

「それは私が戻しておくから、ここに置いといて」

「うん」


薬包紙を風華の横に置いて、サンはまた走り出す。

割と広い部屋だから、多少暴れても薬品棚にぶつかったりすることはないんだけど、可能性はなくならないんだから、いちおうしっかりと見張っておく。


「そういや、マオはどうしたんだ。勉強するんじゃなかったのか?」

「子供たちの面倒を見るのも、立派な勉強だよ。怪我の処置の仕方とかは最初に教えておいたから、ちょっとの間だけ実習。人を相手にするんだから、人との接し方を学ばないと。座学だけでは何にもならないんだよ?」

「それはそうだが…」

「そんなこと言って、風華が休みたいだけなんじゃないの?」

「それもあるかな」

「えぇ…」

「マオ、気負って頑張りすぎてるから。ツカサと一緒だね。姉ちゃんみたいに朝早く起こされることはないけど」

「ああ。あれはやめてほしかったな」

「もうやめたんでしょ?」

「そうだな。代わりに、街へ走り込みに行って、そのまま市場の誰かに捕まってるんだけど」

「昨日は八百屋さんにいたよね。新鮮な野菜の見分け方とか、ちゃんと知っててさ」

「何の話をしてるのかと思ったら、そんな話をしてたのか」

「まあね。他にもいろいろ話してたけど」

「何だ」

「気になる?」

「別に」

「じゃあ、教えない」

「えぇっ!すっごく気になるよ、ボクは!」

「あはは。なんで桜が気になるのよ」

「だって…」

「お姉ちゃん、風華お姉ちゃん!」

「あ、サンが呼んでるし、またあとでね」

「えっ!ちょっと、待ってよ!」

「姉ちゃん、これ、ゆっくり混ぜておいて」

「分かった」

「風華!あとでって言って、絶対教えない気なんでしょ!」

「お、教えてあげるから、手を離してよ…」

「絶対だからね!」「お姉ちゃん!」


桜とサンの板挟みになって。

とりあえず、桜の手を離させる。

風華はそのままサンのところに行き、桜はまだ何か駄々をこねている。

まあ、いちおうは大人しくなったので、桜の頭を少し小突いてから、擂り粉木を手に取る。

…しかし、この薬はすごい匂いだな。

服に染み付くのも分かる気がする。

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