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市場は結構な賑わいだった。

まあ、いつも通りか。

威勢の良い声が、あちこちから飛んでくる。


「ところで、お香屋さんなんてどこにあるの?」

「オレは知らないけど」

「まあ、誰かに聞いてみたらいいんじゃない?」

「そうだね」


ナナヤはキョロキョロと辺りを見回して、声を掛けやすそうな人を探す。

そして、目の前にちょうどいい人が現れて。


「あのー、すいません」

「はい」

「あっ、ツカサ!」

「ん?ナナヤか」

「うわぁ、奇遇だねぇ」

「…お前、俺と分かって声掛けただろ」

「あれ?分かる?」

「はぁ…。それで、何か用か」

「何してるの?」

「荷出しだ」

「なんで?」

「また頼まれたんだよ」

「誰に?」

「八百屋だ、今日は」


後ろの店を指差して言う。

店先には野菜が並べられているし、確かに八百屋のようだ。


「とにかく、俺は仕事中だから…」

「おぉい、ツカサ!ちょっとこっちに来てくんねぇか!」

「はい、ただいま!」

「いや、ちょっと待て」

「え?」


ツカサを止めて、八百屋の中に入っていく。

奥では、この店の店主らしき人物が、ゴソゴソと何かをやっていた。


「すまねぇな。ちょっとそれを下ろしておいてくれねぇか」

「それってのはこれのことか?」

「ん?誰だ?」

「どうも。うちのツカサが世話になってるみたいだな」

「あっ。あんたはたしか…衛士長か!」

「ああ」

「す、すみませんねぇ…。魚屋に、いい仕事をするのがいるって聞いて…」

「存分に使ってやってくれ。あいつには、もっとこの街、この国について知ってもらわないといけないからな」

「は、はぁ…」

「で、どうなんだ。実際のところは」

「はぁ。一所懸命に働いてくれてます。大助かりでさぁ」

「そうか。それならいい」

「は、はい…」

「まあ、よろしく頼んだぞ」

「分かりました…」

「それでだ。この辺に、お香を売ってる店はないか?」

「お香、ですか。お香はねぇ、表通りより裏通りの方がいいですよ。表通りのは、主に土産用で。裏のは普段使いのやつでさぁ。まあ、匂いもしますんで、すぐに見つかると思います」

「そうか、ありがとう」

「いえいえ」

「じゃあ、よろしく」

「はい」


店主に簡単に別れを告げて、表に戻る。

表では四人が何か話し込んでいたけど、私が来るのを見て、話すのをやめた。


「あ、来た来た」

「文句言ってきたの?」

「まあな」

「へぇ。お店の人、かなりびっくりしてたんじゃないの?」

「どうだろうな」

「お姉ちゃんが殴り込んできたら、誰でもびっくりするでしょ」

「別に殴り込んではないけどな…」

「まあ、とにかく、お香を買いに行くなら裏通りの五十鈴屋に行けばいい。あそこは、品揃えが豊富で安いんだ。逆に言えば、それなりのものしか置いてないってことだけど…」

「ツカサ、すっかり下町っ子だね」

「えっ?」

「一日半しか働いてないのに、お薦めのお店まで紹介出来るなんて」

「いや…。それはたまたま通りかかっただけで…」

「ん?そういえば、ツカサ、なんか良い匂いがするね」

「あ、あまり匂うなよ…。焚き染めてもらったんだよ、その五十鈴屋さんに…」

「ふぅん。そんなにすぐにやってもらえるの?」

「いや、昨日に羽織だけ渡しておいたんだ。たぶん宣伝のためだろうけど、焚き染めておいてやるからって」

「汗臭かったんじゃないの?」

「えっ…。そうかな…」


首のところを引っ張って、匂いを嗅いでみる。

でも、やっぱり自分の匂いというのは分からないもので。


「姉ちゃん…。俺、汗臭いかな…」

「さあな。でも、オレは汗の匂いは嫌いじゃないぞ?」

「そう…なのか?」

「ああ。まあ、オレ自身が汗臭いかもしれないし」

「そ、そんなことないよ…。良い匂いだよ…」

「ツカサって、お姉ちゃん大好きっ子だね」

「なっ!」

「図星かな?顔、真っ赤だよ」

「ナナヤ!」


ツカサは怒鳴るけど、ナナヤはもう向こうの方へ逃げていて。

諦めてこちらを見るけど、さっきのが効いているのか、私の方を見た瞬間にまた顔を赤くして俯いてしまった。


「と、とにかく、裏通りに行けば分かるから…」

「ああ。ありがとう」

「う、うん…」

「じゃあ、行こうか」

「ナナヤは?」

「適当についてくるだろ」

「えぇ…」

「ほら、行くぞ」

「あ、あ、待ってよ」


ずっとニコニコして行く末を見守ってた光の手を取って、さっさと行ってしまう。

風華が慌ててついてきて。

ナナヤは…どこか行ったままだけど。


「ねぇ、お母さん」

「ん?」

「わたしね、ツカサお兄ちゃんの、あの匂い、好きだよ」

「ツカサに直接言ってやれよ。喜ぶぞ」

「うん…」

「恥ずかしいか?」

「…うん」

「そうか」

「お母さんが、カシュラから帰ってきたとき、また家族が増えたって、みんなで、喜んでたんだ。ツカサお兄ちゃんも、ナナヤお姉ちゃんも、みんな来てくれて、とっても嬉しかったよ」

「そうだな」

「だからね、わたし、みんなのこと、もっと知りたいな」

「ああ」

「ま、待ってよ…。何の話してたの…?」

「さあな」

「えぇ…」


光と示し合わせて。

風華はすっかり息が上がって、もう一度聞く気力もないみたいだけど。

…とりあえず、呼吸を整えるまで待とうか。

しかし、この程度で息が上がるとは、風華も運動不足らしい。

一緒に訓練しようなんて言っても、断るだけだろうけどな。

まあ、今ので本人が一番よく分かっただろうから、私がとやかく言うことはないだろう。

どんな策を講じるのか、楽しみにしておこうか。

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