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昼過ぎ。

チビたちと一緒に、自分の部屋の屋根縁でウトウトと日向ぼっこをして。

いや、正確には、チビたちに混じって桜にユカラ、ナナヤやマオ、あとは、桐華なんかもいて、広くない屋根縁は大混雑しているんだけど。

しかし、今日はいいかんじの陽気だな…。

私の膝を枕にして眠っているサンを撫でる手の感覚も朧ろになっていくのが分かる。


「お前も昼寝か」

「いいじゃないか。たまには」

「ふむ」


霞む視界の中に現れたのはカイトだった。

少し身を震わせて火の粉を散らすと、布団と一緒に干してあった毛布のうちの一枚を、そっと望に掛ける。

望は一度寝返りを打つと、毛布にくるまって、また静かに寝息を立て始めた。


「愛らしいものだな、我が主も」

「お前にも、誰かを愛でるという感覚があったのが驚きだ」

「私自身もそう思う。長らく、こんな感情はいだかなかった。しかし、やはり、主に仕えることで分かることがたくさんあるな。私が生きてきた中で、これほどまでに一刻一秒が惜しいと思ったときはなかった」

「はは、えらく壮大な話だな」

「そうでもない。私も、ひとつの生命を生きるものの一人だからな。お前たちとなんら変わるところはないのだぞ?」

「まあ、そうかもしれないな」


適当に返事をしたことが分かったのだろうか、少し不機嫌そうに翼をはためかせて、たくさんの火の粉を落として。

不思議なことに、どんな大きさの火の粉でも、地面や誰かに当たる直前に燃え尽きてしまう。

そして、それをジッと見ているうちに、私の瞼も重くなってきた。


「眠たいときは寝るといい。寝ることは罪ではない」

「ああ。でも、お前の話し相手がいなくなるぞ?」

「いいさ。話し相手がいなくとも、有意義な時間を過ごす方法はいくらでもある。たとえば、我が主の寝顔を観察するのもよかろう」

「その視線がオレに注がれることがないことを祈っておこう」

「寝顔を見られるのは嫌いか?」

「無防備な姿を晒しているんだからな」

「はは、無防備とはな。お前がよく言う」

「昔と違ってな、今はいちおう熟睡出来てるんだ。邪魔しないでくれ」

「狼の生活が長かったからな、お前は」

「…ああ」

「まあ、あまり話し込むのも悪いからな。そろそろ切り上げる。ゆっくり寝ることだ」

「すまないな」

「いや、謝ることはない」

「オレの寝顔は見るなよ」

「保証しかねる」

「まったく…」

「ははは」


そうやって笑うと、また羽ばたいて。

それから、静かに唄を歌い始めた。

普段の重低音ではなく、鳥が口笛を吹いているような、そんな声で。

何の唄かは分からないけど、すごく心地の良いかんじがする唄だった。

どこか、懐かしいかんじがする…。



目が覚めると、カイトはいなくなっていた。

代わりと言ってはなんだが風華がいて、せっせと布団を取り込んでいた。


「あ、姉ちゃん。起きた?」

「ああ。手伝うか?」

「いいよ。どうせ、これで終わりだし」

「そうか…」

「ありがと」


最後の布団を部屋の中に運んでいって、ほどなく帰ってきた。

そして、私の隣に座る。

いつにも増して艶のあるように思える綺麗な黒髪が風になびいて、風華のものとは違う、何か別の匂いが漂ってきた。


「香油か?髪の」

「うん。カシュラのお土産だって静香さんから貰ったから、付けてみたんだ」

「ふぅん…」

「何の香りだと思う?」

「金木犀の匂いを薄めたようなかんじだな。独特の甘い匂いが似てる」

「当たり。金木犀の香りなんだって。私、金木犀の甘ったるいかんじの匂いはあんまり好きじゃないんだけど、これは好きかな」

「そうか。それなら、静香も買ってきた甲斐があったというものだな」

「うん、そうだね」

「確か、朝はしてなかったよな」

「うん。なんか、使うのが勿体なくて」

「でも、そのまま置いといて腐ったりしても勿体ないぞ」

「そうなんだよね~。難しいところだよ」


そう言いながら、葛葉の頬を引っ張る。

さっきまではサンが私の膝枕で寝ていたはずだが、いつの間にか葛葉になっていた。

サンはというと、今度は桐華の腹枕で眠っていた。


「私ね、最初は姉ちゃんのこと、恨んでたんだよ」

「なんだ、突然」

「あ、最初って言っても、姉ちゃんに会うずっと前だよ?桜が捕まる、ずっとずっと前。そのときはさ、国の上の方にいる人なんて、王と衛士長くらいしか知らなかったから。だから、苦しい生活を強いられるのも、王とその従臣である衛士長のせいだと思ってたんだ」

「それが事実だ」

「ううん。帰ってきた桜に話を聞いてから、あの広場で磔にされてる姉ちゃんを見てから、姉ちゃんも私たちと同じ、王に苦しめられてるうちの一人なんだって分かったんだ。兄ちゃんがずっと言ってた通りだってね」

「………」

「噂や建前だけで人を判断しちゃいけないって、耳にタコが出来るくらい言われてたんだけどね。でも、本当に目の当たりにするまで信じられなかったんだ」

「そうか」

「うん。兄ちゃんにも、さっき話したんだけどね。人間はそういうものなんだって」

「じゃあ、犬千代は何なんだろうな」

「あ、そうだよね。何なのかな。見ないうちから、姉ちゃんのことを信じてたなんて」

「聖人か?」

「はは、それはないね。兄ちゃんだって普通の人間だよ。たぶん」

「たぶんって何だよ」

「まあ、いいじゃない」


風華はカラカラと笑って。

私の夫をいいように言ってさ。

まあ、風華の兄でもあるんだけど。

…利家だって、無闇に他人を疑いたくなかったんだろう。

お人好しと言えば、そうなのかもしれないけど。

なぜ王だけを疑い、私を信じてくれたのかのも分からない。

でも、結果として、暴虐の王は追放され、私はこうして生きている。

それでいいような気がした。

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