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「ふぁ…」

「ちゃんと見てる?」

「見てるけど…。なんだって、またこんな朝早くから…」


空もまだ白み始めたばかりという頃、ツカサに起こされてしまった。

誰かを起こしても悪いから、広場に場所を変えて。

またセトに背中を預けながら、ツカサのやることを眺めてみる。


「朝からやらないと、不安だから…」

「ん?」

「だって、明日にでもどこかの国が攻めてくるかもしれない!そんなときに、のんびりしてられないよ…。みんなを守らないと…」

「だから、それが焦りだって言ってるんだ。焦りは失敗しか生まない。ナナヤを見てみろ。いつでも自分の調子を崩さず、ゆったり落ち着いてるじゃないか」

「ナナヤは落ち着きすぎなんだよ…」

「はぁ…」


ツカサは拳を強く握って。

…あの六人の中で一番歳上だからって、一人でいろいろ背負い込もうとしてるんだな。

今までがそうだったから。

いや、そう思っていたから、だろうか。


「ツカサ。ちょっと来い」

「………」

「来いって」

「………」


少し伏し目がちになって、こっちへ来る。

横に座らせると、セトが興味深そうに匂いを嗅いでいた。


「セト。お前はあとだ。オレに話をさせてくれ」

「ゥルル…」

「よし、良い子だ」

「ウゥ…」

「さて、ツカサ」

「…焦ってるのか、俺?」

「焦ってるな」

「俺は…すぐにでも姉ちゃんの役に立ちたいんだ…」

「その気持ちは嬉しいけどな。戦闘員として役に立てるようになるには時間が掛かるんだ。焦る気持ちも分かるけど、それはそれと割り切って。戦闘員としてダメなら、戦闘班として働けばいい。戦闘班は、戦うだけの班じゃないんだぞ?」

「戦闘班の戦闘員としては働けない…。半人前以下じゃないか…」

「半人前がどうしたんだ。最初から一人前のやつなんていない。半人前なら半人前らしく、明日の何かを心配するんじゃなく、今日に何をすべきか考えろ」

「………」

「諦めなければ、いつかは一人前になれるんだ。それがいつか…なんてのは分からないけど。焦る必要はないんだよ」

「少しでも早く、は…」

「少しでも早く一人前になりたいなら、焦らないことだ」

「…分かった」


ツカサは立ち上がると、外門の方へ歩いていった。

途中でこっちを向いて尻尾を振って。

街に行ってくるということだろうな。

私も軽く手を振って応えておく。

…まあ、一人で考えたいときもあるだろ。

大切なことだ。

ゆっくり考えてこい。



気がつくと、もう日は昇っていて。

…またセト布団で眠ってしまった。

心地良いから、すぐに寝てしまうな…。


「ゥルル…」

「そうだな。まあ、そのうち帰ってくるんだから」

「ウゥ…」

「大丈夫だよ、あいつは。強いから」

「………」

「そうだな。明日は、自分の部屋で寝たいけど」

「ウゥ…」


セトが顔を舐めてくれた。

こいつは、身体は大きいくせに、気が弱いんだから。


「はは、冗談だ。また来るよ」

「ゥルル…」

「そうだ。寂しいなら、伊織と蓮に来てもらえばいいじゃないか」

「ウゥ…」

「お前の方が身体は大きいのに。まあ、あいつらは気は強いかもしれないな。特に伊織は」

「ワゥ!」

「噂をすれば影だ」


伊織がバタバタと走ってきて、セトに体当たりする。

セトは何か情けない声を出して。


「ワゥ!」

「おはよう。すっかり元気になったな」

「……?」

「ここに来る前は栄養失調でフラフラだったじゃないか」

「ウゥ…」

「好き嫌いするからダメなんだろ?城に来てからは、ちゃんと食べてるんだろうな?」

「………」

「はぁ…。お前な。みんなが一所懸命お前たちのごはんをどうするか考えてくれてるのに」

「ウゥ…」

「分かってるなら、なんで残すんだ」

「………」

「嫌いなものは嫌いってな、お前…」

「ワゥ…」

「蓮に食べてもらうとか、そういう問題じゃない。お前のために作ってくれたものは、お前が食べないと全く意味がないんだ。分かるか?」

「………」

「分かるなら、もう残すな。…いや、残すなとは言わないから、少しずつでも減らしていけ。分かったか?」

「ワゥ…」

「約束だ」

「………」


伊織は、私の腹に額を擦りつけて。

…私が謝られても意味ないんだけどな。

まあ、またあとで言っておこう。


「あ、お姉ちゃん。こんなとこにいたんだ」

「灯か?」

「うん」

「珍しいな、こんなに朝早く」

「今日、伊織と蓮のごはん当番だからさ、美希に叩き起こされたんだよ…」

「そうか。それはよかった」

「本気で言ってる?」

「ああ。本気だ」

「はぁ…。不幸だよ、私は」

「早起きさせられたくらいで何が不幸だ。そんな下らないことを言ってる暇があるんだったら、調理当番の手伝いでもしてこい」

「いいよ、そんなの。当番も、まだ起きてきてないし」

「まったく…。調理班は、なんでそんなに寝坊助ばっかりなんだ?」

「寝不足じゃ、美味しいごはんは作れないからね。調理班は、どの班よりも体調管理に気をつけて、毎日美味しいごはんを作らないといけないんだよ」

「それはそうかもしれないけど、寝坊は褒められたものではないからな」

「分かってる分かってる」


いつも通りの軽い返事。

不安だな…。


「…ところで、お前は何しに来たんだ」

「伊織と蓮のごはんを持ってこようと思ったんだけど、作ってそのまま厨房に忘れてきたから、今から取りに戻ろうと思ってたところ」

「はぁ…。お前なぁ…」

「あはは。じゃあ、伊織。先に戻ってて」

「ワゥ!」


元気よく返事をして、また駆けていった。

灯も、軽く手を振って城に戻っていって。

そして、またセトと二人きりになった。

…まだ早いし、もう一回寝るか。

私も、調理班のことを言えないかもしれないな。

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