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「そういえば、ツカサはどうしたの?」

「さあ?どこかに行って、こっちには帰ってきてないけど」

「えぇ~。姉ちゃんが泣かせたんじゃないの?」

「そんなことないよ…」

「ふぅん?」


風華はニヤニヤしながら、焼き鮭を私の皿に置いて。

なんで、私がツカサを泣かせないといけないんだよ…。


「ナナヤは元気だよね。私より歳下なんだっけ?」

「そうだな。十四だから、二つ歳下だな」

「大変だよね。そんな歳で、無理矢理盗賊に入れられてさ。マオに聞いたんだけど」

「同情はあいつらを傷付けるだけだぞ」

「うん…。分かってるけど…」

「強い子たちだよ、あの子たちは。心配しなくても。お前がする心配は、どうやってマオに薬師としての知識や心得を教えるかということだ」

「あれ?姉ちゃんにはまだ話してないって言ってたのに」

「だいたい分かるよ、雰囲気とかでも」

「そうなの?」

「ああ」


そうか。

マオは医務班に行ったか。

まあ、好きなことをしてくれたら、それが一番だ。


「一所懸命だよ、マオ。私が前に書いてた目録あるでしょ?あれ、読んでくれててさ」

「ふぅん」

「医療室に行ったら、熱心に読んでたから声掛けたんだけど。そしたら、医務班に入りたいって。みんな、よく怪我をするから、治してあげたいんだって」

「怪我、か」

「うん。怪我」


そう言って、風華は少し伏し目になって。

…マオが治したい怪我というものの中には、そういう怪我も含まれているということだろう。

目に見えないだけに、治療も難しい。

でも、マオならやれると信じてる。

私たちも、出来るだけ手伝うから。


「ねーねー!」

「ん?葛葉。美希はどうした?」

「あっち」


葛葉の指さす方を見ると、美希が恨めしそうにこちらを見ていた。

…そんな目で見られても、私が葛葉を呼び寄せたわけじゃないんだし。

とりあえず、葛葉を膝の上に乗せて頭を撫でてやる。


「ん~」

「それで、どうしたんだ?」

「えっとね、葛葉ね、今日はいっぱいあそんだよ!」

「へぇ。何して遊んでたんだ?」

「かくれんぼだよ。葛葉があたりだったの」

「そうか。誰か見つけられたか?」

「うん!響とね、光とね、あと、リュウ!」

「龍ばかりだな…」

「うん。それでね、おひるごはんはおにぎりだったの」

「オレたちと一緒に食べただろ?」

「うん。ねーねーとお母さんといっしょに食べた!」

「美味しかったね」

「うん!おいしかった!それでね、いっぱいおひるねしたの」

「よく寝てたな。こんなことをしても起きないくらいに」


葛葉の頬を引っ張ると、楽しそうに笑って。

よく伸びるから、いろんな方向に引っ張ってみて、いろんな変な顔を作ってみる。


「ん~」

「そういえば、葛葉。ごはんはちゃんと食べてきたのか?」

「あ、まだだった」

「じゃあ、食べてこい」

「うん」


私の膝から飛び降りると、また美希のところに走っていって。

美希も千切れんばかりに尻尾を振って迎えていたけど。

まったく、あいつの葛葉への依存には呆れるものがあるな。

まあ、それだけ葛葉を好きだってことなんだけど。

…とりあえず、私たちもごはんの続きとしようか。



シンと静まり帰った中、みんなの寝息と、少しだけ虫の声が聞こえる。

ツカサはどこに行ったんだろうな。

さっき美希が、心配ないとは言ってたけど…。


「紅葉お姉ちゃん…」

「ん?」

「………」


…寝言か?

イナの頬を引っ張ってみるけど反応はない。

寝言だったようだ。


「イナ、お姉ちゃんのことが好きになったみたいだね」

「こいつを取っ捕まえた張本人だけどな」

「あはは、そうだね。でも、イナにはそういうのも必要だったんじゃないかな。止めてくれる誰かがさ。私たちには出来なかったけど…」

「………」

「…私たち、戻れるのかな。みんなと同じところにさ」

「出来ないと思うのか?」

「…分からない」

「自信がないのか?」

「私たちは…黒く染まりすぎたから…」

「どうしてそう思うんだ?」

「盗賊をやってたことは一生消えないんだよ。私たちは、その汚名を背負い続ける」

「そうだろうな。でも、ここにはそんなことを気にするやつはいないぞ?」

「そんなの、分からないじゃない。みんな、何を考えてるのかなんて分からない…」

「分からないさ。でも、そういう風に考えるよりも、みんなを信じる方が楽なんじゃないのか?前にも言ったかもしれないけど」

「………」

「お前は、人に対して臆病になりすぎているだけなんだ。一度、誰かを信じてみないか?オレじゃなくていい。風華でも美希でも。…ここにいるやつらは、絶対にお前を裏切らない。…それは、約束出来るから」

「信じて…いいの…?」

「ああ」


ナナヤは、そっとこちらへ移ってきて。

それから、私の胸に顔をうずめる。

頭を撫でると、感情が一気に溢れてきたようで。


「信じていいんだよね…。みんなを…」

「ああ」

「みんなを信じて…」

「私も、ナナヤを信じる。だから、ナナヤも私を信じてくれないか?」

「うん…うん…」


今日流した涙はきっと、明日の力になるから。

だから、泣きたいときには泣けばいい。

私が受け止めてあげるから…。

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