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ツカサとナナヤは、さっきの桐華との闘いを見てから、少し動きが良くなった。
戦っている間に、相手の行動を分析するようにしたらしい。
私もそれに応えて、少しずつ戦い方を変えていく。
「やぁっ!」
「だから、お前はなんで真っ直ぐ突っ込むしか能がないんだ」
「それがぼくの戦い方だから…!」
身体を捻って、投げようとする桐華からすり抜ける。
それから距離を取って…。
「うわっ!」
「ん?」
「あ、危ないだろ!」
「すまない。それで、どうしたんだ、美希」
美希が、そこにいた。
大きな包みを持って。
この匂いは…おにぎりか。
「昼ごはんの差し入れだ」
「あぁ、すまないな」
「もうすぐ、みんなも来るから」
「え?」
「ほら、みんなもこっちに来て!昼ごはんにしよう!」
「ふぃ~。やっとお昼だよ~」
「あー、もうそんな時間かぁ」
「………」
「紅葉も手伝ってくれ」
「ああ…。それはいいけど…」
「みんなって、チビたちのことだよ。あとは風華も。久しぶりに、みんなで食べようって」
「あぁ…。そういうことか…」
とりあえず、美希に渡された敷き布の端をツカサ、ナナヤ、桐華の三人に持たせる。
そして、大きく広げて。
睨みを利かせていたからか、桐華は途中で離して上に乗る…なんてことはなかった。
それから美希は、丁寧に弁当箱を並べていく。
「お母さん!」
「サンか」
「えへへ」
サンが、私の部屋から飛んで降りてきた。
しっかりと受け止めてやると、嬉しそうに翼をパタパタさせて。
「みんなは置いてきたのか?」
「んー」
「どうせすぐに来るし、別にいいけどな…」
「飛べるのって便利だよね~。私も飛べるようになりたかったよ」
「虎に翼は聞いたことあるけど、熊に翼はないな」
「そういえば、翼はあっても、響や光なんかはあんまり飛ばないよな」
「ああ。龍の翼はそもそも、飛ぶための翼じゃないらしいしな」
「えっ、そうなのか?」
「龍が飛ぶときは"風"に乗り、急停止するときや方向転換するときに、翼を使うらしい」
「へぇ…」
「鳥の翼とはまた違うんだな」
「じゃあ、サンは?」
「どうだろうな。見たところ、蝙蝠の翼にも似てるけど…」
「お母さん、くすぐったい~」
サンの翼をいろいろと触ってみるが、よく分からない。
分かるのは、響たちと違って鱗がないということか。
やはり、蝙蝠の翼によく似ているんだけど、違うような…。
「ねーねー!」
「葛葉。ん?少し、髪が整ったかんじがするな…」
「さっき、私がちょっとだけ揃えてあげたからだよ」
「風華」
風華は鋏で髪を切る仕草をする。
そうか、やっぱり切ったんだな。
「伸ばした方が綺麗かなって思うんだけど、どうかな」
「そうだな…。もともと綺麗な髪だしな」
「うん」
「ん~」
「でもまあ、長くなったら尻尾の邪魔になるんじゃないか?」
「あー、そうだね」
「そういえば、すごい尻尾だよね。九尾なの?」
「うん。九尾だよ、この子は」
「へぇ~」
「珍しがってるお前も、割と稀少種だけどな」
「紅葉お姉ちゃんには言われたくない」
「そうだね。銀狼ってかなり少ないもんね」
香具夜と私で、この城には二人もいるわけだけど。
まあ、一通り稀少種が集っているこの城では、逆に珍しくないことなのかもしれない。
葛葉は、ナナヤに頭を撫でてもらって、かなりご機嫌だった。
「お母さ~ん」「あ、みんな、いるよ」
「響、光。なんだ、それは」
「お味噌汁だよ~」
「灯からか?」
「うん」
「まったく…。こんな重たいのを運ばせて…」
サンを片手で抱いて、空いた手で味噌汁の鍋を受け取る。
そして、それを美希に渡して。
「それで、器はどうした」
「貰ってないよ」
「箸…もだな。本当に、あいつは…」
「お母さ~ん」
「望」
「これ、灯お姉ちゃんから」
「ああ。ありがとう。しかし、なんであいつは自分で持ってこないんだ」
「さあな。とりあえず、こっちに貸してくれ」
「ああ」
美希に渡して、望の頭を撫でてやる。
望は尻尾をパタパタと振って。
「リュウはどうした」
「うん。さっきまで一緒にいたんだけど、灯お姉ちゃんがまだあるからって」
「また灯か。文句を言わないといけないな…」
「灯もこっちに来たいんだろ。あんまり言ってやるな」
「いや、なんで子供たちに運ばせるんだよ」
「一人では運べない量だからだろ」
「だからと言って、味噌汁やら何やらを子供たちに運ばせるなよ。オレたちだっているんだから、呼べばいい話だろ」
「いやぁ、ちょうどいいところに通っていくからさぁ」
と、灯がリュウと一緒にやってきた。
灯は美希に負けない大きな包みを持って、リュウは食器を持っていた。
「お前な、ちょうど通りかかったからって、なんで子供たちに運ばせるんだよ」
「えぇ…。それ以上の理由はないけど…」
「はぁ…。なんで、オレたちを呼ばないんだ」
「行って、また戻ってこないといけないでしょ?」
「それくらいの往復が何なんだ」
「いいじゃない。みんな、率先して手伝ってくれたんだし」
「はぁ…」
「まあまあ。それより、昼ごはんにしよう。あと来てないのは誰だ?」
「マオたちと…祐輔と夏月かな」
「そうか」
「久しぶりに、賑やかなお昼ごはんになりそうだね。葛葉なんて、姉ちゃんが城にいないってだけで、本当に火が消えたみたいでさ」
「そうなのか、葛葉?」
「ん~」
ニコニコと笑って、私に抱きついてきた。
まあ、寂しがってくれてたなら嬉しいけどな。
さてと。
サンを下ろして、私も座る。
チビたちを座らせてる間に、残りのみんなも来て。
久しぶりの、ワイワイと賑やかな昼ごはんだな。