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「はぁ…。二人とも、元気だね…」
「お前がだらしないだけじゃないのか」
「キツいこと言わないでよ…。いちおう、私は伝令班なんだから…」
「鍛練が足りてないんだよ」
「はぁ…」
香具夜はセトにもたれて座り込んでしまった。
…仕方ないな。
しばらく休ませておこうか。
「よし。じゃあ、次に行こうか。お前たちは、体力だけはあるみたいだしな」
「ちょっと待ちなさい」
「え?」
「もう、姉ちゃん!なんで洗濯を抜け出すのよ!」
「えっ、いや…。新人訓練も大切だと思ったから…」
「そんなわけないでしょ!みんなのこと優先!ほら、ツカサもナナヤも来なさい!」
「あ、ああ…」「はぁい…」
「みんな、頑張ってね~」
「香具夜も!」
「えぇ…」
「文句言わない!」
帰って早々これなのか…。
まったく…。
風華には敵わないというか…。
「いっぱいあるんだからね。ほら、急いで」
「はいはい」
広場を横切って、城の裏へ行く。
気になるんだろうか、セトもついてきていた。
「帰っていきなり抜け出すなんて信じられないよ!」
「まあまあ」
「訓練より何より、まずはみんなのこと!基本なんだからね!」
「さっきも言ってたぞ」
「五月蝿い!ツカサ!」
「す、すみません…」
「望だって、ちゃんとやってくれてるのに。望よりずっと大人のくせして、なんでものの優先度も分からないの?」
「心はいつまでも少女だからな」
「そうだね~。紅葉の頭の中はお花畑だもんね~」
「香具夜の花畑には負けるな」
「私は、ちゃんと大人だからね」
「そうか。じゃあ、もう枯れたんだな。可哀想に」
「むっ…。枯れてないよ。ちゃんと綺麗に手入れしてあるんだからね」
「オレは、自然は自然のままが一番綺麗だと思ってるからな」
「どっちも、結局は花畑なんじゃない」
「風華のはどうしたんだ。荒れ地か?」
「もう!なんで私の方に飛び火してくるのよ!」
「火?それは大変だ。早く消さないと、花畑が燃えてしまう」
「そういう話じゃないでしょ!」
「くっ…あはは」
ナナヤはもう我慢出来ないという風に笑いだして。
まあ、可笑しいだろうな、今のは。
話してるこっちは、割と真剣になってるんだけど。
「もう…。姉ちゃんのせいで笑われたじゃない…」
「そういうこともあるさ」
「はぁ…」
「気にするな。種を分けてやるから。それを植えて育てるんだ」
「そうそう。すぐに綺麗な花畑になるよ」
「だから!荒れ地じゃないって!」
「あはは、ホントに面白いね。笑いが止まんないよ」
「それで、お前の花畑はどうなんだ?」
「私?私はどうかな。紅葉お姉ちゃんと同じかな。自然は自然のまま。それが一番」
「そうか」
「うん」
「じゃあ、ツカサはどうなのかな?」
「えっ、俺ですか…?」
「そうそう」
「俺は…」
「ツカサは盆栽だね!」
「ナ、ナナヤ…」
「なんか、縁側で地味にやってるかんじ」
「ナナヤは、そう感じるんだな」
「うん。お姉ちゃんは?どう感じる?」
「さあな。秘密だ」
「えぇ~、ずるいよ」
「まあ、いいじゃないか」
「んー…」
納得の行かないように唸ってはいるけど、中ではそこまででもないようだ。
私の、ツカサに対しての印象は…まあ、あれだな。
…と、そんなことをしている間に、洗濯場に着いた。
「ねーねー!」
「葛葉。どうしたんだ」
「えへへ」
「葛葉も可愛いにゃあ~」
「ナナヤ!」
「ん~。抱き締めてあげる!」
「きゃう~。くすぐったい~」
「葛葉。ナナヤお姉ちゃんの邪魔しちゃダメでしょ?」
「うぅ~…」
「唸ってもダメ。ほら、葛葉も手伝いなさい」
「うん」
葛葉は近くの桶のところに座って、見よう見真似でゴシゴシとやる。
隣に座ってるマオは、葛葉の様子が気になるようで、たまに何か教えてるようだった。
「ほら、姉ちゃんもボーッとしてないで」
「ああ」
「マオ!私も混ぜて~」
「うん」
「あれ?ツカサは?」
「向こうのサンと望の桶の方に行ったぞ」
「そっか。じゃあ、私と姉ちゃんのいつもの班だね」
「えっ、私は?」
「入りたいのか?」
「当たり前だよ!」
「まったく、仕方ないな…」
「えへへ、どうも」
香具夜も桶の前に座って。
さて、いつものお喋り組が揃ってしまったな。
「それでさ、カシュラはどうだったの?大変だった?」
「いや、あんまり」
「そうなんだ」
「ああ」
「あの子たち、盗賊団の団員だったらしいね」
「そうだな」
「へぇ、あんな子供たちがねぇ」
「まあ、意図したものではないらしいがな」
「ふぅん。いつの間にかってかんじ?」
「ああ」
「そっか」
「ところでさ、ちょっと気になったんだけど、ツカサのあの首飾りと、ナナヤの指輪…」
「あぁ、あれか。あれには、何かの術式が刻んであるんだと思うんだけど」
「うん。反転の術式だね」
「そうか」
「でも、ちゃんと使えるのかな…」
「使えるが、かなり限定的なようだな。感情が昂ったときに、術式が働くらしい」
「そっか。力の制御が上手く出来てないんだね…」
「また風華が教えてやれよ。あの力は、あいつらにとっても良い方向に働くはずだからさ」
「うん。もちろんだよ」
「頼んだぞ」
「うん」
「ねぇ、何の話なの?」
「お前には分からない話だ」
「教えてくれたっていいでしょ?」
「教えても分からないだろ?」
「まあ、たぶん」
「じゃあ、嫌だ」
「むぅ…」
香具夜は不満そうに頬を膨らませる。
それを見て、風華はクスクスと笑っていて。
…久しぶりだな。
こういう、いつも通りの光景も。
カシュラも楽しかったけど。
でも、やっぱり、こっちも良いものだな。