表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
208/578

208

颯爽と広場に馬で乗り付ける。

出迎えは門番とセトだけ。

そういえば、帰るという連絡を忘れていた。

まあいいか。


「負けた…」

「良い馬だ。鹵獲(ろかく)した甲斐があったな」

「使うの?」

「まあ、いちおう厩もあるしな。騎馬が必要になったら働いてもらうかもしれん」

「そっか」

「この馬具もなかなかのものだな。盗品なのかな」

「さあ?調べてみる?」

「お前の好きなようにしろ」

「はいはい」


馬から降りて手綱を引っ張っていく。

桐華も同じようについてきて。

しかし、見張りすらいないのか?

まったく…。

ちゃんと指導しておかないといけないようだな。

門のところにみんなの馬車が来たのを見届けてから、厩に入っていく。


「おい、誰かいるか?」

「はいはーい。ちょっと待ってください」

「なんだ。ほとんどいないじゃない」

「戦闘班では、騎馬戦はほとんどしないからな」

「ふぅん」

「弓による中遠距離からの牽制と、投擲武器による中近距離戦闘。あとは、白兵戦、肉弾戦だな。オレは白兵戦から肉弾戦の距離が得意だけど」

「紅葉って、突撃するのが好きだもんね」

「そっちの肉弾戦じゃないぞ」

「え?」

「あ、隊長。お帰りなさい」

「ただいま」

「その馬、鹵獲でもしてきたんですか?」

「ああ。世話を頼めるか?」

「もちろん。そっちのは、桐華さんの馬ですか?」

「ぼくはいいよ。ここで一緒に世話してあげて」

「はぁい。それより、隊長が帰ってくるなんて聞いてませんでしたけど」

「連絡を忘れていたんだ。何か不都合でも?」

「そうですねぇ。葛葉ちゃんが寂しがってたから、早く報せてあげたかったですね」

「そうか。それは悪いことをしたな」

「みんな、隊長たちの帰りを待ってますよ。ちょうど夕飯の時間です。馬は僕に任せて、広間に急いでください」

「ああ、すまない。よろしく頼む」

「はい」


周平太は軽く手を振ると、馬を引っ張っていって。

お言葉に甘えさせてもらうとするか。

なんだか懐かしく感じる城の中へと入っていく。



真っ先に気付いたのは葛葉だった。

相変わらず、白と赤の巫女服のような着物を着ていて。

葛葉を連れたまま、風華の隣に座る。

…馬車組は先に広間に入ってたらしい。

ツカサたちは特に、熱烈な歓迎を受けていた。


「姉ちゃん。お帰り」

「ただいま。それにしても大騒ぎだな」

「そりゃそうだよ。新しい家族が増えたんだから」

「そうか」

「それよりさ。帰るなら帰るで連絡くらいくれてもよかったのに」

「忘れてたよ。まあ、いいじゃないか。変に歓迎会なんて開かれても困るし」

「うん。あ、そうだ。姉ちゃんがカシュラに行ってる間に、国境付近への派遣隊から連絡があったみたいだよ」

「そうか」

「気にならないの?」

「緊急なら、こっちにも伝令が来るはずだしな。近況報告程度だったんだろ?」

「うん。平和そのものだって」

「ああ」


まあ、そこまで心配することもないだろう。

私が自信を持って送ったやつらなんだから。


「さあ、姉ちゃんも食べなよ。今日の当番は美希だったんだよ」

「そうか。それは楽しみだな」

「葛葉。お稲荷ばっかり食べてちゃダメだからね」

「うぅ…」

「オレと半分こにしような」

「うん!」


箸を取る。

正面には、子供たちに今回の活躍を自慢げに語る桜が見えた。

あいつは刺し子をしてただけな気もするけど。

まあいい。

とりあえず、目の前にある稲荷寿司の山を崩しに掛かる。



葛葉はあっさりと眠ってしまった。

かなり興奮してたから、長期戦を覚悟してたんだけど。


「どうだった、うちの城は」

「うん。すごかった」

「はは、すごいか」

「………」

「どうした?」

「昨日のことだけど…」

「ああ」

「馬車の中で、みんなと考えた。自分でも、いろいろ考えた。それで、ここに来て分かった」

「………」

「みんな、ここでは家族なんだって。誰も、義務感やそんなのでここにいるんじゃない。ここにいたいからいてるんだ」

「ああ」

「だから、俺たちも…家族に入ってもいいかな」

「もちろんだ。みんなの答えも受け取っただろ?」

「…うん」

「歓迎するよ。お帰り、我が家へ」

「ただいま」


ツカサの頭を撫でる。

布団の中で、尻尾をパタパタ振って。

…お帰り。

ここは、お前たちの家だ。


「そういえば、所属って何なんだ?さっき、どこに入るのかって聞かれたけど…」

「戦闘班、伝令班、医務班、調理班の四つの班があって、衛士はみんなどこかに所属しているんだ。城で働く以上、お前たちもどこかに入ってもらうぞ」

「戦闘班、伝令班、医務班、調理班…」

「名前通りの仕事もあるけど、それ以外の仕事もある。途中で所属を変えることも出来るけど、それぞれの衛士たちに話を聞いたりして、よく考えて慎重に選べ」

「紅葉姉ちゃんはどこなんだ?」

「オレは戦闘班だ」

「戦闘班…か」

「ああ」

「望とかサンは、どこなんだ?」

「まだ小さいやつらは入ってないことも多い。サンはそっちだな。望は伝令班だ」

「そっか…」

「イナなんかはまだ早いかもしれないな」

「うん。それは、またみんなと相談して決める」

「ああ」

「…紅葉姉ちゃん」

「ん?」

「俺は…戦闘班に入りたい。きっと、ナナヤも」

「そうか」

「今日みたいに…置き去りにされるのは嫌だ。それに、守りたいものもあるから…」

「分かったよ。じゃあ、ナナヤの返答を聞いて、明日から少し訓練に入ろうか」

「うん…!」


新人訓練なんて、どれくらいぶりだろうか。

腕、なまってなければいいんだけど。

…ツカサたちは、上手く答えを出してくれたようだ。

その答え、いつまでも忘れてくれるなよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ