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颯爽と広場に馬で乗り付ける。
出迎えは門番とセトだけ。
そういえば、帰るという連絡を忘れていた。
まあいいか。
「負けた…」
「良い馬だ。鹵獲した甲斐があったな」
「使うの?」
「まあ、いちおう厩もあるしな。騎馬が必要になったら働いてもらうかもしれん」
「そっか」
「この馬具もなかなかのものだな。盗品なのかな」
「さあ?調べてみる?」
「お前の好きなようにしろ」
「はいはい」
馬から降りて手綱を引っ張っていく。
桐華も同じようについてきて。
しかし、見張りすらいないのか?
まったく…。
ちゃんと指導しておかないといけないようだな。
門のところにみんなの馬車が来たのを見届けてから、厩に入っていく。
「おい、誰かいるか?」
「はいはーい。ちょっと待ってください」
「なんだ。ほとんどいないじゃない」
「戦闘班では、騎馬戦はほとんどしないからな」
「ふぅん」
「弓による中遠距離からの牽制と、投擲武器による中近距離戦闘。あとは、白兵戦、肉弾戦だな。オレは白兵戦から肉弾戦の距離が得意だけど」
「紅葉って、突撃するのが好きだもんね」
「そっちの肉弾戦じゃないぞ」
「え?」
「あ、隊長。お帰りなさい」
「ただいま」
「その馬、鹵獲でもしてきたんですか?」
「ああ。世話を頼めるか?」
「もちろん。そっちのは、桐華さんの馬ですか?」
「ぼくはいいよ。ここで一緒に世話してあげて」
「はぁい。それより、隊長が帰ってくるなんて聞いてませんでしたけど」
「連絡を忘れていたんだ。何か不都合でも?」
「そうですねぇ。葛葉ちゃんが寂しがってたから、早く報せてあげたかったですね」
「そうか。それは悪いことをしたな」
「みんな、隊長たちの帰りを待ってますよ。ちょうど夕飯の時間です。馬は僕に任せて、広間に急いでください」
「ああ、すまない。よろしく頼む」
「はい」
周平太は軽く手を振ると、馬を引っ張っていって。
お言葉に甘えさせてもらうとするか。
なんだか懐かしく感じる城の中へと入っていく。
真っ先に気付いたのは葛葉だった。
相変わらず、白と赤の巫女服のような着物を着ていて。
葛葉を連れたまま、風華の隣に座る。
…馬車組は先に広間に入ってたらしい。
ツカサたちは特に、熱烈な歓迎を受けていた。
「姉ちゃん。お帰り」
「ただいま。それにしても大騒ぎだな」
「そりゃそうだよ。新しい家族が増えたんだから」
「そうか」
「それよりさ。帰るなら帰るで連絡くらいくれてもよかったのに」
「忘れてたよ。まあ、いいじゃないか。変に歓迎会なんて開かれても困るし」
「うん。あ、そうだ。姉ちゃんがカシュラに行ってる間に、国境付近への派遣隊から連絡があったみたいだよ」
「そうか」
「気にならないの?」
「緊急なら、こっちにも伝令が来るはずだしな。近況報告程度だったんだろ?」
「うん。平和そのものだって」
「ああ」
まあ、そこまで心配することもないだろう。
私が自信を持って送ったやつらなんだから。
「さあ、姉ちゃんも食べなよ。今日の当番は美希だったんだよ」
「そうか。それは楽しみだな」
「葛葉。お稲荷ばっかり食べてちゃダメだからね」
「うぅ…」
「オレと半分こにしような」
「うん!」
箸を取る。
正面には、子供たちに今回の活躍を自慢げに語る桜が見えた。
あいつは刺し子をしてただけな気もするけど。
まあいい。
とりあえず、目の前にある稲荷寿司の山を崩しに掛かる。
葛葉はあっさりと眠ってしまった。
かなり興奮してたから、長期戦を覚悟してたんだけど。
「どうだった、うちの城は」
「うん。すごかった」
「はは、すごいか」
「………」
「どうした?」
「昨日のことだけど…」
「ああ」
「馬車の中で、みんなと考えた。自分でも、いろいろ考えた。それで、ここに来て分かった」
「………」
「みんな、ここでは家族なんだって。誰も、義務感やそんなのでここにいるんじゃない。ここにいたいからいてるんだ」
「ああ」
「だから、俺たちも…家族に入ってもいいかな」
「もちろんだ。みんなの答えも受け取っただろ?」
「…うん」
「歓迎するよ。お帰り、我が家へ」
「ただいま」
ツカサの頭を撫でる。
布団の中で、尻尾をパタパタ振って。
…お帰り。
ここは、お前たちの家だ。
「そういえば、所属って何なんだ?さっき、どこに入るのかって聞かれたけど…」
「戦闘班、伝令班、医務班、調理班の四つの班があって、衛士はみんなどこかに所属しているんだ。城で働く以上、お前たちもどこかに入ってもらうぞ」
「戦闘班、伝令班、医務班、調理班…」
「名前通りの仕事もあるけど、それ以外の仕事もある。途中で所属を変えることも出来るけど、それぞれの衛士たちに話を聞いたりして、よく考えて慎重に選べ」
「紅葉姉ちゃんはどこなんだ?」
「オレは戦闘班だ」
「戦闘班…か」
「ああ」
「望とかサンは、どこなんだ?」
「まだ小さいやつらは入ってないことも多い。サンはそっちだな。望は伝令班だ」
「そっか…」
「イナなんかはまだ早いかもしれないな」
「うん。それは、またみんなと相談して決める」
「ああ」
「…紅葉姉ちゃん」
「ん?」
「俺は…戦闘班に入りたい。きっと、ナナヤも」
「そうか」
「今日みたいに…置き去りにされるのは嫌だ。それに、守りたいものもあるから…」
「分かったよ。じゃあ、ナナヤの返答を聞いて、明日から少し訓練に入ろうか」
「うん…!」
新人訓練なんて、どれくらいぶりだろうか。
腕、なまってなければいいんだけど。
…ツカサたちは、上手く答えを出してくれたようだ。
その答え、いつまでも忘れてくれるなよ。