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「はぁ…。暇だなぁ…」
「そう言うなよ。チビたち抜きでおはじきでもするか?」
「いいよ、そんなの…」
「じゃあ、我慢するんだな」
「むぅ…」
「ナナヤは、昔から落ち着きがないよな」
「ツカサが落ち着きすぎてるんだよ」
「そうかな」
「そうだよ。マオもそうだよね。私より歳下なのに」
「まあ、お前が歳の割に落ち着いてないだけかもしれないけどな」
「えぇ…。酷いな、紅葉お姉ちゃんは…」
「落ち着いてないというか、ナナヤは自分の調子を崩さないんだ」
「そうか?」
「え?」
「いや、オレが見てる限りでは、割と崩れてる気がするんだけど」
「そ、そうかな…」
「そうだな。さっきもそうだし」
「さっき?」
「お前はサンに夢中だったからな」
「うっ…」
「まあ、お前たちにも少なからず心境の変化があったということだろう」
「そうなのかな…」
「たぶんな」
心境の変化もだけど、環境の変化も大きいんだろう。
まあ、ナナヤにも心の余裕が出来てきたってことなのかな。
自分の弱みを誰かに打ち明けられるくらいの余裕が。と、前の小窓を叩く音がする。
そして、遙が顔を出して。
「紅葉、ちょっといい?」
「ああ」
「どうしたんだ?」
「まあ、大したことじゃない。すぐに追い付くから」
「えっ?追い付くって…」
ツカサの言葉を最後まで聞かず、馬車を飛び降りる。
翔はそれを確認すると、速度を上げて。
「隊長、これを。ユカラからです」
「指示、お願いします」
「ああ」
「さぁて。残党だと思う?別の盗賊だと思う?」
「オレは、残党に賭けるぞ」
「もう…。二人とも、遊びじゃないんだよ?」
「分かってるよ。じゃあ、一番多く敵を倒した方が勝ちね」
「負けて泣きべそ掻くなよ」
「紅葉こそ」
「まったく、この二人は…」
「佐之助、静香。左右からの挟撃を頼む。桐華とオレで前からいくから、遙は裏を取ってくれ」
「はいよ」「了解」
「よし。じゃあ、散開」
他の三人は、あっという間に見えなくなった。
気配から察するに、敵も馬車を使っている。
馬車を追い掛けるためなんだから、当然馬車を使うだろうけど。
しかし、追い付くのが遅かったようだ。
この森の小道では、馬車の機動力は生かせない。
あるいは、騎馬なのか?
「来るよ」
「分かってる」
横の茂みに潜んで、敵を待つ。
少しずつ近付いてくる。
三、二、一…。
「はっ!」「やあっ!」
「うわっ!」
「伏兵!?」
尖兵だろうか、とりあえず一番前の騎馬を奪う。
もともと乗っていたやつは、適当にその辺へ落としておく。
まあ、死にはしないだろう。
桐華も、上手く馬を奪えたようで。
「どうどう」
「第二派を迎撃するぞ」
「ちょうど二人で良かったね」
「三人でも四人でも変わらないだろ」
「まあ、そうだけど」
次は馬の速度を落として、第二派に合流、襲撃という流れだな。
騎馬と馬車では機動が違うので間は開くが、その方が混雑しなくて良いのかもしれない。
まあ、一気に来ようと分散して来ようと、結果に変わりはないだろうが。
「はいよー。もうちょっと頑張ってね~」
「もうそろそろ合流だ」
「うん」
「よし、いくぞ…」
馬の背を蹴り、こちらに突っ込んでくる馬車の御者台に飛び移る。
御者もさっきのやつらと同じく、その辺の茂みに放っておいて。
桐華が隣に座ったことを確認してから、手綱を引っ張る。
馬は速度を落としていき、止まる。
「おい、どうした。追い付いたのか?」
「自分で確認しなよ」
桐華は、小窓から覗いてきたやつの顔を遠慮なく殴る。
…なんとまあ、容赦なしだな。
「敵襲だ!」
「まったく。襲撃作戦なのに、幌馬車なんて論外だよ」
「これしかなかったんじゃないのか?」
「んー。まあ、それなら仕方ない」
「とにかく、第三派以降はあいつらが上手くやってるみたいだ」
「うん。ぼくたちも、さっさと片付けよう」
桐華は御者台から降りて、すぐ下にいたやつを殴り倒す。
私も、ユカラから預かった刀の鞘で御者台の上から応戦する。
そして、五人伸したところで打ち止めのようだった。
「えっと、騎馬の一人、御者台の一人、馬車の中の五人で七人か」
「オレも同じだけど」
「じゃあ、引き分けかぁ」
「そうだな」
「なんだ、つまんない。奇数なら良かったのに」
「八人乗りの馬車に十人も乗ってたら上々だろ」
「上々というか、ギュウギュウ詰めだよね」
「まあ、いちおう武器も乗せてたみたいだし…」
出番のなかった武器たちを見てみる。
切り詰めた槍、短刀、手甲鉤…。
討ち入りでもする気だったのか?
しかし、鎖鎌とか鎖分銅は要らないと思うけど…。
木の枝もすぐそこに迫る森の中で、どうやって使うんだよ。
拘束用か?
「あはは。鎖鎌だ~」
「ああ。どうする気だったんだろうな」
「振り回したら、すぐに木に引っ掛かるよね」
「そうだな」
「あ、この手甲鉤はいいかな~。貰っとこ」
「城壁を登るのには使うなよ」
「えっ…。なんで分かったの…?」
「もともと、そういう用途で作られたものだからだ」
「なんだ、知ってたのか…」
「まったく…。次は忍者にでもなるつもりか?」
「職業柄、そういうのは必要になってくるよね」
「…うちの城で諜報活動をすることもないだろ」
「まあ、うん」
本当に、こいつは…。
と、そんなことを話してるうちに、後ろの方から三人が走ってきた。
とりあえず、縄や鎖もあるから、それで縛り上げて。
あとは、警察に連絡して身柄を確保してもらう。
完璧だな。
こいつらが何者かなんて、はっきり言ってしまえばどうでもいい。
…そんなことより、早く帰りたいよ。
みんなはどこまで行ったかな。
幸い、馬もいるから、すぐに追い付けるだろう。
さあ、久しぶりの城だ。