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意外と早く道の駅に着いた。
いや、まあ、こんなものなのか?
とりあえず、食堂で昼ごはんを取ることにして。
「ユールオもそうですし、カシュラやルイカミナに向かう人も利用してくれますね」
「へぇ」
「まあ、ユールオが一番多いですかねぇ。ルクレィの中心ですし」
「ふぅん」
「さっきは、バヤック旅団さんがカシュラに向かっていきましたけど。もしかして、擦れ違いませんでした?」
「擦れ違ったな」
「団長さん、わざわざ丁寧に挨拶してくださって。かなり大きな方だったので、最初はびっくりしたんですけど」
「大きかったな」
「はい。それより…子供たちはよろしいのですか?」
「ああ。しっかりしたやつが見てくれてるからな。オレは楽でいいよ」
「そうですか。いいですねぇ」
窓の外の広場では、子供たちが走り回って遊んでいる。
何をしてるんだろうな。
私は、昼ごはんのあとの小休憩。
「誰か、紅葉さんのお子さんはいるんですか?」
「血を分けた子供はいないけどな。あそこの黒狼の女の子と、金髪で三編みの小さい方が、オレの娘だ。あとはたいがい、兄弟姉妹だな」
「へぇ~。血を分けてない娘って、養子ってことですか?」
「どうなんだろうな。でも、オレは実の娘だと思ってるよ」
「そうですか」
「ああ」
「私にも、子供が二人いるんですけどね。ちょうど、あの黒狼の男の子くらいの子ですかね」
「双子か?」
「いえ。年子なんです。上が女の子で、下が男の子なんです」
「ほぅ」
「最近、姉弟であんまり話してないみたいなんです。男と女の年子って、割とそんなものだって聞くんですけど、心配で…。昔は仲良かったのに…」
「年子のことは分からないけど、姉弟なんだ。また昔通りになるときが来るさ」
「そう願うばかりです…」
少し寂しそうに、外を眺める。
親の心、子知らずとは言うが、親にだって子供の心の内は分からない。
だから、外側から見れば仲が悪くなってしまったように見える姉弟を心配する。
そしてその心配にはたぶん、子供たちが大人になって自分の手から離れていくことに対する不安や寂しさも混じってるんだろう。
…子供はいつの間にか大きく成長してるものだ。
この家族にとって、ひとつの大きな山が、目の前まで迫ってきている。
「まあ、なるようにしかなりませんよね」
「でも、寝て待つのは、やれることをやってからだ」
「そうですよね。私は、私に出来ることを。あの子たちのために」
「ああ」
「うん。何か見えてきた気がします。ありがとうございます。さすが、衛士長さんですね」
「いや」
「他の衛士さんの悩みとかも聞いたりするんですか?」
「ん?どうだろうな。あいつらは、割と自分たちで解決するよ。オレより近しい者も多いしな。そっちに相談するんだろう」
「へぇ~」
「どちらかと言うと、オレは弟や妹の相談を受けることが多いな」
「何人兄弟なんですか?」
「うん、まあ、血は繋がってないよ」
「あっ、そうでしたね」
「数えればキリがないよ」
「そうですよね。それで、あの子たちの相談を受けるんですか?」
「そうだな…。金髪三編みの大きい方とか、黒猫の女の子とか…。城にもいるんだけど。まあ、ある程度大きいやつらからだな」
「小さいうちは悩むことも少ないですしね」
「そうだな。のびのびしてるな」
「ふふふ。それで、どんな悩みなんですか?」
「あまり他人に話すことじゃないけどな」
「あ、そうですよね…」
「まあ、あれだ。恋愛相談とか人生相談とかだな」
「へぇ…。人生相談…」
「あいつらはあいつらで、大変な人生を歩んでるみたいだからな」
「このご時世ですしね…。あっ、もしかして、血の繋がってない兄弟って…」
「詳しい経緯は知らないがな。たぶん、戦争孤児なんだろう」
「そうですか…」
「ああ」
「戦なんて…。なんで、そんなことをするんでしょうね…」
「領土の拡張だとか、気に入らないからだとか、理由はいろいろだろうな」
「結局は、王や上の人たちの身勝手な理由じゃないですか。それで、巻き込まれて被害を受けるのは、私たち庶民。理不尽ですよ。自分たちが鎧兜を着て、迷惑の掛からないところで、自分たちだけで戦をしていればいいのに…」
「そうだな。弱い者がバカを見る世の中だ。だからこそ、今の王は力を持った」
「えっ?」
「ヤゥトが一揆を起こしたことは知ってるよな」
「はい…。いちおう…」
「一揆により前王は倒れ、以前までの滅茶苦茶な政権は終わった。強い者が弱い者を支配する政治は終わった。そして、弱い者の内から出た者が王となった」
「それで、強きが弱きを助ける未来が来ると…?」
「ああ」
「でも、結局は権力を持ってしまった。権力は人を堕落させるんじゃないですか?」
「そうならないように、議会を召集したんだ。今、王に権力はない。弱い者を集めた、議会に全て権利を譲渡した」
「………」
「王はいるが、王政は終わった。これからは、庶民の時代が来るんだ」
「でも、ルクレィだけじゃ…」
「庶民の力はそんなものなのか?近くからでいい。少しずつでいい。広げていくんだ。この輪を。塵も積もれば山となる。いつか、全国に広まっていく日が来る」
「そう…なんですかね」
「ああ」
いつの間に、こんなに話が大きくなってしまったのかは分からないけど。
でも、出来ることから始めればいいんだ。
私たちに、出来ることから…。