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「取った!」
「あぁ~、上手いねぇ」
「えへへ、五点だよ!」
「そうだね」
バヤック旅団で停まったときに、ついでに取ってきたおはじきに興じる。
どうやらサンが一番強いらしく、次々と取っていってる。
「あっ!ナナヤお姉ちゃん、間を通ってない!」
「うーん…。やっぱり難しいなぁ…」
「じゃあ、次は兄ちゃんの番だね」
「ああ」
祐輔も上手いみたいで、軽く弾いて二つのおはじきの間を通し、その先に当てる。
そして、それは台から落ちて、祐輔の持ち駒となる。
「わぁ、上手いね~」
「そんなことないよ…」
「私なんて、もう残りもないのに」
「ナナヤ姉ちゃんは、大きいのを狙いすぎなんだよ。少しずつ大きいおはじきを取っていって、最後に一番大きい十点を取ればいいんだ」
「あー、そうだね。言われてみれば」
「だから、他の人に取られないうちに、自分のをどうやって大きくしていくか考えるんだよ」
「ふむ、なるほどね」
「つぎ、夏月だよ!」
「頑張ってね~」
次に夏月が弾く。
でも、どのおはじきに当たることもなく、台から落ちてしまった。
でも、それを拾って、楽しそうに笑って。
「えへへ。当たらなかった~」
「残念だったね」
「うん。ね、次は弥生だよ」
「はぁい」
負けが込んでたりしてても、みんな楽しそうに遊んでるな。
いいことだ。
そして弥生は、一点のおはじきと自分の手持ちを落とすことが出来た。
「次、お母さんだよ!」
「あぁ、そうだな」
手持ちのおはじきを適当な場所に置いて弾く。
そして、台から落ちた自分のおはじきと、弾き落とした三点のおはじきを手持ちに加える。
「ねぇ、紅葉お姉ちゃんって、なんでそんなに上手いの?」
「昔からずっとやってるからな」
「そっかぁ」
「ひとつ言うと、少しずつ大きくしていくのもひとつの戦法だが、最終的には点数で決まるんだから、自分の手持ちを残しつつ、小さいのを増やしていくのもいいと思うぞ。大きく点数を稼ぐのか、小さくたくさん点数を稼ぐのか。両方とも有効な作戦だ」
「なるほど…」
「ほら、サンの番だ」
「うん!」
まあ、作戦を解説したところで、サンのやり方は変わらない。
好きなおはじきを好きなように落としていく。
サンにはおはじきの才能があるんだな。
…そんな才能があっても、あんまり意味ないかな。
「次、ナナヤお姉ちゃんだよ!」
「あ、私のおはじきがないんだった」
「余りを使えばいいじゃないか。一点保証だ」
「ん、分かった」
「まあ、手持ちがなくて出来ないんじゃ面白くないだろ」
「そうだね。じゃあ、私は紅葉お姉ちゃんの作戦でいってみようかな~」
「どうぞ」
ナナヤは、さっきまでの大物狙いから、堅実路線に変更する。
まあ、ナナヤにはそっちの方が合ってるかもしれないけどな。
無理なく小さいのを落として、点数とする。
…それぞれ、思い思いの方法で点を稼いでいってる。
さて、ここからが本番のようだな。
白熱して疲れたのか、ナナヤ以外は眠ってしまった。
結局、ずっとサンが圧倒的な強さを誇っていたんだけど。
「それにしても、ナナヤ。ちょっとわざとらしかったぞ」
「そうかな?上手くやったつもりだったんだけど」
「こっちのチビ三人は気付いてなかったけどな。祐輔は気付いてたみたいだぞ」
「そっかぁ」
「まあ、お前の努力空しく、サンはひたすら我が道突き進んでたけど」
「強かったからいいじゃない。それより、紅葉お姉ちゃんは本当に容赦なかったね。もうどんどん取っていってさ」
「あれでも手加減してたんだけどな。本気なら、置き石とかもやるぞ?」
「あー、そう来るかぁ」
「置き石って何?」
「お前、聞いてたのかよ…」
「聞いてたんじゃなくて、聞こえるのよ」
遙は前の小窓を開けて、ニヤリと笑ってみせる。
翔も聞いてたようで、慌てて顔を前に戻してたけど。
「ね、置き石って?」
「たとえば、相手が高得点のおはじきを取れそうなときとかに、そのおはじきまでの進路上とか、直接おはじきにくっつけるように、手持ちの駒をわざと置くことで、得点を阻止するって戦法ですよ。絶妙な位置に絶妙な大きさおはじきを弾く腕がいるんですが、名人達人の戦いになると、この駆け引きがすごいんです」
「へぇ。でも、自分の点数が減るってことでしょ?」
「ああ。だから、次の自分の番までに誰にも取られないように、次の自分の番で確実に取れるように、置いていく必要があるんだ」
「…おはじきって、頭使うんだね」
「まあな」
「桐華も子供たちを集めてやったりしてるからさ、簡単なのかと思ってたよ」
「桐華はどうか知らないけど、いろんな人が楽しめる奥深い遊びだってことだ」
「んー、そうだね。そんな気がしてきた」
「…俺、ずっと、おはじきなんて子供っぽい遊びだと思ってたけど、違うんだな」
「やってみたくなったか?」
「…うん」
「じゃあ、またやろうよ!みんなで一緒にさ!」
「うん」
翔は小窓のところから覗いてニッコリと笑う。
ナナヤもそれに応えて、嬉しそうに笑って。
城に帰って仕事が終わったら、みんなで一緒にやろう。
今から楽しみだ。
…こうやって、みんなで楽しめる遊びっていうのは、本当に楽しいものだな。
何より、みんなと楽しさを共有してることが一番楽しい。
もしかしたら、私だけの感覚かもしれないけど。
まあ、それでもいい。
楽しいことは、いいことなんだから。