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最後の荷物も積み終わったし、出発するか。

六人も増えたから、一台追加することになったけど。

翔たちに合図を送ると、静かに頷いて馬車を走らせる。


「ふぁ…。眠…」

「ご苦労さま。ゆっくり寝るといい」

「うん…。そうする…」


ナナヤはサンを抱き締めて、また眠りに就く。

…なんでサンを抱き締めるんだ。

抱き枕のつもりか…?


「姉さんも寝たら?」

「いや、いいよ」

「そう?」

「ああ」

「…それにしても、あの人たち、元盗賊なんだろ?」

「ああ」

「………」

「疑ってるのか?」

「…少し」

「そうか」

「怒らないのか?」

「怒ってどうするんだ。人の感じ方は人それぞれだ。翔がどう思おうと、オレは怒らないし、怒れない。ただ、誤解を解く手助けはするつもりだ」

「誤解…か」

「誤解だ。いや、偏見か?」

「ふふ、どっちでもいいよ。…でも、姉さんって、なんでそんなに信じられるんだ?疑うことってあるのか?」

「あるよ。でも、疑うより信じたいじゃないか。それに、疑うより信じる方が楽だし」

「え…。なんか、途中まで良いこと言ってたのに…」

「ははは。まあ、いいじゃないか。とにかく、オレは疑うより信じる方を選ぶよ」

「…そうだな」


翔の代わりに、ナナヤの頭を撫でる。

すると、なぜか余計に強くサンを抱き締めるものだから、サンは苦しそうに唸って。


「なんだ?」

「いや、大丈夫だ」

「そうか…?」


頭を叩くと、今度はナナヤが唸り始めた。

まあ、サンの救出は出来たみたいだから、よしとするか。

馬車が少しガタついてきた。

街を出たんだろう。

幌を少し開けて外を見ると、相変わらず太陽は昇ってなくて暗かった。

…さっき出る前に見たばっかりなんだから、そりゃそうだけど。

でも、心なしか薄らと明るくなってるような気がした。



…ん?

いつの間にか寝ていたらしい。

他のみんなは寝てるけど、幌を開けなくても日はもう昇ってるということが分かった。


「起きた?」

「ああ」

「朝ごはんは?」

「みんなと一緒に食べるよ」

「そう」


遙は御者台と台車の間にある小さな窓から、おにぎりを差し出す。

食べさしのようだが…。


「食べて」

「なんでだよ…」

「私は、もうお腹いっぱいだし」

「なんで食べさしなんだ」

「私が食べたから」

「そういうことを聞いてるんじゃないだろ」

「いいじゃない。朝ごはん前の準備体操だと思ってさ」

「準備体操って…」

「ほら」

「まったく…」


おにぎりを受け取ると、返品不可というように窓の戸を閉めてしまった。

はぁ…。

なんで、私が遙の残飯処理なんか…。

桐華…は、違う馬車か…。

まったく…。

ん?

シャケか。

…まあ、少し許す。


「しっかし、やっぱり私って桐華に甘いのかな」

「なんだ、唐突に…」

「そりゃ注意もしたりするけどさ、でも、桐華のワガママにほとんど付き合ってるわけでしょ?今日だって、朝になったら起こしてって言ったから起こしたのに、結局は私が運ぶハメになっちゃったしさぁ。軽いからいいけど…」

「お前は桐華の保護者だろ」

「だからさ、そういうのが、あの子を余計に子供っぽくさせてるのかなって思うんだよ」

「そうか」

「何よ。人がせっかく相談してるのに」

「相談は押し付けるものなのか?」

「違うけど…」

「桐華は、遙が思ってる以上に自立出来てるぞ。まあ、ちゃんとした大人に対してそんなことを言うのも変だけどな」

「大人…なのかな、桐華は…」

「逆に、お前が桐華離れしないといけないかもしれないな」

「ははは…。そうかもね…」


遙は、どこか寂しそうに。

…桐華が遙に依存してるように、遙も桐華に依存している。

共に依存しあっているうちはいいが、どちらかが…桐華が遙のもとを離れるようなことがあれば、遙はどうなるんだろうか。

依存しあう状態が悪いとか、そういうことは思わないが、いつか来てしまうかもしれない日に怯えながら過ごすのか?


「私だって分かってるよ…。いつまでも、こんな状態でいちゃいけないって…。でも、私は、いつまでも桐華の側にいたい…。桐華の世話をしてあげたい…」

「…俺だって、そうですよ」

「えっ?翔?」

「俺だって、いつまでも弥生の側にいてやりたい。弥生は、いつまでも俺の妹ですから。でも、いつかは離ればなれにならないといけないときが来るんです。弥生が結婚するときかもしれないし、俺が死ぬときかもしれない。それが分かってるからこそ、甘えやワガママじゃない、本当の頼り合いってのが成立するんじゃないかって、俺は思うんです」

「………」

「すみません…。若造が偉そうなこと言って…」

「ううん。…何か分かった気がするよ。翔のお陰で。何か、分かった」

「…そうですか」

「うん。ありがとね」

「いえ…」


私の出番はなくなったようだ。

いや、もともとなかったんだろうか。

…いつかは離ればなれになるから。

だから、それが分かれば、本当に頼り合える。

確かに、そうなのかもしれない。

いつか終わってしまうのが分かっているからこそ、今を大切に出来る。

きっと翔は、そういうことを言いたかったんだろうな。

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