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洗面所で合わせ鏡をして、サンに三編みを見せてやる。

サンはかなり気に入った様子で、嬉しそうにはしゃいでいた。

ナナヤも、それを見て満足した様子で。


「よかったね」

「えへへ」

「可愛いよ」

「うん!」

「…サン」

「うん?」

「この鏡、大切に使ってくれる?」

「……?」

「大切に使ってくれるなら、サンにこの鏡あげるよ」

「ホントに?」

「うん。ホント」


サンは鏡を横に置いて。

そして、ナナヤに抱きつくとニッコリと笑う。


「大切にするよ!」

「そう。ありがとね」

「えへへ」


頭を撫でてもらって、余計に嬉しそうで。

…この鏡は何なんだろうな。

特別な思い入れがあるんだろうか。


「ナナヤ。あとはもういいか?」

「あ、ツカサ。ちょっと待って」

「うん」

「じゃあ、紅葉お姉ちゃん。ちょっとまた行ってくる」

「ごゆっくり」

「うん。ありがと」


軽く手を振って洗面所を出ていった。

…何か、ツカサに合図を送ったようにも見えたけど。

ツカサはそれを見送ったあと、こっちを向いて。


「…紅葉姉ちゃん」

「ん?」

「俺たち…決めたんだ」

「何を」

「俺たち、城で衛士として働きたいんだ。だから…」

「………」

「入隊試験とか厳しい訓練とかがあるなら、乗り越えてみせるから…。だから…俺たちに、恩返しをさせてくれ!」

「恩返し、か…」

「ダメなのか…?」

「………」


哀しそうな顔をするツカサの頭を一回はたいておく。

私が言いたいのはそういうことじゃないよ。


「オレたちは、そういうのは望んでいない。前に言ったかな。忘れたけど」

「………」

「お前は、サンを助けるときに見返りを求めないだろ?今のサンに見返りを求めても仕方ないというのもあるだろうが、その前に、同じ家族の一員だからということがあるだろ。オレたちもそうだ。恩返しとか、そういうのは求めていない。そういった気負いでやるくらいなら、思いっきり遊んで食べて寝て、のびのびと育ってくれる方がよっぽど恩返しになる」

「でも…」

「でもも鴨もないんだよ。そうやって気張っているやつほど、失敗しやすい。そういう意味でも、お前たちは要らないんだ」

「そんな…」

「紅葉お姉ちゃん!」


と、マオがいきなり飛び出してきたものだから、サンはびっくりして飛び上がっていた。

やっぱり、みんなで聞いてたんだな。

さっき出ていったはずのナナヤと一緒に、イナ、キリ、シュウも出てきた。


「そんなのって酷いよ!せっかく、恩返しが出来ることを見つけたのに…」

「マオ。せっかくとは言うが、じゃあ、恩返しは押し付けるものなのか?お前の言い方では、そう取れなくもないぞ」

「うっ…。ち、違うもん…」

「オレたちに恩返しは不要だ。気にするな。言いたいのはそれだけだ。サン、行くぞ」

「う、うん…」


まだドキドキしてるサンを連れて、洗面所を出る。

ツカサとマオは悔しそうに俯いて、ナナヤとイナはおどおどとして。

キリとシュウは、そこまで気にしていないようだった。

…上手く気付けばいいが。

衛士になりたいと思ってくれるのは嬉しいが、そういうことではないんだ。

それに気付けたときには、歓迎しよう。



ツカサたちは荷物が多いから、馬車で帰らせた。

だから、私とサンと望で街の中を歩いて帰る。

しかし、割と距離があるためサンが途中で疲れてしまい、公園でひとまず休憩。


「紅葉」

「なんだ」

「お前は本当に難しい人間だな」

「お前よりはマシだ」


なんでカイトが出てきたんだろうか。

少し傾きも大きくなった太陽の下、望もサンも昼寝を始めてしまったから、まあ話し相手になってくれるのは嬉しいけど。

でも、そんな苦言から入るあたり、嬉しくないな。


「直接言ってやったらどうなんだ」

「それではつまらないだろう。答えは用意してもらうんじゃなくて、自分で見つけるものだ」

「そうは言うが、あのときの…特にツカサは、かなり傷付いてたみたいだぞ」

「だから、答えを見つけられるんじゃないか」

「どうだろうな。そのまま心が折れてしまうかもしれん」

「…そんなやつじゃないよ、ツカサも、みんなも」

「まあ、そうだろうな」

「オレは信じているから」

「ふふふ」

「なんだ、気持ち悪いやつだな」

「いやな。お前は本当に、母親にそっくりだと思って。乱暴な話し方は父親にそっくりだが」

「悪かったな、乱暴で」

「灯は父親と母親を混ぜて刺々しさを除いたような性格だが、お前は母親の性格を丸写しだな。話し方は乱暴だが」

「何回も言うな」

「事実だろう」

「まったく…」

「一葉の、家族に対する愛情は人一倍強かった。それこそ、シャルナかと思うくらいな」

「伝説上の生き物だろ」

「そうか。お前は知らないか」

「何をだ」

「いや、なんでもない」

「……?」

「とにかくだ。一葉とお前はよくにている。名前の字面が似ているからかもしれないな」

「それだったら、葛葉なんかも似てることになるじゃないか…」

「はは、そうだな。話し方は似てほしくないものだ」

「その心配はいらない。葛葉は、風華の娘だからな」

「そういえば、そうだったな。それなら安心だ」

「………」

「そう怒るな」

「怒ってない」

「そうか?」

「………」


カイトは、わざとらしく首を傾げる。

…怒ってないわけないじゃないか。

それを分かってて、わざとああいうことを言うんだからタチが悪い。


「お前も似たようなものだがな」

「似てない!」


カイトなんかに似てたまるか。

…でも、お母さんに似てると言われたのは嬉しかった。

と、こんなことを考えてると、また足を掬われかねないんだけど。

でも、やっぱり嬉しかった。

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