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昼ごはんも済み、警察へ行く途中。
前からワイワイと賑やかな集団がやってきた。
「あっ、隊長!」
「静香。お土産は買えたのか?」
「ええ、お陰さまで」
「いろはねぇ。ボクもみんなにお土産買うからさ、お小遣い頂戴」
「お前は自分へのお土産だろ。…ほら、少しだけだぞ」
「えへへ。ありがと」
「ユカラも」
「あ、あたしはいいよ」
「遠慮するな。好きなものを買え。あと、灯の分も渡しておくから」
「えっ、なんで私の分?別々に渡してくれていいのに」
「ていうか、お前は給料を貰ってるだろ。自分の金で買えよ」
「美希に全部取られたよ!」
「取られたんじゃなくて、代わりに管理してもらってるんだろ?」
「そうとも…言う…」
「そうとしか言わない。とにかく、お前はポヤポヤとしてるから渡せない」
「そんなぁ…」
「お前たちの分は、マオに渡しておく。何か欲しいものがあったら、マオに言うんだ」
「うん」「分かった」
「ツカサは?」
「ツカサは、今から俺たちとちょっと用事があるんだ」
「ふぅん…?」
「ほら、望とサンも、みんなと買い物に行ってこい」
「望は、お母さんと一緒に警察に行きたい」
「サンも!」
「えっ、警察…?」
しまったな…。
話を聞いていなかったらしい三人は大丈夫だったけど、マオが反応してしまった。
「あー、俺が言い聞かせときますので、隊長たちは先に行っててください」
「いや、そういうわけにもいかない。静香、ちょっと望とサンも頼む。マオはこっちに」
「了解です、隊長。望、サン。ちょっとこっちに来て?」
「うん」「なぁに?」
「マオ」
「………」
マオを引っ張っていき、狭い路地へ。
佐之助とツカサもあとからついてくる。
「紅葉お姉ちゃん!どういうことなの?」
「まず最初に、お前が勘違いしてそうなことを言っておくと、ツカサが刑務所に戻るというわけでも、逮捕されるというわけでもない」
「じゃあ、なんで…!」
「ひとまず、落ち着け」
「だって、そんな…!」
「マオ」
「あっ…ツカサ…」
「俺の話をよく聞くんだ」
「………」
ツカサは、ジッとマオの目を見る。
最初はすぐに目を逸らしたマオだったけど、意を決したように、真っ直ぐに見つめ返して。
それを確認して、ツカサは口を開いた。
「俺は、けりを付けてくる」
「えっ…?」
「知ってること、全部話してくる。あいつらと決別するために」
「ツカサ…」
「もう大丈夫だよ。俺が帰ってきたら、もう、大丈夫だから」
「………」
「だから、待っててくれないか?俺、ちょっと頑張ってくるからさ」
「…私も行く」
「ダメだ」
「なんで…?私も行けば、ツカサの負担も半分になるじゃない…!」
「俺とマオが行って、そうしたら、誰がイナたちの面倒を見るんだ?さっきは聞いてなかったみたいだけど、俺たち二人がいなくなれば、さすがにあいつらも気付くだろ。だから、マオには俺が帰ってくるのを待っていてほしい。あいつらのことを、頼みたいんだ」
「…うん。分かった」
「ごめんな…。ありがと…」
ツカサは、マオの頭を撫でて。
最初、哀しそうな顔をしていたマオだったけど、そのうちに笑顔になってくる。
「じゃあ、行ってくるな」
「うん。行ってらっしゃい」
…私たちの出番はなかったな。
佐之助と見合わせて、みんなのところに帰っていく二人を見ていた。
お茶が差し出される。
ツカサは居心地が悪いようで。
一方、望とサンは初めての場所でソワソワとしていた。
「すみませんねぇ。ここしか空いてなかったんですよ」
「いちおう事情聴取なんだし、取調室でもいいじゃないか」
「そうなんですけどねぇ。でも、どうも威圧感があるでしょ?この狭苦しい部屋は」
「まあ、そうかもしれんな」
「とりあえず、緊張をほぐしてもらわにゃあ、話は聞けんので」
「す、すみません…」
「あぁ、いいんだいいんだ。ゆっくりお茶でも飲んで、落ち着いてください」
「はい…」
ツカサは震える手で湯呑みを取り、口へ運んでいく。
…本当に、緊張しすぎだな。
「おっちゃん!」
「ん?なんだ?」
「これ、何?」
「それは警棒だ。悪いことをしたら、これで叩かれるぞ」
「そうなの?」
「ああ。だから、悪いことはするなよ」
「うん」
「鏡だ」
「こっちから見れば鏡だけどな。裏からは、こっちが見えてるんだぞ」
「ホント?」
「ああ。見てみるか?」
「うん!」
「よし。じゃあ、そっちの狼の子も来てみな。面白いぞ」
「うん」
サンと望を連れて、警察官は取調室から出ていった。
しばらくして、鏡のある壁の方が騒がしくなったから、そっちに向かって手を振っておく。
「ツカサ。緊張しすぎだ、お前は。何のためにここに来たんだよ」
「佐之助さん…。そうは言いますけど…」
「けりを付けるんだろ?思い切って、バーッとやってしまえよ」
「でも…」
「意気地無しだな。何も恐れることなんてないじゃないか」
「………」
「何が怖いんだ。言ってみろよ」
「…報復」
「報復?そんなもの、何も怖くねぇよ」
「捕まったのだって、半分ちょっとなんですよ?まだまだたくさん、残党はいます…。そいつらが、俺が話したってことを嗅ぎ付けてきたら…」
「そんなの、ガツーンとやり返してやりゃいいんだよ」
「佐之助」
「あ、はい…」
「ツカサ。お前はまだ一人で戦おうとしてるのか?恐怖や不安と」
「………」
「報復が怖いなら、オレや佐之助がみんなを守ってやる。残党に知れ渡るのが不安なら、さっきの警察官に強く口止めをする。お前は、もう一人じゃないんだよ。それを分かってくれ」
「…ごめん」
「謝らなくてもいい。けど、今言ったことは忘れないでくれよ」
「…うん」
忘れてほしくない。
ツカサも分かってくれてたはずだけど。
でも、初めてだったから、少し戸惑っただけ。
そうだよな。
…外がまた騒がしくなってきた。
サンは、あとで叱っておかないといけないな。