表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/578

192

昼ごはんも済み、警察へ行く途中。

前からワイワイと賑やかな集団がやってきた。


「あっ、隊長!」

「静香。お土産は買えたのか?」

「ええ、お陰さまで」

「いろはねぇ。ボクもみんなにお土産買うからさ、お小遣い頂戴」

「お前は自分へのお土産だろ。…ほら、少しだけだぞ」

「えへへ。ありがと」

「ユカラも」

「あ、あたしはいいよ」

「遠慮するな。好きなものを買え。あと、灯の分も渡しておくから」

「えっ、なんで私の分?別々に渡してくれていいのに」

「ていうか、お前は給料を貰ってるだろ。自分の金で買えよ」

「美希に全部取られたよ!」

「取られたんじゃなくて、代わりに管理してもらってるんだろ?」

「そうとも…言う…」

「そうとしか言わない。とにかく、お前はポヤポヤとしてるから渡せない」

「そんなぁ…」

「お前たちの分は、マオに渡しておく。何か欲しいものがあったら、マオに言うんだ」

「うん」「分かった」

「ツカサは?」

「ツカサは、今から俺たちとちょっと用事があるんだ」

「ふぅん…?」

「ほら、望とサンも、みんなと買い物に行ってこい」

「望は、お母さんと一緒に警察に行きたい」

「サンも!」

「えっ、警察…?」


しまったな…。

話を聞いていなかったらしい三人は大丈夫だったけど、マオが反応してしまった。


「あー、俺が言い聞かせときますので、隊長たちは先に行っててください」

「いや、そういうわけにもいかない。静香、ちょっと望とサンも頼む。マオはこっちに」

「了解です、隊長。望、サン。ちょっとこっちに来て?」

「うん」「なぁに?」

「マオ」

「………」


マオを引っ張っていき、狭い路地へ。

佐之助とツカサもあとからついてくる。


「紅葉お姉ちゃん!どういうことなの?」

「まず最初に、お前が勘違いしてそうなことを言っておくと、ツカサが刑務所に戻るというわけでも、逮捕されるというわけでもない」

「じゃあ、なんで…!」

「ひとまず、落ち着け」

「だって、そんな…!」

「マオ」

「あっ…ツカサ…」

「俺の話をよく聞くんだ」

「………」


ツカサは、ジッとマオの目を見る。

最初はすぐに目を逸らしたマオだったけど、意を決したように、真っ直ぐに見つめ返して。

それを確認して、ツカサは口を開いた。


「俺は、けりを付けてくる」

「えっ…?」

「知ってること、全部話してくる。あいつらと決別するために」

「ツカサ…」

「もう大丈夫だよ。俺が帰ってきたら、もう、大丈夫だから」

「………」

「だから、待っててくれないか?俺、ちょっと頑張ってくるからさ」

「…私も行く」

「ダメだ」

「なんで…?私も行けば、ツカサの負担も半分になるじゃない…!」

「俺とマオが行って、そうしたら、誰がイナたちの面倒を見るんだ?さっきは聞いてなかったみたいだけど、俺たち二人がいなくなれば、さすがにあいつらも気付くだろ。だから、マオには俺が帰ってくるのを待っていてほしい。あいつらのことを、頼みたいんだ」

「…うん。分かった」

「ごめんな…。ありがと…」


ツカサは、マオの頭を撫でて。

最初、哀しそうな顔をしていたマオだったけど、そのうちに笑顔になってくる。


「じゃあ、行ってくるな」

「うん。行ってらっしゃい」


…私たちの出番はなかったな。

佐之助と見合わせて、みんなのところに帰っていく二人を見ていた。



お茶が差し出される。

ツカサは居心地が悪いようで。

一方、望とサンは初めての場所でソワソワとしていた。


「すみませんねぇ。ここしか空いてなかったんですよ」

「いちおう事情聴取なんだし、取調室でもいいじゃないか」

「そうなんですけどねぇ。でも、どうも威圧感があるでしょ?この狭苦しい部屋は」

「まあ、そうかもしれんな」

「とりあえず、緊張をほぐしてもらわにゃあ、話は聞けんので」

「す、すみません…」

「あぁ、いいんだいいんだ。ゆっくりお茶でも飲んで、落ち着いてください」

「はい…」


ツカサは震える手で湯呑みを取り、口へ運んでいく。

…本当に、緊張しすぎだな。


「おっちゃん!」

「ん?なんだ?」

「これ、何?」

「それは警棒だ。悪いことをしたら、これで叩かれるぞ」

「そうなの?」

「ああ。だから、悪いことはするなよ」

「うん」

「鏡だ」

「こっちから見れば鏡だけどな。裏からは、こっちが見えてるんだぞ」

「ホント?」

「ああ。見てみるか?」

「うん!」

「よし。じゃあ、そっちの狼の子も来てみな。面白いぞ」

「うん」


サンと望を連れて、警察官は取調室から出ていった。

しばらくして、鏡のある壁の方が騒がしくなったから、そっちに向かって手を振っておく。


「ツカサ。緊張しすぎだ、お前は。何のためにここに来たんだよ」

「佐之助さん…。そうは言いますけど…」

「けりを付けるんだろ?思い切って、バーッとやってしまえよ」

「でも…」

「意気地無しだな。何も恐れることなんてないじゃないか」

「………」

「何が怖いんだ。言ってみろよ」

「…報復」

「報復?そんなもの、何も怖くねぇよ」

「捕まったのだって、半分ちょっとなんですよ?まだまだたくさん、残党はいます…。そいつらが、俺が話したってことを嗅ぎ付けてきたら…」

「そんなの、ガツーンとやり返してやりゃいいんだよ」

「佐之助」

「あ、はい…」

「ツカサ。お前はまだ一人で戦おうとしてるのか?恐怖や不安と」

「………」

「報復が怖いなら、オレや佐之助がみんなを守ってやる。残党に知れ渡るのが不安なら、さっきの警察官に強く口止めをする。お前は、もう一人じゃないんだよ。それを分かってくれ」

「…ごめん」

「謝らなくてもいい。けど、今言ったことは忘れないでくれよ」

「…うん」


忘れてほしくない。

ツカサも分かってくれてたはずだけど。

でも、初めてだったから、少し戸惑っただけ。

そうだよな。

…外がまた騒がしくなってきた。

サンは、あとで叱っておかないといけないな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ