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「で、どうする?」
「そうですね…。隊長たちだけでも帰ります?俺たちが事件解決まで見届けますし」
「いや、お前たちが残るのに、オレが帰るわけにもいかないだろう」
「そんなの、気にしなくていいですって。帰るなら帰ってもらって大丈夫ですよ」
「あの…」
「ん?どうしたよ、ツカサ」
「事件が解決したら、みんなで帰られるんですよね…?」
「まあな」
「じゃあ、俺、協力しますんで、みんなで帰りましょう…?」
「はは、いいっていいって。無理しなくても」
「無理なんて…」
「お前、刑務所か盗賊団…あるいは、両方が怖いんだろ?俺もそうだったからな」
「………」
「隊長から聞いてないか?俺は昔、お前と同じ盗賊の一味だった。だから、全て…というわけにもいかないけど、お前の気持ちは痛いほどによく分かる。また刑務所に入れられるのが、盗賊団による報復が、怖いんだろ?」
「………」
「本当はそんなことはないってことは分かっていても、恐怖ってのはなかなか抜けないもんだ。だから、無理をすることはない。今回は、お前の協力なしでも解決出来そうだし」
「でも…!でも、やっぱり、みんなで帰りたいです…」
「そうか」
「紅葉姉ちゃん…。ごめん…」
「なんで謝るんだよ。お前の決断だ。オレは口出し出来ないよ」
「うん…」
「そんじゃ、隊長。さっさと昼ごはん食べて、警察署に行きますか」
「そうだな」
頷いて、箸を進める。
ツカサの箸は重たいようだけど。
と、佐之助が忍び笑いを始めた。
「なんだ、気持ち悪いな」
「いや、隊長、もうツカサに好かれてるんだなって思いまして」
「……?」
「不思議なもんです。隊長は、人の心を掌握する天才ですか?」
「なんだ、その世界征服を企む悪役みたいな言い方は」
「ホント、隊長が演劇の悪役なら、世界征服だってやってのけられますよ」
「はぁ…。オレにとっては、あんまり嬉しい喩えではないな」
「まあまあ」
佐之助は、尚も笑い続けて。
何がそんなに嬉しいんだろうな。
とにかく、私には分かりかねる。
「ははは。まあ、お前は俺の弟分として可愛がってやるよ」
「は、はい…」
「翔も面白いんだけどな。お前はもっと面白そうだ」
「お前、もう翔を子分に引き入れたのか?」
「やだなぁ。子分じゃないですよ。弟分ですって」
「変わらんじゃないか…」
「変わりますよ。俺は隊長の子分であって、親分ではないですから。あ、隊長は姐御ですか」
「いや、そもそも、お前より歳下なんだけど…」
「じゃあ、お嬢っスね!」
「お前…極道の考え方は抜けないんだな…」
「親父が死んでなきゃ、俺だって立派な任侠者だったんです。血は争えないですよ」
「血は争えないの使い方を間違ってるぞ」
「はは、俺には学がないですから。だから、この身体を張って、隊長に付いていくんですよ」
「はぁ…」
「…格好いい」
「え?」
「い、いや…」
「ははは。ツカサ、お前は俺の真似をしちゃダメだ。それに、お前はお前のやり方でやるんだ。他人のやり方は参考にするだけ。自分の一番良いやり方は自分で見つけるんだ」
「は、はい…!」
…すっかり佐之助に魅了されてしまったみたいだな。
まあ、悪いことではないけど。
…任侠者になったりしないよな?
「そういや、隊長。チビどもはどこにいったんですか?」
「外で遊んでるよ。昼も外で食べるらしい。さっき、伝言が届いた」
「へぇ、伝言」
「ああ。お前こそ、静香はどうした」
「あいつは気楽なもんで、みんなのお土産を買うんだって、朝から街に出てますよ」
「あいつらしいな」
「ええ。そうなんですけどね。金が足りないからって、俺のもブン取っていきましてね。お陰で、俺は素寒貧ですよ」
「なら、小遣いをやろうか?」
「やめてくださいよ。俺だって、ガキじゃないんです。それに、ちゃんと、いざというときの金は隠し持ってますし、静香も城に帰れば金は返してくれます」
「まあ、そうだろうな」
「ええ。…ところで、いくら持ってるんです?」
「そうだな…。お前が今隠し持ってる金が二千円だから、ちょうど十倍だな」
「えぇ…。なんで二千円って知ってるんですか…」
「さあな」
「んー…。敵わないなぁ…。隊長には…」
佐之助は頭の後ろを掻いて。
…前に話してたことを忘れてるんだな。
いつも二千円を必ず羽織に入れているって、自慢気に話していたんだけど。
「紅葉姉ちゃんは、透視が出来るの?」
「ん?あぁ…どうだろうな。試したことはない」
「だって、今…」
「今のは透視じゃない」
「ふぅん…」
「えっ、まさか、隊長…。俺が寝ている隙に…」
「そうだとしたら、お前に特別な訓練を追加しないといけないな」
「あーっ、嘘ですって!まず、隊長がそんなことをするわけないじゃないですか!」
「さあな。それはどうか分からないぞ?」
「しないです!」
「じゃあ、お前は、帰ったら気配察知の訓練からやり直しだな」
「えぇっ!隊長、本当に見たんですか!?」
「お前にそれが本当か嘘か分からないうちは、訓練をしないといけないだろ?」
「嘘です!隊長は何か別の方法で知ったんです!」
「ん?」
「え…いや…。ホ、ホントです…。隊長は、俺が寝てる隙に見ました…」
「じゃあ、訓練だな」
「あっ、あっ、今のはなし!隊長は見てません!」
「ふぅん?」
「えっ、あれぇ…?」
「くっふふふ…」
「あっ、お前、ツカサ!笑ったな!」
「だって、佐之助さん、面白いんですもん…!」
「笑うな!」
「無理です…!」
とうとうツカサは大笑いを始めて。
佐之助は怒ってるけど、もしかしたら大手柄なのかもしれないな。
ツカサの心を開いたということに関しては。
まあ、今回はそれに免じて許してやってもいいけど。
さて、どうするかな。