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外周を二周りほどすると、ちょうど昼ごはんの時間になった。

桜と一緒に厨房へと向かう。


「あ~…お腹空いたなぁ…」

「口に出すから、余計そう感じるんだ」

「だって…お腹空いたんだもん…」

「ほら、もっとしっかり歩いて。いつまで経っても厨房に着かないぞ」

「いろはねぇ…昼ごはん、ここまで運んできてよ…」

「断る」

「うぅ…ケチんぼ…」

「じゃあ、桜はオレがここでへばったら持ってきてくれるんだな?」

「う…それは…」

「桜もケチんぼだな」

「なし!さっきのなし!」

「ふふふっ」


そんなことを言ってる間に、厨房に着く。


「あ、お母さん、桜お姉ちゃん」

「ん?光だけか?」

「うん。望と響は、市場に、行ったよ」

「えぇ~っ!ボクも行きたかった!」

「行ったじゃないか」

「仕事で、じゃない!」

「で?昼ごはんも向こうで食べてくるって言ってたのか?」

「ううん。お姉ちゃんに、お昼までには帰ってきなさい、って言われてた」

「もう昼だけど…」

「食べてたら、戻ってくるんじゃないですか?…はい、光ちゃんの分、出来たよ」

「いただきま~す」

「はい、どうぞ」

「まあ、そうかもしれないな。じゃあ、オレたちにも」

「了解しました」

「早くね~」

「ふふ、分かってますよ」


早速調理に取り掛かる。


「桜さん、その首輪、どうしたんですか?朝はしてませんでしたよね?」

「うん!姉ちゃんに貰ったんだ!」

「そうですか、隊長が。へぇ~」

「…なんだ」

「いや、珍しいなぁと思って」

「何が」

「誰かに贈り物をするなんて、滅多にしませんからねぇ」

「そうなの?」

「そんなことない」

「みんなに酒を振舞う…なんてことはあっても、特定の一人に特別なものを贈る…なんて、私はまだ一回しか見たことないですね」

「あっ!」「誰に贈ったの?」

「えっとですね~…」

「言うなよ!」

「ふふ、分かってますよ。というわけで、内緒ですよ、桜さん」

「えぇ~っ!気になる~!」

「わたし、分かったよ」

「え?誰?誰なの?」

「うんとね、お母さんの、お母さん」

「いろはねぇ のお母さん?えぇ~、どうかな~」


………。

勘というのは恐ろしいものだ。

桜は信用してないみたいだから良いけど。


「ふふ、それはもう置いておきましょう。隊長も大変ですし。さあ、出来ましたよ」

「やった!」

「おかわり、ありますからね。光ちゃんも遠慮せずに」

「うん」

「じゃ、いただきま~す!」「いただきます」

「どうぞ~」


今日の昼ごはんは、ご飯に味噌汁、あとはエタカの鉄板焼きとホウレン草のお浸しだった。


「ん~!美味しいね!」

「ああ、美味い」

「ありがとうございます」

「おかわり、ちょうだい」

「はいはい。ご飯ですか?味噌汁ですか?」

「ご飯」

「はい、ただいま」

「ボクも~!」

「ちゃんと、よく噛んで食べてるのか?」

「食べてるよ~」


ホントなのかな…。

見てなかったから分からないけど、あの短い間に、どうやって茶碗いっぱいに盛られたご飯を食べたんだ?

…やっぱり、ほとんど飲み込んでるとしか思えない。


「はい、光ちゃん。どうぞ」

「ありがと~」

「ボクも~」

「桜さん、味噌汁でご飯を流し込んじゃダメですよ。夕飯以外は、急がなくても簡単には無くなりませんから」

「やっぱり、ちゃんと噛んでないんじゃないか」

「うぅ…だって…」

「早食いの癖は直した方がいいですね~。はい、どうぞ」

「うん、ありがと」

「隊長はどうします?」

「ああ、じゃあ、貰おうか」

「はい」


そして、光はモクモクとご飯三杯を、桜はガツガツとご飯五杯を平らげた。

私は…やめておこう。


「はぁ~、お腹いっぱい」

「うん…」

「ん?光、眠いか?」

「うん…」

「じゃあ、部屋に戻ろうか。桜はどうする?」

「うーん…ボクも部屋に戻るよ」

「そうか」

「じゃあね。ご馳走様でした~」

「ご馳走様」「うにゅ…」

「お粗末様でした」


光を背負い、厨房を出る。

桜とは反対方向なので、ここで別れる。


「じゃ、また後でね~」

「ああ」

「これ、ありがと」


チリン、と鈴を鳴らして、走っていった。


「あ!お母さん!」

「ただいま~」

「お帰り。昼ごはんか?」

「うん!あ、光、どうしたの?」

「ごはん食べたら眠くなったみたいだ」

「ふぅん」

「お昼ごはん~」

「あ、うん!じゃあ、望たちもお昼ごはん食べたら、部屋に行くね!」

「ああ。でも、ゆっくり食べるんだぞ」

「分かってる!」「うん」


そして、二人は厨房の中へと入っていった。

…さて、戻るか。



ん?

もう届いたのか。

相変わらず良い仕事をしてくれる。

光は…また後でで良いか。

ぐっすりと眠っている光を、ゆっくりと布団に下ろす。


「ぅん…」


っと、起こしたか?

…大丈夫みたいだな。

ふふ、可愛い寝顔だ。

あ、そうだ。

忘れないうちに…。

えっと…これかな…。

うん、これだ。

白地に銀の龍の刺繍がされた小袋を、枕元に置く。


「あ、姉ちゃん。帰ってたんだ。お昼ごはん食べたの?」

「ああ。風華は?」

「食べたよ、私も。…光、寝ちゃったの?」

「うん。お腹いっぱい、ごはんを食べてたからな」

「ふふ、可愛い」

「あ、そうだ。風華。これ」


風華に、小袋のひとつを渡す。


「え?何これ」

「開けてみて」

「うん…」


袋の中に入ってたのは、首飾り。


「これ…」

「風華にだ。昨日、桜にこれを貰って、思いついたんだけど」


銀の腕輪を見せる。


「もしかして、これ、水晶の勾玉…?」

「ああ。どうだ?」

「うん、ありがと。すごく綺麗…」

「そうだな」

「でも…これ、すっごく高かったんじゃないの…?」

「…風華。お前の悪い癖だ。すぐに値段を気にする。金の話に持っていく。値段なんてどうでもいいだろ?オレが風華に贈りたいから贈る。それだけのことじゃないか」

「あ…ごめん…」

「謝るところじゃないだろ?」

「ふふ、そうだね。…ありがと、姉ちゃん」

「どういたしまして。ほら、着けてみて」

「うん」


風華は髪が長いからな。

後ろで留められるようにしてもらって正解だった。


「どう?」

「うん。似合ってる」

「えへへ、ありがと、姉ちゃん」

「うん」


昨日のような、何か思うところがあるような笑顔は、そこにはなかった。

ただ純粋に、贈り物を喜んでくれている、そんな笑顔。

うん、やっぱり、こっちの方がいいな。

そして、思わず


「わわっ!何!?」

「ふふっ、なんでもないよ!」


風華を抱き締めてしまった。

革屋に依頼を出したのは、この日の朝。

桜の手紙と一緒に持っていってもらった、ということになっています。

水晶の勾玉ということは、革屋と言いながら宝石の加工もやってるんですね。

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