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灯は、夕飯の買い出しに祐輔を連れていってたらしい。

まあ、少し話をしたいということもあったんだろうけど。

二人は帰ってくるとすぐに夕飯の準備を始めて。

そして、まだおかずしか出てないというのに、騒ぎは起きていた。


「あーっ!なんで盗るのさ!自分のがあるでしょ!」

「食べるのが遅いのが悪いんだよ!」

「これは最後に取っておいたの!しかも、まだいただきますもしてない!」

「ふぅん」

「紅葉姉ちゃぁん…」

「まったく…。なんでお前らは、もっと静かに出来ないんだ」

「イナが悪い」

「いや、今回はお前が悪い」

「イナの味方するの!?」

「イナの味方をしてるわけではない。客観的に見て、今回はイナのものを盗ったお前が悪いと言ってるんだ」

「………」

「足りないなら足りないと言え。なんで弱い者いじめをするんだ」

「いじめてなんか…ないもん…」

「イナが楽しみにしているものを横盗りして、それがいじめじゃなかったら何なんだ」

「…イナが悪いもん」

「話が進まないな」


キリの皿に手を伸ばし、大切に取り置きされてある唐揚げをひとつ盗る。

すると、怒りと哀しみが入り混じったような顔をして。


「それ、私の!なんで、紅葉姉ちゃんが盗るのよ!」

「お前がイナのを盗って、それでイナが悪いと言うなら、今のは盗られるキリが悪いだろう」

「今のは紅葉姉ちゃんが悪い!」

「じゃあ、なんでイナのを盗ったお前は悪くないんだ」

「盗られる…イナが悪い…」

「それなら、今のも盗られたお前が悪いな」

「今のは…!今のは…盗った紅葉姉ちゃんが悪い…」

「また戻ってきたな。盗った方が悪いなら、イナのを盗ったお前が悪いな?」

「うぅ…」

「どうだ」

「…盗られたイナが悪い。でも、盗った紅葉姉ちゃんが悪い…」

「それは両立できないな。盗られた方が悪いか、盗った方が悪いか。どちらか一方だけだ」

「うぅ…」

「どっちにする。好きな方を選べ」

「…盗られた方が悪い」

「よし、分かった。じゃあ、イナ。キリのを盗ってやれ」

「えっ?」

「盗られた方が悪いんだ。盗ったイナは悪くない」

「ダメ!盗っちゃダメ!」

「盗られる方が悪いんだろ?そら、イナ。さっき盗られたんだ。唐揚げをやろう」

「あーっ!」

「なんだ。盗られるキリが悪いんだろ?」

「うっ…うぅ…」


キリは唐揚げをふたつも盗られ、もう何がなんだか分からなくなってしまったらしい。

最後には泣き出してしまった。

イナはオロオロとして、手をパタパタさせている。


「…キリ。どっちが悪いか、もう一回、考えてみないか?」

「盗った方が悪いよぉ…」

「そうだろ?じゃあ、イナに言うことがあるんじゃないのか?」

「うぅ…。ごめんなさい…」

「うん…。もういいよ…」

「よしよし。よく言えたな」


泣きじゃくるキリの頭を撫でて、盗られた二個とオマケに一個、返してやる。

イナの皿にも、追加の一個を乗せて。


「ありがと…」

「ちゃんと謝れたご褒美だ」

「うん…。ごめんなさい…」

「よしよし」

「えへへ…」


キリの頭を撫でてやると、少し笑ってくれた。

賑やかな食事はいいが、喧嘩はごめんだ。

これで、少しは平和になればいいんだけど。

…とりあえず、ソロソロと伸びてきた桜の手を撃墜しておく。



明日あたりには帰られるかな…。

いや、やはり、禁地への侵入を手引きした者が見つかるまで待つべきなんだろうか。

朝にでも、佐之助や静香と相談してみようかな。


「…紅葉姉ちゃん」

「ん?」

「…まだ起きてたんだ」

「ああ」

「………」

「どうした」

「悪であることを、自分が悪となって相手に悟らせるなんて、思いつきもしなかった」

「そんな大層なことじゃない」

「ううん…。キリのイタズラには、俺たちもちょっと手を焼いてたんだ。でも、あんな怒り方があるなんて知らなかった」

「怒り方、か。怒るのに決まった方法はない。正しいことを教えたいという気持ちがあれば、言葉や行動は自然と出てくるはずだ」

「じゃあ、俺たちにはその気持ちが足りなかったのかな…。俺やマオが怒っても、なかなか言うことを聞いてくれなかった…」

「足りないなんてことはないはずだ。ただ、お前たちは近すぎるんだ。どちらかと言えば兄弟ってかんじだから、なかなか素直に聞き入れてくれないんだろ。お前たちを、大人として認めていないから」

「俺たち、そんなに子供っぽいかな…」

「そういうわけじゃない。距離が近いんだ。距離が近いから、多少歳が離れていても自分と同じように見てしまう。盗賊団にいた頃も大人はいただろうが、距離を置いていたんだろ?」

「うん…」

「周りに自分と対等の者しかいなかった中、急に立場が上の者が入ってきた。そして、勢いよくズカズカと入ってくるものだから、見極めたり選んだり出来ないうちに、認めざるを得なかった。それだけの話だ」

「そう…なのかな」

「ああ」

「………」


兄弟だから言うことを聞かなくていいということではないけど。

しかし、対等でありたいと思っている者からの忠告は、必要以上に耳が痛くなるものだ。

同じ立場の者から注意されるということは、自分に注意されてるのと同じことだから。


「それでも、同じ位置にいないと出来ないこともある」

「え?」

「距離が近いからこそ、出来ることもあるんだ」

「…うん」


それは、自分で見つけないといけないこと。

でも、ツカサならすぐに見つけられるだろう。

難しいことではない。

答えは、近くにあるんだから。

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