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太陽は昇ったばかりで、まだ仄暗い。

みんな、まだ寝ていた。

…ちょっとだけ、外の空気でも吸いに行こうか。

まだ少し鈍い身体を起こして立ち上がる。

よく見れば、昨日の罠師がいない。

どこかに逃げたんだろうか。

まあ、あいつの自由にすればいいんだけど。

でも、やっぱり少し気になることは気になる。

どこに行ったんだろうな。



警察署には、灯りが点いていた。

昨日からずっとなんだろうか。

前のちょっとした広場には、気分転換だろうか、ちらほらと人の姿が見える。


「ご苦労さま」

「ん?あっ、衛士長さま!勿体なきお言葉!」

「いつの時代の人間だよ…。首尾の方はどうだ」

「はっ、良好であります!」

「軍人か、お前は」

「いえ、警察官ですが」

「…まあいい。一網打尽に出来たのか?」

「いえ。しかし、頭領と首謀者は取り押さえました。やはり、前所長だったようです」

「ふぅん…」

「罠を突破すれば、意外とあっさりしてましたね」

「そう…だな。まあ、まだ禁地への侵入を許していた者の割り出しとか、切った木の売却先とか、問題は山積みだけどな」

「はい」

「オレは大して何もしてやれないけど…事件解決のために、尽力してくれ」

「はっ!激励のお言葉、感謝いたします!」

「ああ。頼んだぞ」

「はっ!」

「…それで、今回逮捕された者を見ておきたいんだが」

「囚人を見たい、と」

「ああ」

「分かりました。すぐに手配します」

「ありがとう」

「いえ」


簡単に敬礼をして、警察署内へ走っていった。

さて…先に牢屋に向かっておくか。

どこだろう…。



ガチャリと無機質な音が響く。

重たい扉を開けて、目の前の階段を降りていくと、左右にたくさんの牢が並んだ廊下に出る。


「今、ここにいる者が、昨日捕まった賊たちです」

「そうか。ありがとう」

「いえ。では、私はここで待機してますので、御用の際はお申し付けください」

「…旅館?」

「あぁ、失礼いたしました。前のときの癖で…」

「いや、丁寧で良いかんじだ。牢屋には似合わないかもしれないが」

「はい…」


昔は旅館で働いていたのか。

変わった経歴を持つ者もいるんだな。

まあ、自分が言えたことではないが。

とりあえず、コソコソと侵入してきたチビを捕まえる。


「何をしてるんだ、お前は」

「うぅ…離せ!」

「あっ、こいつ!どこから!」

「待て。オレの連れだ」

「しかし、昨日の者なのでは…」

「今は、オレの連れだ。許してやってくれ」

「は、はぁ…」

「ありがとう」

「うぅ…みんなを助けるんだ!」

「ちょっと黙れ。今から見て回るんだ。五月蝿くするなら、ここで待っててもらうぞ」

「………」


罠師のチビは、静かになって。

…よし、見にいくか。

逃げ出さないように…と思ったが、罠師から手を繋いできた。

怖いんだろうか。

それならそれでいい。

ひとつずつ、牢を見ていく。


「………」

「寝てるな。全員知ってるやつか?」

「…うん」

「そうか」

「………」


どの牢も、三、四人で雑魚寝をしていた。

いかにも盗賊という風貌の者から、普通の商人のような格好の者もいる。

しかし、この格好は…。

どこかに潜入してたりするんだろうか。

例えば、守人とか。


「あっ…」

「ん?」


罠師が、ある牢の前で止まった。

その牢には罠師と同じくらいか、少し上くらいの子供が五人入っていた。


「姉ちゃん!みんな!」

「シッ。静かに」

「でも!」

「五月蝿くしないという約束だっただろ」

「うぅ…」

「おい、牢番」

「はいはい。何でしょうか」


小走りでやってくる牢番。

カチャカチャと、鍵がぶつかり合う音が僅かに聞こえる。


「この牢を開けてやってくれないか?面倒事は全て引き受けるから」

「はい、分かりました」

「…あっさり承認するんだな」

「署としても、この子たちには更正の余地ありと判断しましたので、身元引き受け人さえ現れれば釈放してもよいとの通達がありました」

「なるほどな…。おい、子供はこの五人だけか?」

「うん…。他にはいなかったよ…」

「そうか」


牢番に合図を送って、牢の鍵を開けさせる。

ちゃんと手入れをされているようで、甲高い音が響いて鍵が開いた。


「ん…?」

「姉ちゃん!」

「イナ…?なんでここに…」

「姉ちゃん…!」


イナは手を離すと、姉のもとに駆け寄り、抱き締める。

姉は何が何だか分からないという風に、おどおどとしていて。


「お前たちは釈放だ。牢から出ろ」

「え…でも…」

「ここに住みたいのなら別だが」

「………」

「さあ」


背中を押すと、ゆっくりと立ち上がって牢を出る。

他の寝てる四人は、牢番と二人ずつ抱えて。


「さあ、帰るぞ」

「えっ…?」


話はあとだ。

今ので目を覚ました者もいるらしいから。

イナと姉を急かして、早々に牢をあとにした。



宿に戻ると、ちょうど朝ごはんの用意をしているところだった。

イナは結局、帰り道では何も喋らなかった。


「さあ、もう寝たふりも終わりだ。自分たちで歩け」

「うべっ…」「いたた…」


牢番にも下ろさせる。

こっちの双子らしいチビたちは、大袈裟に痛がっているけど。


「朝ごはんが食べたいやつは自分で歩いていけ」

「いたた…。何?ここどこ?」

「あいつらの隠れ家じゃないことは確かだね」

「なら、よかった。もう帰りたくないよ、あんなとこ」

「そうだね」

「…お前らはよく喋るな」

「だって、みんな喋らないし、私たちが喋らないと誰も喋らないんだから」

「そうそう。僕らが喋らないと」

「とりあえず、早く宿に入れ」

「ほいほい」「はぁい」

「ほら、お前らも」

「………」「ふぁ…」

「なんだ、お前は本当に喋らないんだな」

「…喋る必要もありませんので」

「可愛げがないな」

「………」


最年長かと思われる男の子は、そのまま賑やかな双子と宿に入っていく。

何なんだろうな。

まるで大人を信用していないような、そんな印象を受けた。


「ツカサは、本当は、もっと明るくて元気なの!だから…」

「分かってるよ、イナ」

「…姉ちゃん!姉ちゃんも!」

「この人は、ちゃんと分かってくれてるよ。心配しなくても大丈夫。…あ、すみません。この人だなんて…」

「紅葉だ」

「紅葉…さま」

「さまは余計だ」

「すみません…」


…謝る癖が付いてしまっているのだろうか。

この子も相当、心に傷を負っているようだ。

そして、あと一人。


「ふぁ…。眠い…」

「お前はえらくのんびりしているな」

「よく言われるよ」

「…そうか」

「ふぁ…。もう一回寝る…」

「…本当に暢気だな」


まあ、こっちはあまり心配はなさそうだ。

私に寄り掛かると、立ったまま眠ってしまった。

…器用なやつだな。


「さて、二人も運ばせてしまった上に、長々と付き合わせてしまって悪かったな。ご苦労さま。朝ごはん、食べていくか?」

「いえ。私は署に戻ります」

「そうか。ありがとう。ご苦労さま」

「いえいえ。では、また」

「ああ」


牢番は軽く敬礼をして。

そして、帰っていった。

…じゃあ、三人を連れて朝ごはんとするか。

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