18
「ん~」
「退屈なら帰ってもいいんだぞ」
「退屈じゃないよ」
「ならいいんだけど」
「でも、すっごく暇」
「暇と退屈は違うものなのか?」
「うん」
「どう違うんだ?」
「暇は、することがなくてつまんないっていう意味。退屈は、つまんなくて面白くないっていう意味」
「ふぅん…」
「ねぇ、ちゃんと分かったの?」
「いや、全然」
「…ダメダメだね、いろはねぇ は」
「そうかもな」
つまりは、何もすることがない、だから面白くない、というのが暇。
することがある、あるいは、何かをやってても、それが全く面白くない、というのが退屈。
ってことなんだろう。
「暇だな~」
「じゃあ、伝令班の仕事でもしてみるか?」
「うーん…そうだね」
「よし。ここに重要文書がある。これを、市場の革屋に届けてほしい」
「何が書いてあるの?」
「それは機密事項だ。ちなみに、この紐、特殊な結び方で結んである。開けたら分かるし、結び方を知らなかったら元にも戻せないぞ?」
「う…」
「いかに迅速に、いかに正確に。それが、伝令班の心得だ。ほら、行ってこい」
「分かった…」
中身を見れなくて残念…といったところだが、やることはしっかりやるのが桜だ。
文書を入れた箱を渡すと、伝令らしく素早く駆けていった。
うん、伝令の素質もあるみたいだな。
私はもっと別のところが気になるんだけど。
…それより、革屋の場所は分かるんだろうか。
まあ、分からなくても、道を聞くなりなんなりするよな…。
ん?
帰ってきたみたいだ。
「お帰り」
「ただいま戻りました!」
「で、どうだった?」
「はっ!これが隼殿からの返信です!」
「うん、ありがと」
「いえっ!あと、派遣班ですが、隣国からの侵略の心配は今のところなさそう、とのことです!デガナの収穫も順調で、毎日やり甲斐を感じている、との報告もあります!」
「デガナ…。まったく…どこのどいつなんだ…。ちゃんと訓練もやってるんだろうな…」
「はっ!その辺は大丈夫とのことです!」
私がぼやくことを見越して答えを用意する、この周到さは伊作だろうな…。
まあ、相変わらずみんな楽しそうで良かった。
「うん、分かった。ご苦労様」
「ありがとうございます!」
「あと、もっと肩の力を抜け。疲れるだろ?」
「はっ!あ…いえっ!そんなことはありません!それに、隊長の前にダラけた姿を晒すわけにもいきませんので!」
「そうか…」
「あ、いろはねぇ。こんなところにいたんだ」
「桜か。革屋の場所は分かったか?」
「うん。大きな看板が掛かってたからね」
「…ほら、これくらいゆったりしてみたらどうなんだ?」
「……?」
「いえっ!そういうわけには参りません!」
「そうか…残念だな…」
「申し訳ないです!」
「謝ることじゃないよ。…とにかく、ご苦労様。ゆっくり休んでくれ」
「はっ!では、失礼いたします!」
「ああ」
そして、また大きく羽ばたいて、城の方へ帰っていった。
あの堅苦しい雰囲気に当てられて、肩が凝るのは私の方なんだけどな。
まあ、出来ないって言うなら仕方ないけど。
「あ、そうだ。これ、貰ったよ」
「ん?そうか。ご苦労様」
桜は、綺麗な模様が織り込まれた綺麗な小袋を差し出す。
「これ、何なの?」
「開けてみな」
「いいの?」
「ああ」
「えっと…」
そっと袋を開ける。
うん、中は見なかったようだな。
「わぁ…。これ…」
「桜に、だ。ほら、着けてみな」
「うん」
中身を取り出して、早速身につける。
「どう?」
「似合ってると思う」
「思うだけ?」
「似合ってるぞ」
「えへへ、そうかな」
「ああ」
この銀の腕輪のお返し。
特注の首輪は、桜にとっても似合っていて。
鈴がチリンと心地良い音色を響かせる。
「ありがと、いろはねぇ」
「どういたしまして」
「ふふっ、ボクの首輪~」
「あ、そうだ。隼から、返事が届いたぞ」
「えっ!もう!?」
「ああ。読んでみな」
「うんっ!」
半ば奪うように手紙を受け取ると、バッと勢いよく開いた。
鈴がチリンチリンと激しく揺れるくらいに。
「………」
「………」
…桜のに比べると、だいぶ拙い絵だな。
でも、言いたいことは伝わってきた。
「隼…」
「良かったな」
「うん…って!いろはねぇ!見たの!?」
「そんなに大きく、見てくださいと言わんばかりに広げてたら、そりゃ見るだろ」
「にゃぁ~!」
顔を真っ赤にさせて、その場にうずくまる。
フルフルと頭を振っているが、もう後の祭りだ。
「うぅ~…」
「ふふふっ」
「笑い事じゃないよ~…」
「でも、ちゃんと想いは伝わった」
「うん…そうだね…」
「また、たまにでも手紙を書いてやるんだな」
「うん」
書かれていたのは、女の子を想う男の子の絵。
二人とも、手紙を持って、幸せそうに笑っていて。
…どんなに遠くても、想いが通じる。
ホントに、手紙っていうのは、不思議なものだな。
不思議なものです。