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「ん~」

「退屈なら帰ってもいいんだぞ」

「退屈じゃないよ」

「ならいいんだけど」

「でも、すっごく暇」

「暇と退屈は違うものなのか?」

「うん」

「どう違うんだ?」

「暇は、することがなくてつまんないっていう意味。退屈は、つまんなくて面白くないっていう意味」

「ふぅん…」

「ねぇ、ちゃんと分かったの?」

「いや、全然」

「…ダメダメだね、いろはねぇ は」

「そうかもな」


つまりは、何もすることがない、だから面白くない、というのが暇。

することがある、あるいは、何かをやってても、それが全く面白くない、というのが退屈。

ってことなんだろう。


「暇だな~」

「じゃあ、伝令班の仕事でもしてみるか?」

「うーん…そうだね」

「よし。ここに重要文書がある。これを、市場の革屋に届けてほしい」

「何が書いてあるの?」

「それは機密事項だ。ちなみに、この紐、特殊な結び方で結んである。開けたら分かるし、結び方を知らなかったら元にも戻せないぞ?」

「う…」

「いかに迅速に、いかに正確に。それが、伝令班の心得だ。ほら、行ってこい」

「分かった…」


中身を見れなくて残念…といったところだが、やることはしっかりやるのが桜だ。

文書を入れた箱を渡すと、伝令らしく素早く駆けていった。

うん、伝令の素質もあるみたいだな。

私はもっと別のところが気になるんだけど。

…それより、革屋の場所は分かるんだろうか。

まあ、分からなくても、道を聞くなりなんなりするよな…。



ん?

帰ってきたみたいだ。


「お帰り」

「ただいま戻りました!」

「で、どうだった?」

「はっ!これが隼殿からの返信です!」

「うん、ありがと」

「いえっ!あと、派遣班ですが、隣国からの侵略の心配は今のところなさそう、とのことです!デガナの収穫も順調で、毎日やり甲斐を感じている、との報告もあります!」

「デガナ…。まったく…どこのどいつなんだ…。ちゃんと訓練もやってるんだろうな…」

「はっ!その辺は大丈夫とのことです!」


私がぼやくことを見越して答えを用意する、この周到さは伊作だろうな…。

まあ、相変わらずみんな楽しそうで良かった。


「うん、分かった。ご苦労様」

「ありがとうございます!」

「あと、もっと肩の力を抜け。疲れるだろ?」

「はっ!あ…いえっ!そんなことはありません!それに、隊長の前にダラけた姿を晒すわけにもいきませんので!」

「そうか…」

「あ、いろはねぇ。こんなところにいたんだ」

「桜か。革屋の場所は分かったか?」

「うん。大きな看板が掛かってたからね」

「…ほら、これくらいゆったりしてみたらどうなんだ?」

「……?」

「いえっ!そういうわけには参りません!」

「そうか…残念だな…」

「申し訳ないです!」

「謝ることじゃないよ。…とにかく、ご苦労様。ゆっくり休んでくれ」

「はっ!では、失礼いたします!」

「ああ」


そして、また大きく羽ばたいて、城の方へ帰っていった。

あの堅苦しい雰囲気に当てられて、肩が凝るのは私の方なんだけどな。

まあ、出来ないって言うなら仕方ないけど。


「あ、そうだ。これ、貰ったよ」

「ん?そうか。ご苦労様」


桜は、綺麗な模様が織り込まれた綺麗な小袋を差し出す。


「これ、何なの?」

「開けてみな」

「いいの?」

「ああ」

「えっと…」


そっと袋を開ける。

うん、中は見なかったようだな。


「わぁ…。これ…」

「桜に、だ。ほら、着けてみな」

「うん」


中身を取り出して、早速身につける。


「どう?」

「似合ってると思う」

「思うだけ?」

「似合ってるぞ」

「えへへ、そうかな」

「ああ」


この銀の腕輪のお返し。

特注の首輪は、桜にとっても似合っていて。

鈴がチリンと心地良い音色を響かせる。


「ありがと、いろはねぇ」

「どういたしまして」

「ふふっ、ボクの首輪~」

「あ、そうだ。隼から、返事が届いたぞ」

「えっ!もう!?」

「ああ。読んでみな」

「うんっ!」


半ば奪うように手紙を受け取ると、バッと勢いよく開いた。

鈴がチリンチリンと激しく揺れるくらいに。


「………」

「………」


…桜のに比べると、だいぶ拙い絵だな。

でも、言いたいことは伝わってきた。


「隼…」

「良かったな」

「うん…って!いろはねぇ!見たの!?」

「そんなに大きく、見てくださいと言わんばかりに広げてたら、そりゃ見るだろ」

「にゃぁ~!」


顔を真っ赤にさせて、その場にうずくまる。

フルフルと頭を振っているが、もう後の祭りだ。


「うぅ~…」

「ふふふっ」

「笑い事じゃないよ~…」

「でも、ちゃんと想いは伝わった」

「うん…そうだね…」

「また、たまにでも手紙を書いてやるんだな」

「うん」


書かれていたのは、女の子を想う男の子の絵。

二人とも、手紙を持って、幸せそうに笑っていて。

…どんなに遠くても、想いが通じる。

ホントに、手紙っていうのは、不思議なものだな。

不思議なものです。

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