表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/578

179

ちょうど半刻くらい経ったところで、馬車は宿に着いた。

カルアの時間感覚は確かに正確なようだ。

新しい場所に来たということで、子供たちも大はしゃぎしている。


「おっきい家~」

「そうだな。今日からしばらく、ここに泊まるんだぞ」

「ホントに?」

「ああ。ほら、中を探険してこい」

「うん!」


元気よく走っていったチビたち…と桐華のあとについて、望と祐輔と翔も走っていく。

…桐華は何回もここに来てるんじゃないのか?

本当に、子供みたいなやつだな…。


「じゃあ、役所に行こっか」

「ああ」

「ボクは嫌だなぁ」

「それなら、子供たちと宿で待ってろよ。今日は挨拶だけだし、まあ今後も行くことはないだろ。今回の旅行を楽しめばいい」

「それでいいの?」

「そうだな。付け加えるとすれば、子供たちの面倒をしっかり見てやってくれ、くらいだ」

「うん、分かった。ありがと」

「ああ。でも、必要なときは手伝ってくれよ」

「分かってる分かってる」


そう言って軽く手を振ると、桜も宿の中へ入っていった。

あとに残ったのを見回して。


「私はどうしよっかな~」

「来ない方がいいんじゃないか?」

「えぇ…」

「それより、厨房を借りて夕飯を作らせてもらったらどうだ」

「あ、それはいいかも」

「じゃあ、それで決まりだな」

「うん。ユカラはどうする?」

「んー。どうしよっかな。姉ちゃんはどう思う?」

「お前の好きなようにすればいい。まあ、子供たちの体調管理をしてもらったら助かるかな。医療班はお前だけだし。はしゃいでるから、反動があるかもしれないし」

「そうだね、分かった。そうする」

「すまないな」

「なんで?」

「絶対に犯人を捕まえるって意気込んでただろ?」

「あぁ。いいよ、そんなの。桜と同じで、手伝わせてくれたらそれでいいから」

「ああ。ありがとう」

「うん」


灯とユカラも宿に入り、残りは佐之助と純香、あとは天照の面々。

こんなものかな。


「私たちは行きますよ」

「分かってる」

「なら、いいです」

「純香…隊長にその口の聞き方はないだろ…」

「敬語は使ってるでしょ」

「態度の問題だ」

「いいじゃない。隊長は優しいんだから」

「優しさに甘えるのはどうかと思うぞ」

「お前ら。喧嘩をするなら帰ってもらうぞ」

「あ…。すみません…」「すみません、隊長…」

「よし。遙、役所まで」

「はいよ」


馬車に乗って役所へ。

今回は、一台で充分。

さて、どうなるかな。



役所は意外にも狭かった。

天照の宿の方が大きいんじゃないだろうか。

所長室も六畳ほどで、佐之助に純香、所長、私と、四人もいると本当に狭かった。


「その問題は、当方でも調査しておりました」

「報告が遅れてた…というか、匿名の密告があったのは?」

「報告が遅れたのは、不確かな情報で中央の手を煩わせるのはどうかと思いまして、調査を優先していました。申し訳ありません。しかし、報告出来るだけの情報がまとまったので、ちょうど報告書を作成していたところでした。密告の件は知りません。ただ、ここの職員や私ではないのは確かです」

「そうか」

「おそらく、リュクラスの守人かと思われます」

「そうだろうな。それで、調査の結果は?」

「はい。確かに森林は伐採されており、犯人も旅人によって目撃されています」

「でも、逮捕には至ってないと」

「申し訳ありません」

「いや、責めているんじゃない。そこまで分かっているのに、どうして逮捕に至ってないのかが気になってるんだ」

「指名手配書を作るにしても、夜の目撃証言ばかりで、犯人の顔がはっきりしないのです。梟族等の、夜目の利く者の証言は得られていません。また、直接出向いても、犯人も犯人で予防線を敷いているらしく、鳴子等の罠に掛かってしまい、逃げられてしまうのです。細心の注意は払っているのですが、お恥ずかしながら、まだ突破出来てません」

「まあ、腕の立つ罠師がいれば、突破するのは難しいだろうな。しかし、そういうものがあるということは、確実にそこにいるということだ」

「はい」

「いつ出没する、とかは分かってるのか?」

「毎日少量ずつ切り倒されているようです。朝に向かったときには、罠もなくなってまして」

「ほぅ…。人数はいないということか…」

「おそらく。目撃証言からも、二、三人のごく少人数であることが分かっています」

「二、三人か…」

「はい。裏で手を引いている者の検討はついているので、あとは現行犯逮捕、白状させるだけなんです。どうか、ご協力よろしくお願いします」

「待て。裏にいるやつが分かってるのか?」

「はい。…いえ、正確には分かっていませんが、間違っているという可能性はないでしょう」

「誰なんだ?」

「…前所長です。前王との関わりも深く、今の王によって追放されたのですが、まだ根を張っているらしく、昔のツテを使ってリュクラスの木を切り、荒稼ぎをしてるんでしょう」

「そんなことをしてどうするんだろうな」

「買収による返り咲きか、高飛びか。真意は分かりませんが、ろくなことではないでしょう」

「買収…か」

「ええ。しかし、カシュラの者は優秀な職員ばかりです。買収されるようなことはないです」

「自信満々だな」

「はい、自慢の部下です。リュクラスの守人とは違います」

「…お前は、守人が一枚噛んでいると思ってるのか?」

「そうでなければ、どうやって厳重な警備の禁地に忍び込んで木を切るんですか」

「管轄は違うかもしれないが、ご近所さんじゃないか。どうして信じられないんだ」

「禁地は守人の管轄です。そこで悪事が横行するということは、守人の怠慢、あるいは、不正に他なりません。どうして、そんな人たちを信じられますか?」

「不正は悪、だと」

「もちろん」

「では、リュクラスを調査にあたって、お前は守人たちの許可を貰った上で調査したか?」

「不正を働いている張本人が許可を出すわけがないじゃないですか」

「じゃあ、どうやって禁地に入ったんだ」

「そりゃ、通行証明書を使って…」

「どうした?」

「いえ…」

「通行証明書は、その名の通り、通行を許可するものだ。決められた道を外れることは許されない。しかし、調査となれば道を逸れる必要があり、その場合は責任者である守人に許可を貰わないといけない。それがどうだ。不正は悪だと声高々に叫んでいるお前が、通行証明書だけで禁地に踏み入るのは不正じゃないのか?」

「そ、それは…」

「正義のため、か?便利な言葉だな、正義ってのは。全てを正当化出来る。戦ですら、な」

「い、いえ…。そういうわけでは…」

「じゃあ、どういうわけだ。すまないな。オレはバカだから分からないんだ。分かるように説明してくれないか」

「…す、すみません」

「謝っても分からないし、謝られる覚えもない。お前のやったことが正当であるということを証明してくれないか。このままでは、オレはお前を疑ったまま調査しないといけない」

「か、勘弁してください…。今後はきちんと許可を取ります、守人も疑いません…」

「まったく…。正義感が強いのは感心出来るがな、それを振りかざして周りが見えなくなるのはいただけないな。真っ直ぐすぎるんだ、お前は」

「すみません…」

「不法侵入の処分はまた今度だ。今は、事件解決に尽力しよう」

「はい…」

「声が小さい」

「はい!」


まあ、こういう真っ直ぐすぎるやつも嫌いではないんだけど。

しかし、この真っ直ぐさは、事件解決には大いに役立ってくれるだろう。

…それにしても、佐之助と純香は何も喋らなかったな。

狭いんだから、出ていってくれたらよかったのに…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ