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お腹がいっぱいになると、チビたちはすぐに眠ってしまった。

さっきまでと比べると、本当に静かで。


「ふぁ…」

「祐輔も寝てていいんだぞ」

「うん…」

「みなさん、お昼寝ですか?」

「ああ。よく寝てるよ」


望の頬に触ると、パタパタと尻尾を振って。

やっぱり、可愛いな。


「今、誰が起きてるんだ?」

「オレしか起きてないよ。祐輔も、もう寝てる」

「んー…。寝てない…」

「じゃあ、早く寝ろ」


手元に引き寄せて、頭を撫でてやる。

我慢しているのか、眉間のところに皺を寄せていて。

まあ、もう無理そうだな。


「それで、どうしたんだ?」

「ん?ちょっとな」

「なんだ」

「話でもしようかと思って」

「そうか」

「うん」


翔は少し間を置いて。

何の話をするかは決まっているみたいだ。


「…天照に入団して思ったんだ。いや、ユールオの城に来てから思った。帰る場所があるってのはどういうことかって」

「うん」

「もといた孤児院だって、帰る場所なんだけど。でも、帰るには少し遠いところまで来てしまった。それが自分だけならいいけど、弥生まで巻き込んでしまって」

「そうか」

「うん。今まで気付かなかったけど、南下してから弥生は笑わなくなってた。行く街行く街、友達が出来たとしても、すぐに別れないといけなかったから。笑う間もなかった。俺も旅に必死で、弥生を見てなかった。でも、見てるつもりだったんだ」

「………」

「自分がどれだけバカだったのか、やっと分かった。ここまで来て。弥生が、また笑ってくれてるのを見て。後悔したよ。孤児院にいれば、こんな思いをしなくて済んだはずなのに」

「また自分を責めるのか?」

「責めたくなるよ。俺の勝手で旅に出て、まだ自分の意志をはっきりさせられないくらい小さかった弥生を、ほとんど無理矢理連れてきたんだから」

「弥生は、無理矢理連れてこられたなんて思ってないはずだ。今までも、これからも」

「そうだといいんだけどな。でも、やっぱり怖いよ。俺が連れ出したばっかりに、弥生の人生が滅茶苦茶になったんじゃないかって」

「お前が思ってるほど、弥生は弱くないよ。お前は、少し妄想に取り憑かれているだけだ」

「はは、妄想か。紅葉姉さんは口が辛いな」

「そんなことはないさ。城にいた間に、少し考えすぎたんだろう。一度、考えるのをやめてみればいい。そしたら、答えは割と簡単に見つかるはずだから」

「そう…かもな」


まあ、考えるのをやめるのが、今の翔にとって一番難しいことなんだろうけど。

当の本人、弥生の言葉も、気遣いにしか聞こえないだろうな。

…時間が解決してくれるのか。

それとも、私たちが力を貸すべきなのか。

いや、両方必要なんだろう。

まったく、難しい問題だ。



カタカタと、車輪が地面を蹴る音は森の中と比べてだいぶ変わっていた。

しっかりと踏み固められた地面は、カシュラも近いということを報せている。


「あとどれくらいだ」

「半刻といったところでしょうか。予想より早かったですね」

「そうなのか?」

「はい。到着は夕飯前くらいかと思ってましたので」

「ふぅん…」

「宿は旅団天照のものを使いますか?」

「そう、だな。組合の宿でもいいけど」

「令状もありますからね。でも、多少なりともお金は掛かるので、うちの方がいいでしょう」

「天照の宿だと無料なのか?」

「正確に言えば違いますが、護衛料に含まれています」

「じゃあ、そっちに泊まらないと損じゃないか」

「いえ。向こうに知人がいるとかで旅団の宿より安く泊まれる場合は、宿代にあたる分を引かせてもらってます。また、小さな村などで旅団の宿自体がない場合も、引かせてもらっています」

「ふぅん…。それで、それはいくらくらいなんだ」

「一人一泊五百円といったところです。子供は三百円ですね」

「なんでそんなに安いんだ?」

「宿が本業ではないですし、護衛料だけでも充分に維持出来ますので。護衛料は、だいたい人件費が八割程度、その他そういった維持費や貯蓄へ回す分が残りの二割です。五百円は、宿に停泊してる団員への手当てに使われます。個人で泊まられるということはまずないので、それでちゃんと賄えるんです」

「ふぅん。宿には何人くらいいるんだ?」

「宿が本業ではないとはいえ、組合の宿としても運営してるので、常駐の職員はたいてい六人くらいいます。料理人が二人、雑務をこなす者が三人、責任者が一人ですね」

「ほぅ。割と大きいんだな」

「ええ。カシュラの宿は、それなりに大きいです」

「ということは、まだ大きなものがあるんだな」

「はい。ルイカミナやヤマトの宿は、常駐二十人超えの大規模なものです。それでも、ラズイン旅団やユンディナ旅団には敵わないんですが」

「ほぅ」

「ラズイン旅団やユンディナ旅団は、主要な街に大きな宿を構えるという体系なんです。ユールオは古くからある城下町なので、そういった大型の宿を構える土地がなかったようですが。対して、私たち旅団天照は、小さな宿をいろんな場所に作るという体系を取ってます。でも、活動範囲がルクレィ中心なので、宿もその辺になってしまいます」

「まあ、いろんなところに作れば、管理も行き届かなくなるしな」

「はい」


旅団天照はヤゥト発祥だしな。

ラズイン旅団もこの辺だと聞いたことはあるけど、ユンディナ旅団はどこなんだろ。

今度、来たときに聞いてみようかな。

…覚えていたら。

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