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「猪鹿蝶だよ」

「えぇ~…」

「望は、本当に引きが良いな」

「えへへ」

「ねぇ。これ、出していい?」

「ああ。やってみろ」

「うん」


サンは手札から酒を出して、月見酒を完成させる。

山札からは桐の一点。

場札の一点と合わせて取る。


「あー、サンが持ってたのか…。山札にあると思ってたんだけどなぁ…」

「花見酒が出来なくて残念だったな」

「ホントだよ…。さっきからついてないなぁ…」


桐華は自分の手札と場札を見比べて、ため息をつく。

…そんなに悪いのか?

確かに、さっきから負け続けではあるけど。


「みなさん。その試合が終わったら、お昼ごはんにしましょうか」

「はぁい」

「お昼ごはん~」

「んー、あんまりお腹空いてないかも」

「朝ごはんが遅かったからな」

「とりあえず、早く終わらせようよ」

「そうだな」

「じゃあ、俺の番」


祐輔が手札から松の五点を出して、場の一点と合わせる。

そして、山札からは雨の一点が出たが、場にはない。

…昼ごはんが近いと分かると、進行速度が上がったな。

そして、終わるまで誰も喋らなくて。



最後は望が青短も揃えて大勝ちをしていた。

逆に桐華はボロボロで。


「あー、引きが悪かった」

「ていうか、花札なんてどこから持ってきたのよ」

「ん?馬車に置いてあった」

「もう…。遊んで出しておくのを忘れてた、の間違いでしょ?」

「そうとも言う」

「まったく…」

「そっちは何してたんだ?」

「桜が裁縫をしだしたから、みんなでやってたよ」

「桜も、どこから裁縫道具なんて持ってきたんだよ」

「お城から持ってきてたの。道中、絶対暇だと思ったから」

「まあ、先を見通せるのは良いことだ」

「そうでしょ」

「そうだな」

「…なんか、ちょっと面倒くさそうに言った」

「そう聞こえたなら、そうかもしれないな」

「もう…」


眉間に皺を寄せる桜の頭を軽く撫でておく。

この程度で機嫌が取れるとも思ってなかったけど、案外そうでもないらしい。


「それで、何を繕ってたんだ?袴か?」

「穴なんてないよ…。刺し子をしてたの」

「ほぅ。刺し子」

「出来たら見せてあげるね」

「それは楽しみだ。ユカラも刺し子か?」

「うん。みんな刺し子だよ」

「布はあんまり持ってこなかったのか?」

「かさ張るから。糸なら軽いし」

「まあ、そうか」

「いっぱい持ってきたから、帰りも出来るよ」

「ふぅん…。ところで、着替えとかはちゃんと持ってきたんだろうな?」

「ん?んー…」

「忘れたんだって。用意はしてたけど」

「ユ、ユカラ…」

「そんなことだろうと思ったよ…。まあ、桜の着替えは風華から預かってるから」

「えっ、風華が?」

「準備をしてたら、桜は気を張ると必ず何か失敗するから…って、着替えを渡してきたんだ」

「へぇ…」

「あはは。ちゃんと分かってるんだね、風華ちゃんは」

「笑い事じゃないよ、はるかねぇ…」

「まあ、しっかり者のお姉さんを持って幸せだって思えばいいのよ」

「ボク、風華と同い年だけど…」

「ははは。そうだったそうだった」

「もう!」


遙は腹を抱えて笑って。

そうなんだよな。

風華と桜が同い年なんて、にわかには信じがたいけど。


「お母さん~」

「ん?どうした?」

「向こうでね、ヤモリ捕まえた!」

「ヤ、ヤモリ…?」

「どれ、見せてみろ」

「うん」


手を出すと、サンはヤモリを放して。

ヤモリは驚いたのか、ジッとしている。


「結構大きいな。どこにいたんだ?」

「んー。馬車に引っ付いてた」

「馬車か」

「うん」

「どこから引っ付いてきたんだろうね」

「さあな。でも、とりあえずだ、サン。ヤモリの家は、たぶん馬車じゃないと思う。だから、家に帰してやってくれないか?」

「家?」

「そうだ。家だ。サンにもあるだろ?」

「うん。お城」

「ああ、そうだな。サンに家があるのと同じで、このヤモリにも家があるんだ」

「どこ?」

「森の中だろうな。その辺に置いてやれば、自分で帰るだろう」

「分かった」


サンは、私の手の上にいるヤモリをそっと掴むと、地面に放す。

すると、ヤモリはスルスルとどこかへ行ってしまった。


「帰した」

「そうだな。優しいな、サンは」

「えへへ」


頭を撫でてやると、ギュッと抱きついてきて。

そして、クルリと反転して私の膝に座る。

機嫌良く足をバタバタさせて。


「あ、そういえば、ヤモリって義理堅いんだよね」

「そうなの?」

「義理堅いというか、ヤモリは家を守ると書いてヤモリと読むんだ。ヤモリを大切にすれば、家を守ってくれるってところから、義理堅いってのが来てると思うけど」

「へぇ~」

「そういえば、灯お姉ちゃんの部屋って、ヤモリがいっぱいいるよね」

「今もいるのか?」

「え?昨日行ったときにもいたけど…」


美希がいるのに、まだヤモリかが出現するのか…。

しかも、いっぱい…。

わざとなんだろうか。

それとも、もう美希も諦めてるのか…。


「飼ってるのかな」

「さあな」

「ヤモリがいっぱいかぁ。行ってみたい気もする」

「えぇっ!私は絶対嫌だからね!」

「そういえば、遙ってヤモリが苦手だったよね」

「だって、上から降ってくるんだもん!」

「あー、たまにいるよね」

「とにかく、絶対に嫌!」

「可愛いのに」

「可愛くない!」


遙は本当に嫌なようだ。

まあ、確かに、上から降ってきたらびっくりするだろうけどな。

それでも、それを帳消しにするくらいの愛らしさはあると思うけど。

感じ方は人それぞれということか。

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