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「ふぁ…」
「退屈か?」
「うん…」
「まあ、景色を見るくらいしかないしな」
「あ、じゃあ、いいものがあるよ」
「何だ」
「これ」
桐華が取り出したのは花札だった。
…なんでそんなものを持ってるんだ。
「何、それ?」
「花札だよ。とりあえず、紅葉と一回やってみるから、みんなは見てて」
「うん」
「手札って何枚だっけ?」
「二人なら八枚。場札は六枚」
「あー、なるほど」
何がなるほどかは分からないが、手札と場札を揃える。
場札はなぜか一点ばかりで。
「あちゃあ。場札はカスばっかりだね」
「そうだな」
「カスって?」
「花の模様しか描いてない札のことだ。手札は…」
うん。
ちょうど一通り揃ってるな。
「ほら、こっちに来てみろ」
「うん」
「たとえば、この四角い短冊が描いてあるのは、カスの一個上。カスが一点で、短冊は五点」
「こっちの綺麗なのは?」
「それが一番得点が高くて、十点だ」
「ふぅん」
「そうだ、紅葉。役はどうするの?」
「とりあえず、基本が出来てからだ」
「分かった。じゃあ、始めよっか」
「ああ」
「先攻?後攻?」
「どっちでも」
「じゃあ、私が後攻でいいや」
「分かった」
周りにみんなを集めて。
説明を始める。
「花札は要するに絵合わせだ。これが梅、こっちは松、紅葉、萩、山、桐。まあ、まだあるんだけど、今あるのはこれだけだな」
「うん」
「オレの手札に、場札と同じ梅がある。これだな」
「それで?」
「これを出して、場札と合わせる。合わせられたら、得点としてこの札を貰えるんだ」
手札から短冊の梅を出し、場の梅と合わせて。
そして、手元に置く。
「手札から場に札を出したら、山札を一枚めくるんだ」
「あ、鹿だ」
「そうだな。鹿には紅葉の絵が描いてあるから、この紅葉と合わせて取る」
鹿と場の紅葉を合わせて、手元に置く。
とりあえず、十七点か。
「次、桐華だぞ」
「うん。みんな、こっちにおいで」
また大移動。
説明するにしても、もう少し工夫してもよかったかな。
「ほら。ちょうど、場と同じ札がないでしょ?」
「うん」
「そしたら、どれでもいいから場に出すの。まあ、出来れば自分が取れるもの、相手に取られにくいものを出すんだけど。今回は、ぼくは十点とカスの桜を持ってるから、カスの桜を出して、次に十点で取るって作戦にするよ」
「うん」
そして、桐華は一点の桜を出して山札をめくる。
すると、それはまた一点の桜で。
「ありゃりゃ。作戦失敗。取らないとね」
「絶対に取らないといけないの?」
「うん。場の札に合う札が出たら、取らないといけないね。でも、手札から出すときは、別に取れなくてもいいんだよ」
「ふぅん…」
「さて、オレの番か」
「そうだね。まあ、基礎の基礎は説明出来たし、好きなところで見てていいよ」
「うん」「分かった」
「じゃあ、続けるぞ。手札から松の十点を出して取る。それで、めくる」
説明するために組まれたんだろうか。
なんとも都合のいいことに、鬼が出た。
「真っ赤だね」
「ああ。これは鬼と言って、好きなものと組み合わせて取ることが出来るんだ」
「何点なの?」
「一点だ。これと対になってるのは雨の札なんだけど、ここにはないな。とりあえず、萩を取っておこう」
これを取って、何になるというわけでもないけど。
しかし、あれだけ場札もバラけていたのに、一個も取るものがなかったのか。
ある意味、運が良いと言える。
さて、なんとなくでも分かってくれたかな。
早くみんなでやりたいものだ。
菊の酒を引き、見事に月見酒と花見酒を完成させる。
桐華の逆転はないな。
「あー、また負けた…。望は引きが強いなぁ…」
「そうかな」
「四人でやろ、四人で」
「四人でやったら引きが良くなる悪くなるなんてのはないと思うぞ」
「そりゃそうだけどさ…」
「まあ、一度、みんなでやってみようか」
「うん」
「組分けはどうする?他の子も、見てるだけじゃつまらないでしょ?」
「そうだな…」
花札が分かってきているのは、年長組の望と祐輔。
それに桐華と私で四人か。
残っているのは、夏月、弥生、サン。
「翔とカルアもやるか?」
「いえ。任務がありますので」
「ああ。それに、聞いてるだけでも楽しいから」
「そうか。じゃあ、望、祐輔、桐華、オレの四人を軸にして、夏月、弥生、サンは好きなところに行ってくれ」
「夏月は、おにいちゃんとやる!」
「サンはお母さん~」
「えっと、じゃあ、私は望お姉ちゃん」
「…あれ?ぼくって不人気?」
「そうみたいだな」
「まあ、なんでもいいや。じゃあ、始めよ」
「ああ」
桐華は手札と場札を揃えて。
手札は…まあまあだな。
「これ、桜」
「そうだな。でもな、サン。あまりそういうことは言わない方がいいぞ」
「……?」
「…まあいい。始めようか。順番はどうする?」
「望から右回りでいいだろ」
「んー、まあ、そうだね。じゃあ、望から」
「うん」
望は早速弥生と相談して。
どんな試合になるだろうな。