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まだ眠っているサンは、ほんのりと温かくて。

昨日も私の血を飲んだのだろうか。

起きてる間には来なかったけど。

しかし、それにしても…


「翔。もっとゆっくり走れないのか?」

「無理だよ。これ以上遅くしたら、遙姉さんに追いつけない」

「あいつ…。どれだけ飛ばしてるんだよ…」

「今日中に着くって意気込んでたから。みんな起きたら、もっと上げるかも」

「おい、カルア。あいつに文句を言ってこい」

「無理ですよ…。だいたい、どうやって馬車に追いつくんですか…。そりゃ、止めるための合図もありますが…」

「気合いだな」

「気合いで追いつけたら、苦労はしませんよ」

「何事も気合いだ」

「紅葉姉さん…。それはさすがに横車だよ…」

「遙の方が横車だ」

「そういう問題じゃ…」


しかし、馬がバテないだろうか。

この調子だと、昼まで持たないぞ。


「この速さで行くと、あと半刻もすれば中継点に入ります。替えの馬も控えているので、遙さんも飛ばしているのでしょう」

「中継点ありきの行軍なんだな…」

「ええ。そういう依頼も多いですし。出来るだけ早く着きたいとか」

「今回は、あいつの独断だけどな」

「すみません…」

「カルアが謝ることはないだろ」

「副団長の不手際は、部下の不手際でもありますので」

「普通は逆だけどな」


はぁ…。

しかし、こうガタガタしては、サンと夏月も起きてしまう。

桐華は別にいいけど。

どうにかならないものか…。


「望と祐輔も、まだ寝てていいんだぞ」

「うん」

「まあ、この状況では寝られないか」

「うん」


サンの頭を撫でると、眠りが浅かったのか、何かムニャムニャと言っている。

翼がパタパタ動いてるということは、喜んでくれてるんだろうか。

小さな手を握ると、安心したようなため息をついた。


「可愛いね」

「そうだな。望もこんなかんじだぞ」

「えっ」

「お前の場合は、パタパタと尻尾を振るんだけどな」

「お母さん…。望にイタズラしてたの…?」

「たまにな」

「もう…」


望は顔を赤らめて。

その顔も可愛い。

手を伸ばして頭を撫でてやると、そっぽを向きながらも尻尾は振ってくれた。


「姉さま、俺は?」

「祐輔は反応が薄いな。オレが触るときは、いつも熟睡してるんだろう」

「むぅ…」

「はは、そんな顔をするな。起きてるときに、可愛い様子は見させてもらってるよ」

「そ、そうかな」

「ああ」

「えへへ…」


照れて頬を掻く祐輔も撫でてやる。

望とは対照的に、祐輔は甘えたように喉を鳴らして。

三者三様、十人十色か。

歳の違いもあるだろうけど、望は可愛いと言われて恥ずかしさ半分、照れが半分。

祐輔は、照れもあるけど、嬉しさが先行しているようだ。

夏月やサンも、また違った反応を見せてくれるんだろうな。

また起きてるときに確かめてみよう。



馬車の揺れは尚も続く。

今回だけは、朝ごはんを食べなくて正解だったかもしれない。


「うぇ…」

「大丈夫か、サン?」

「うぅ…」

「翔。馬車を止める合図を送ってくれ」

「はいはい」


翔が何をしてるのかは見えなかったけど、この馬車も前の馬車も速度を落として。

追いつけるくらいになったところで降りて、文句を言いにいく。

すると、遙も馬車を降りていて。


「あはは、ごめんごめん。ちょっと飛ばしすぎたね」

「ちょっと?どこがちょっとだよ。サンが酔ってるんだぞ!」

「えっ、そうなの?酔い止めは?」

「あれは二日酔いの薬だ」

「あぁ…。なるほど…」

「なるほどじゃないだろ。とにかくだ。もう飛ばすな」

「はいはい。まあ、これだけ来たら、普通に行っても夕方には着くだろうしね」

「はぁ…」

「ため息つかないの」

「つかせてるのは誰だ」

「分かった分かった」


えらく適当な返事だな…。

まったくもって心配だ。


「…それで、中継点ってのは何だ」

「あ、聞いたんだ。中継点は、馬借や車借のためにいろんなものを置いてるところだよ。私たちは車借にあたるのかな?」

「ふぅん…」

「半刻も行けば着くと思うよ」

「そうか」

「安全運転で行けばね。飛ばせば四半刻も掛からないけど」

「何言ってんだ」


ポカリとひとつ殴っておく。

遙はイタズラっぽく舌を出して。


「静香、安全運転だって」

「はい。分かりました」

「そういえば、そっちはどうなんだ?」

「何が?」

「乗り物酔いだよ」

「あぁ。桜が寝込んでるみたいだね」

「おい…。自分の馬車でも患者が出てるのに、暴走させてたのか…」

「暴走だなんて、ねぇ?」

「はい。ちゃんと制御出来てますので」

「そういう問題じゃないだろ。今回のことを、一から説明しないとダメなのか?ん?」

「いえ…いいです…」「すみません…」

「そうか。分かってるならそれでいい。これ以降は、緊急時以外はむやみやたらに速度を上げないこと。いいな?」

「ハイ…」「分かりました…」

「まったく…」


説教をしてる間に、桜は馬車から出てきて外の空気を吸っていた。

よっぽどだったのかもしれない。

どちらにせよ、朝ごはんが食べられなくて本当によかった。

しかし、普通の速度と揺れ、あるいは、緊張状態なら誰も酔わなかったから、中継点あたりで食べておいた方がいいだろう。


「残念だったね~」

「そうですね」

「………」


うん。

あいつらには、一から説明してやらないとダメなようだな。

二人がチラリとこっちを向いたときに、ニッコリと微笑んでおいた。

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