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「速度を上げろ。見通しのいいところまで出るんだ」

「分かってる」


翔は馬を急がせる。

遙たちの方も、ちゃんとピッタリとついてきてるな。


「私が周辺を焼き払ってもいいんだが」

「そんなことをして、オレたち自身も逃げられなくなったらどうするんだ」

「まあ、それはそうだがな」


そして、カイトはまた急上昇して。

馬防具や、翔を守るカルアの盾に矢が当たる。

しかし、追っ手にしては早いな。

城に密偵が紛れこんでいたのか?


「前方、視界が開けてる。あそこで止まるんだよな」

「ああ。カルア、桐華。用意」

「はい」「はいよ」


密偵がいたとしても、たったの二十人程度で掛かってくるとは、またなめられたものだ。

やはり、別の何かということか?


「止まるぞ。三、二、一…」


草原の、大きく開けた広場の真ん中で急停止する。

夏月とサンは、それぞれ祐輔と望がしっかり抱き止めて。

弥生は見えないが、たぶん翔がちゃんとしているだろう。

カルアを残し、私と桐華は外に飛び出た。


「姉ちゃん!これ!」

「おう」


ユカラが投げて寄越したものは逆刃刀だった。

業物だろうか、かなり立派なもので。

…武器なら本当になんでも持ってるんだな。

そして向こうも、戦闘班の二人が出てきていた。


「佐之助、純香。お前たちは車周辺。オレと桐華で根元を叩いてくる。カイトは飛び道具に気をつけてくれ」

「はっ」「了解」

「そら、来たぞ」


カイトがそう言うと、空中で矢が燃えた。

牽制してるらしい。

矢が次々と燃えていく。


「桐華」

「うぃ~っす」


矢の飛んでくる方向、そして、何かが燃えている方向へ進む。

たぶん、カイトが弓ごと焼いたんだろう。


「ぼくは右ね」

「獲物が多いからか?」

「もちろん」


桐華は左から来た誰かに、文字通り鉄拳制裁を加え。

…仕方ないな。

人数では完璧に劣ってしまうけど。

桐華と分かれ、軌道を左に修正する。


「はっ!」


草陰から出てきた誰かを斬りつけると鈍い音がした。

逆刃刀だから、斬れたということはないだろう。

それでも、骨くらいは折ってしまっただろうか。

転げ回っているそいつは、見知った顔ではない。

やはり追っ手ではなく、どこかの雑魚盗賊団らしい。

それなら、それでいい。


「ふぅ…」


飛び道具を失って近距離戦闘に切り替えたせいか、ほとんど散り散りになっているようで。

追いかけるための馬や馬車があるだけだった。

それでも、馬車のひとつから人の気配がしたので、中を見てみる。

中には大柄の男がいて、どうやら金を数えているらしかった。


「どうだった。金目のものはあったか」

「素寒貧だな」

「なんだ、お前。その口の利き方…は…」

「それはこっちの台詞だ」


こっちを振り返る前に、刀の柄で頭を強く殴っておく。

すると、あっさり気を失って。

…図体と態度だけがでかいのか、こいつは。


「紅葉~。何か金目のものはあった?」

「お前は、こいつらよりも盗賊らしいな」

「名もない弱小盗賊なんて、盗賊のうちに入らないよ。手応えも全くなかったし。向こうもあっという間に終わったみたいだよ。まあ、盗賊を名乗るなら、クーア旅団くらいにならないと」

「それは大きすぎるだろ」

「ん?」

「まあ、とりあえず、こいつらは縛り上げておこう。城に連絡を送れるか?」

「うん」


桐華は懐から笛を取り出すと、それを吹く。

すると、馬車の方からすぐに何かが飛んできて。


「伝書鷹か」

「うん。ぼくが飼い慣らしたんだよ」

「ふぅん…」


鷹は桐華の肩に止まって。

そして桐華は、その鷹の足に付けてあった携帯の筆記用具で、それらしいことを書く。

…遙あたりが連れてきていたのかな。


「それで、飼い慣らしたって、拾ってきたのか?」

「うん。卵をね」

「…盗ってきたの間違いじゃないのか?」

「失礼だなぁ。猟師が、仕留めた鷹の巣に卵があったからって、それで貰ってきたの」

「ふぅん…」

「そら、鷹介。行ってきて」

「………」


足に伝書を結わえると、ヨウスケとやらは真っ直ぐ城の方に向かって飛んでいった。

…桐華よりも賢いんじゃなかろうか。


「わっ、お金がいっぱい。どこで盗んできたのかな」

「さあな。そら、縄だ」

「うん」


とりあえず、一件落着ということか。

この金の出所は気になるけどな。



遅めの夕飯も済み、城から連行係も来て。

子供たちも落ち着いて、もう眠ってしまった。


「気になる?」

「まあな」

「教えてあげよっか」

「ああ」

「さっき抜けてきた森の中に、丸裸にされた小さな行商旅団がいたらしいよ。特徴も手口も似てるし、たぶん同じところだろうね」

「そうか」

「ホッとした?」

「ああ」

「まあ、身内を疑いたい人なんていないもんね」

「そうだな」

「襲われた旅団、ユールオに店を持つんだって、結構貯め込んでたみたい」

「目標を持つのはいいことだ」

「うん。まあ、お金の管理はダメダメだったみたいだけどね」

「信用金庫と空き店舗を紹介してやれ。あれだけ持ってたら、三軒は店を出せるだろ」

「はは、確かに。まあ、事情聴取のためにユールオに行ってるみたいだし、気の利く誰かが紹介してくれるでしょ」

「…そうだな」


取り越し苦労でよかった。

でも…


「少しでも、みんなを疑った自分が恨めしい?」

「…ああ」

「そっか。紅葉らしいね」

「お前は、そうは考えないのか?」

「うん。取り越し苦労は取り越し苦労だもん。自分が考えてたことと違っててよかったって、それで終わり。疑った事実は、いくら考えたって変わらないんだし。ウジウジクヨクヨするくらいなら、過去は過去と割り切って、前に進む方がいいでしょ?」

「…そうだな」

「さあ、もう寝よ。こういうときは、寝るのが一番。明日にはカシュラに着くように、飛ばしていくからね!」

「それはまた厳しいな…」

「こうしてるうちにも、どんどんリュクラスの木が切り倒されてるかもしれないから」

「…そうだな」


遙に手を引かれ、馬車のところまで戻る。

そして、火番はカイトに任せて。

…いや、カイト自体が火なんだけど。

ゆっくりと、眠りに落ちていく。

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