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望は、手当てが済むとすぐに眠ってしまった。

余計な心配をしたからか、安心したからか。


「そういえば、哲也くんはどうしたんですか?」

「さあね。外で遊んでると思うよ」

「えぇ…」

「大丈夫大丈夫。みんな見ててくれてるし」

「そうですけど…」

「どこ行くのだとか早く帰ってきなさいだとか、そういうのはあまり好きじゃないんだよ。面倒くさいし。のびのび自由にさせるのが一番」

「そんな適当な…」

「風華ちゃんだって、利家くんにやいやい言われるのは嫌でしょ?哲だって一緒だよ」

「うーん…」


納得がいかない様子で。

…風華自身、涼と同じく自由放任主義であることには気付いていないようだ。


「それで、哲に何か用事?」

「あ、いや、ただ単にどこにいるのかなって思っただけで」

「そう。最近は、孤児院の子たちと遊んでるみたいよ。お友達が出来たってはしゃいでたし」

「へぇ…。ルウェとかかな」

「男の子の友達だと思うよ。あの子、結構恥ずかしがり屋だし」

「男の子かぁ」

「うん」

「あ。涼さんって、ルウェのこと知ってるんですか?」

「知ってるよ。なんで?」

「いや、食堂にいたら、なかなか会う機会もなさそうだし」

「そんなことないよ。ここに来ることもあるから」

「えっ、遊びに?」

「うん。表で遊んでるときもあるし、お昼ごはんを食べさせてあげたりもしてるからね」

「へぇ、太っ腹なんですね」

「これから、もっと大きくなるよ」

「あはは、そうですね」

「…まあ、お昼ごはんを食べさせてあげてるのは、旦那なんだけどね」

「そうなんですか?」

「うん」

「組合では積極的に孤児の保護をしているからな」

「組合って、旅人を補助する?何か関係あるの?」

「ああ。慈善活動というか、株上げもあるんだろうが、組合はもともと旅人たち自身で設立されたものだからな。今はそうでもないけど、当時の旅人のほとんどは孤児だったんだ。だから、当然成るべくして成った…というわけなんだが」

「ここ、組合加盟店でしょ?最初に加盟しようって言い出したのが旦那だったの。突然だったんだけど、そのとき広げてた瓦版に、さっき紅葉ちゃんが言ってたことが蘊蓄話として載ってたんだ」

「へぇ~」

「あの人、子供好きだから」

「え?オヤジさんが孤児だったとか、そういう感動話は…」

「あはは。ないよ、そんなの。まだ両親共にピンピンしてる」

「えぇ…」

「オヤジの株が下がったな」

「大暴落だよ…。結局、子供に来てほしいから加盟したも同然じゃない…」

「そうだねぇ。事実、そうなんだから仕方ない」

「でもまあ、子供が好きっていうのは悪いことじゃないしな。むしろ歓迎されるべきだ」

「うん…。そうだね」


目的は何であれ、組合に加盟してくれたのには違いはない。

その、人助けをしたいという志が立派なんだろう。

風華も分かっているはずだ。


「ふふふ。可愛い寝顔」

「そうだな」

「どこで転んだんだろ」

「さあ」

「誰かと遊んでたとしたら、心配してるんじゃないのかな」

「たぶんな」

「まあいいか」

「ああ」

「…紅葉ちゃんって一言ずつでしか答えないよね」

「そうか?」

「うん。なんか、不必要なことは答えないってかんじなのかな」

「まあ、余計なことを言う必要もないし」

「そうかもしれないけどさ。うん、そうだよね…とか、うんだけじゃなくて、そうだよねくらい付けてもいいと思うんだ」

「付けてないか?」

「付けてないね」

「あれですよ。姉ちゃんは、しんみりすると口数が増えるんです」

「へぇ。普通は逆じゃない?」「しんみりしたら口数が増えてるのか?」

「増えるんじゃない?あと、何か説明するときは一気に説明するよね」

「あ、それは分かる。紅葉ちゃん、蘊蓄とか好きそうだもんね~」

「そうかな…」

「さっきだって、カゥユの御子のこととか、組合のこととか、楽しそうに話してたじゃない」

「そんなに楽しそうだったか?」

「かなり」

「ふぅん…」


自分では、ごく普通に話してるつもりなんだけど…。

他人から見たら、楽しそうに見えるのかな…。


「風華ちゃんは、紅葉ちゃんが格好良かったとか、望ちゃんが賢かったとか、身内の自慢話をしてるときが一番楽しそうだね」

「そ、そうですか?」

「うん。すっごく楽しそう。それに、風華ちゃんって自分の自慢話はしないし。好感持てるなぁ、そういう人は」

「自慢するところなんてないですから…」

「そんなことないよ。私から見たらいっぱいあるし、風華ちゃんが気付いてないだけだよ」

「風華は自分の悪いところしか見てないからな。悪いところを見るのは大切なことだけど、それだけというのは考えものだ。自分を見つめるときは、見えた悪い部分と同じ数だけ良い部分を探すといい。最初は難しいだろうが、心を健康に保つ秘訣だ。それに、これを繰り返していると、他に誇れるようなところも見えてくる。悪いところを見つつ、良いところを素直に喜ぶことが出来たら、自分を見つめることに関しては一人前と言っていいだろうな」

「…うん」

「言ってるオレが実行出来てるとは思わないけど」

「はぁ~、蘊蓄だねぇ。締めも完璧」

「蘊蓄…とは少し違うような…」

「もう、涼さん!せっかく良い雰囲気だったのに!」

「あはは、ごめんごめん。でも、紅葉ちゃん、本当に楽しそうだったし」

「それはそうだけど…」

「涼は、話してるときはいつでも楽しそうだな」

「あ、うん。涼さんってそうだよね」

「私、お喋りするの大好きだもん」

「そうだな。口から先に生まれたんだろ」

「たぶんね」


そう言って、涼はカラカラと笑う。

まあ、お喋りが好きなのは、私も風華もそうなんだけど。

飽きもせず、何時間もこうやって話しているのが何よりの証拠。

好きじゃなければ、楽しくなければ、出来ないことだろ?

二人を見ると、ニッコリと笑って頷いてくれた。

…そして、楽しい昼下がりの時間は、ゆっくりと過ぎていく。

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