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「ダ、ダメだ!そんな服…」

「えぇ…。可愛いと思うんだけどなぁ…」

「とにかくダメだ。あ、こっちなら…」

「それは男物だよ」

「男物でいい」

「そんなの許さないよ。絶対に可愛い着物を買ってあげるんだから」

「いいって…」

「ダ~メ」


今日の風華は、なんでこんなに強情なんだろうか…。

うーん…。

とりあえず、こんな服は着られない…。


「店員さん、すみません」

「はいは~い」

「この人に合う服を見繕ってほしいんですが」

「分かりました。どんなのがいいですかね?」

「控えめ…」

「すごく可愛いのでお願いします」

「はぁい。可愛いのですね」

「あ、いや…」


訂正する間もなく、店員は服を見繕いにいってしまった。

どうしよう…。

追いかけていって、訂正するというわけにもいかないし…。


「見て~」

「ん?」

「可愛い?」

「そうだな。よく似合ってるぞ」

「えへへ」


望は、子供らしい柄の入った着物に、少し大人っぽい青の羽織を着て。

一見すると不釣り合いだけど、実はそうでもないことが分かる。


「ねぇ、お姉ちゃん。どうかな?」

「似合ってると思うよ。この羽織も格好良いし。あ、これ、裏表なんだね」

「うん」

「ふぅん。なかなか洒落てるな」

「いいの見つけたね」

「うん!」


裏地は黒で、背中のところに大きな龍が織り込んであった。

えらく、いかついな…。

でも、望は嬉しそうに跳ね回って。

値札がヒラヒラしてるのが、何か可笑しかった。


「ざっと集めてみましたよ~」

「早いな」

「まあ、自分の店の商品くらい把握出来てますから」

「そうか」

「あ、望ちゃん。可愛い服だね。それでいいの?」

「うん!」

「知り合いなのか?」

「さっき、名前を教えてもらいました」

「なるほど」

「望ちゃん、着替えてこよっか。それとも、着て帰る?」

「うーん…。着て帰る」

「そっか。じゃあ、もとの服を持ってきてくれる?」

「うん」


望は、また値札をヒラヒラさせながら試着室に戻る。

それを見送ると、店員はこっちを向いてニッコリと笑って。


「さて、お姉さまの着物ですが」

「どんなのですか?」

「いくつか用意させてもらったんですが…。まずはこれから」

「こ、これは…」


黄色地で、小さな赤い椿か何かの模様がところどころにあしらわれた着物。

帯は藍色に桜が散りばめられたものだった。


「んー…。ちょっと子供っぽくないですか?」

「意外と、こういうのも似合うものですよ」

「意外とってなんだよ…」

「あはは。お姉さまは、その服を着てても大人っぽいですから。」

「そうかな…」

「はい。ですから、たまにはこういう思いきった服の選び方も良いものですよ」

「ほ、他はないのか?」

「ありますよ。じゃあ、次はこっちを」


次は、無地の茶色い着物に、青地に細くて白い線が縦に入った着物を重ねて着るものだった。

見たところ、男物だけど…。


「男物ですよね?」

「いえ。女性向けに作られたものですよ。最近は、こういうのが流行ってるんです」

「へぇ~。知らなかった。でも、あんまり可愛くないですよね?」

「まあ…そうですが、こういう地味で素朴なかんじが良いんですよ」

「ふぅん…。もうひとつあるんですね」

「はい。これです」


最後は、何かやたらヒラヒラした飾りがついている服だった。

黒を基調としているが、やたら目がチカチカする西洋風の服。


「西洋の、お姫さまの服を模して作ったらしいですよ~」

「うーん…。西洋の服は分からないですね…。ていうか、向こうの人はホントにこんなのを着てるんですか?」

「さあ…。実際に見たことはないので…。あ、これにはこの傘も付いてきます」

「なんだ、この傘は…。こっちもフリフリだな…」

「雨用の傘じゃなくて、日が照ってるときに差すそうです」

「日傘か。いや、しかし…これを着て、こんなのを差して歩く勇気はないぞ…」

「うん…。まあ、これは私も無理だね…」

「じゃあ、一番目と二番目ですね。どっちにします?」

「一番目」「二番目」

「ははは…」

「ねぇ、これ」

「あ、望ちゃん。お姉ちゃんたちはまだ掛かるみたいだから、ちょっと待っててくれる?」

「うん」

「値札を取ってもらったらどうだ」

「……?」

「あ、そうですね。じゃあ、向こうに行こっか」

「うん」


望は店員に手を引かれ、店の奥の方に行く。

さて…風華だけど…。


「絶対こっち。可愛いじゃない」

「花柄なんて、オレには合わないよ」

「絶対似合うって!試着させてもらおうよ!」

「いや、いいって…」

「ダメだよ!それに、私が買うんだから…」

「…え?」

「私が、姉ちゃんに、この服を、買ってあげるの!」

「お金、持ってるのか?」

「持ってるよ。この前、兄ちゃんからお給料を貰ったの」

「給料?小遣いじゃないのか?」

「ううん。衛士としての、初めてのお給料。それでね、どうやって使うのがいいか、ずっと考えてたんだ。昨日も一日考えたんだけど、やっぱり姉ちゃんに何か買ってあげるのがいいって考えに行きついたの。感謝の気持ちを表そうって。ホントは、こんなこと言っちゃダメなんだけど…」

「………」

「いつも迷惑掛けてるし、これからもそう。だから、今日も私のわがままに付き合って。感謝の気持ちを表すのに、わがままを聞いてなんて言うのもおかしいけど…」

「はぁ…。分かったよ。風華の好きにしてくれ」

「ホントに?」

「ああ」

「やった!」

「決まったみたいですね」

「はい!」


風華は満面の笑顔で、一番目の服を店員に渡す。

奥から戻ってきた望も、なぜかさっきより嬉しそうにしている。

それにしても、初給料か。

私は何だったかな。

ちょっと恥ずかしくて思い出せない。

…ところで、こっちの着物もこっそり包んでもらおう。

さすがに、あれだけでは辛いからな…。

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