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相変わらずゆっくり起きてきた調理当番。

相変わらず仕込みだけはしていて、朝ごはんが出るまでは待たなかった。

…いや、もっと早く起きてほしいんだけど。

とりあえず朝ごはんは済ませて、洗濯物へ。


「なんでだろね」

「唐突だな」

「今、ふと思ったから」

「ふぅん…。それで、何が」

「最近、ちょっと早く終わるじゃない」

「そうか?」

「うん」

「じゃあ、それは望が手伝ってくれたからだろうな」

「あ、そうかも。偉いね、望は」

「えへへ」


利家の計らいか、洗濯物の量自体が減ってるんだけど。

でも、今日は望のお陰でさらに早く終わったというのも事実だ。

風華に頭を撫でてもらって、嬉しそうに尻尾を振っている。


「姉ちゃんも、もう朝ごはん食べたんだよね」

「ああ」

「じゃあ、ちょっと下町まで付き合ってくれない?」

「いいけど、なんで」

「姉ちゃんと出掛けるのが楽しいから」

「そりゃどうも。それで、本当の目的は?」

「うん。行きたいところがあるんだ」

「そうか」

「あ、でも、姉ちゃんと出掛けるのが楽しいっていうのはホントだよ」

「分かってるよ」

「うん。あ、望も一緒に来る?ここで遊んでる?」

「一緒に行く~」

「じゃあ、準備しに行こっか」

「うん!」


望は元気よく返事をすると、城の方へ走っていった。

途中で桐華とぶつかって転んでたけど、大丈夫かな…。



市場の大通りを途中で横に逸れ、路地の露天街を歩く。

望はあちこち走り回って、いろんな店を覗いていた。


「し、しかし、本当にどうにもならないのか…?」

「どうにもならないよ。姉ちゃんだって女の子なんだから、女の子らしい着物を着ないと」

「え、衛士の服だって、男と女で別々じゃないか…」

「あれは制服でしょ。確かに可愛いけど…。でも、あれじゃダメ」

「は、羽織くらい着させてくれよ…。恥ずかしい…」

「ダ~メ」

「うぅ…」


準備のときに風華がどこからか取り出してきたこの服…。

どちらかというと踊り子のような服で、布が少ない。

丈は少し短いし、袖がなく肩紐だけだった。

下はゆったりと長い旅人用の袴だったけど、上はもはや下着じゃないか…。

肌の露出が多く、ただ歩いているだけでも恥ずかしい…。

望も似たようなのを着せられているが、むしろ嬉しいみたいで。

なんでだろ…。


「今日は、姉ちゃんに可愛い着物を買ってあげようと思ってるの。とびきり可愛いの」

「そ、そんなのいいよ…。制服でいいじゃないか…」

「ダメ。姉ちゃんはもっと可愛くならないと」

「こんな恥ずかしい思いをするなら、可愛くなくていい…」

「恥ずかしいと思うから恥ずかしいの!堂々としてなさい」

「うぅ…」


なぜか怒られてしまった…。

でも、恥ずかしいものは恥ずかしい…。


「そういえば、姉ちゃんって狼の頃は服は着てなかったんでしょ?」

「そうだな…」

「じゃあ、その服くらい大丈夫じゃないの?お風呂のときだって、隠したり恥ずかしがってるの見たことないし」

「狼は服を着ない。だから、恥ずかしいとも思わなかった。それと、風呂にいるのは身内ばかりだし、そもそも裸でいることが当たり前なんだから恥ずかしくない。でも、今は違うじゃないか…」

「服はいちおう着てるじゃない」

「これは服とは言わない。下着だ」

「そうかな?」

「……!」


風華に肩紐を引っ張られた。

すぐに離れたけど…。

危なかった…。


「私は可愛いと思うよ。姉ちゃんも望も」

「オレはそうは思わないんだよ…」

「ふぅん…」


意外という風に首を傾げて、望の方を見る。

望は、少し先の水晶だとか瑠璃だとかの石を置いている露天で、店番と何か話し込んでいた。

そして、何かの石を受け取ると、店番に手を振りながら戻ってきて。


「貰った!」

「貰った?」

「電気石だな」

「うん!」

「でも、貰ったって…」

「いいんだいいんだ、お姉さん。価値の付かない屑石だから」


店番が身を乗り出して話し掛けてきた。

とりあえず露天のところまで行って、事情を聞くことにする。


「屑石って、結構大きいじゃないか」

「ひっくり返してみな。大きなヒビが入ってるんだ。ヒビから割ってもいいが、それでも傷物扱いだ。そんなものを二束三文で売るより、ヒビ割れてても大切にしてくれる誰かにタダでくれてやる方がよっぽどいいってもんだ」

「ふぅん…。そういうものなんだ…」

「ああ。それに、もしかしたら、このお嬢ちゃんが常連さんになってくれるかもしれないし」

「やっぱり、そこなんだ…」

「まあ、商売ってのはそんなものだよ。たくさんの一見より、一人の常連…ってことだ」

「へぇ…」

「ところで、ここは裏路地とはいえ公共の道だ。公道で露天を出すことは禁じられているはずだが、どうなっているんだ?」

「ね、姉ちゃん…」

「ん?なんだよ、あんた。金でも巻き上げようってのか?」

「場合によってはな」

「なんだと?」


店番が掴み掛かってくる。

しかし、ただ空を掴んだだけで。


「おろ?」

「まあ、禁じられているとはいえ、よっぽどでない限り誰も取り締まりはしない」

「えっ、後ろ…」

「市場にはない、露天街でしかないものもたくさんあるし、こういったものが街をさらに活気付けてるのも事実だからな」

「くそっ。何なんだよ、あんたは!」

「ユールオ警察全市取締役代表だ。今はこんな格好をしてるけど」

「え、衛士長!?本物か!?」

「まあ、どう思うかはお前次第だがな。これからも、しっかり街を盛り上げてくれよ」


店番の肩を叩いて風華に合図をする。

そして、店をあとにして。


「はぁ…。衛士長なんて…」

「ははは!とんだ白羽の矢が立ったもんだな!」

「悪どい商売やってるからじゃねぇのか?」

「冗談もたいがいにしやがれ!」


そんな怒号が聞こえてきた。

風華は、笑いをこらえきれない様子で。


「姉ちゃんも、素直じゃないね」

「ん?何の話だ」

「激励するなら、遠回りなんかしないで直接言えばいいのに」

「警告も兼ねてたんだ」

「まあ、そういうことにしておきますか」


そう言って、望を追いかけて先に走っていってしまった。

…直接言うのは気恥ずかしいだろ。

それに、オレはいちおう衛士長なんだから。

そういうことにしておいてくれ。

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