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太陽の光が、山の稜線を青く縁取り始める。

月も、すでに見えなくなっていて。


「ふぁ…。おはよ、姉ちゃん…」

「おはよう」


風華が起きてきた。

屋根縁のこちらまできて隣に座る。

その長い漆黒の髪が太陽の光に反射して、ところどころ銀色に光って。


「もしかして、ずっと起きてた?」

「ああ」

「身体に悪いよ。一回寝なよ」

「いや、逆に冴えてしまって。今は無理そうだ」

「そっか。ふぁ…。無理はしないでね…」

「ああ。ありがとう。それより、貧血はどうだ。収まったか?」

「んー、大丈夫みたい。昨日、サンはどうだったの?」

「ぐっすり眠ってたよ。やっぱり月光病と同じみたいだな。赤い月の下では発症しないらしい。まあ、確認しそびれたといえば、そうなんだけど」

「そっか。でもまあ、吸血鬼のサンってちょっと見てみたいかも」

「昨日はあんなに怖がってたくせに」

「うん。あれがただ怖いだけの話じゃないって分かったから。それに、物語の吸血鬼とサンは違うって分かってたから」

「そうだな」


風華の頭を撫でると、ニッコリと笑って。

うん。

そうだな。


「ふぁ…。あはは、欠伸が止まんないや」

「風華こそ、もう一眠りしたらどうなんだ」

「んー…。そうだね。じゃあ、姉ちゃんの膝枕で…」

「どうぞ、お好きに」

「うん。お休み」

「お休み」


私の膝枕に横になると、もう一度笑って静かに目を閉じる。

…風華も眠れなかったのかな。

目の下に隈なんかこさえて。

もしかして、気を遣ってくれたんだろうか。


「ふぁ…」


風華の寝顔を見てると、私まで眠くなってきた。

夜明けまでもう少し。

ゆっくりと目を閉じて。



肩に重みを感じて目を覚ます。

見てみると、望が私の肩に寄り掛かって眠っていた。

そして、膝枕には風華ではなく葛葉がいて。

…わざわざ起きてきたんだろうか。

とりあえず、夜明けは過ぎていて、山の上から太陽が顔を覗かせていた。


「望、葛葉。起きろ」

「んぅ…」「んー…」

「望」

「あ…。お母さん…。おはよ…」

「おはよう」

「ふぁ…」

「起きられるか?」

「うん」


望は大きく伸びをして、一度身体を震わせる。

そして、目をパッチリと開けると、こっちを見てニコニコ笑って。


「えへへ」

「どうしたんだ?」

「早起き出来た」

「そうだな。早起き出来たな」

「うん!」

「ちょっと待ってろ。朝ごはんを食べにいこう」

「うん」


葛葉は起きそうにもないから、抱えて部屋に戻る。

望もあとについてきて。


「ん?」

「え?」

「いや、なんでもない」

「うん」


風華がこっちにいる。

戻ったんだろうか。

とりあえず、葛葉を布団に寝かせて。

はだけている着物はしっかりと整えておく。

…また下着を脱いでるな。

暑いんだろうか。

近くに見当たらないので、そのままにしておく。


「よし。行こうか」

「うん」


望に手を伸ばすと、しっかりと握り返してくる。


まだまだ小さな手は、しかし、とても温かく。

そして、優しさに満ち溢れていた。



窓から顔を覗かせるセトに手を伸ばして。

すると、セトはその大きな舌の先で、望の頬を舐める。


「うわっ、ベタベタだよ…」

「ゥルル…」

「えへへ。セトはおっきいね~」

「……!」

「わわっ!?」

「ワゥ!」


セトが望を押し退けた次の瞬間、伊織が飛び込んできた。

望は体勢を崩して、転びそうになるが、なんとか間一髪、抱き止めることが出来た。


「伊織!」

「ゥウ…」

「オレに謝ってどうするんだ?あのな、今はセトが気付いたからよかったかもしれないけど、もし気付かないでお前と望とぶつかってたらどうする気だったんだ!」

「ォオン…」

「だっても勝手もない!」

「………」

「お前の方が望より大きいし重たい。ぶつかれば、望は弾き飛ばされる。それからどう…」

「お母さん、望はなんともないから。だから…だから、伊織を怒ってあげないで…」

「………」


…望の、今にも泣き出しそうな目を見ていると、怒る気持ちも削げてしまった。

本当は、もっときつく叱っておかないといけないんだけど…仕方ないな。


「はぁ…。とにかく、必ず周りの状況を見ながら行動しろ。またこういうようなことがあったら、次こそは容赦しないからな」

「ォオン…」

「そら、やることがあるんじゃないか?」

「………」


伊織は望の方に向き直ると、頭を下げながらゆっくりと近付く。

そして、望のお腹に額を擦りつける。


「うん。分かった」

「ォオ…」

「もう怒られるようなことをしちゃダメだよ」

「ワゥ」

「期待は出来ないけどな」

「………」

「事実は事実だ。まあ、オレだって怒りたくて怒ってるんじゃない。出来るだけ減らしてくれるとありがたいけどな」

「ォオ…」

「ゆっくりやっていけばいい。今日明日で出来ることでもないからな」

「伊織、頑張ってね」

「ウゥ…」


窮地から助けてもらった望に念を押されては、頑張らないわけにはいかないな。

どことなく嫌な顔をしている伊織の鼻を弾く。

すると、小さくくしゃみをして身体をバタバタと震わせる。

…本当に、少しずつでも減らしていってくれればいいんだけどな。

期待して待ってるよ。

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