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「ん?おかしいな…」

「自覚がないのか?」

「いや、いつも通りのつもりだけど…」

「そんなことないぞ」

「そうかな…」


唐揚げを取って、口に入れる。

んー…。

そんなに変か?


「いろはねぇ!なんでボクのを盗るのさ!」

「ん?」

「そら。それがおかしいって言ってるんだ」

「いや、オレは自分のを取ったつもりなんだけど…」

「返してよ!一番おっきかったのに!」

「あぁ…いや、すまない…。オレのを全部食べたらいいから…」

「もう…」


言われてみれば、何か変な気もする。

風華は、こっちを見てニヤニヤしてるし…。

いったい、何なんだ…。


「サン。他所見をするな」

「んー?」

「ほら、また溢して…」

「んー…」

「まったく…。お前は溢すのが得意だな」

「えへへ」


サンの服に付いたご飯粒を丁寧に集めて、何か幸せそうに口に含む。

…こいつの小さい子好きは果てしないな。


「む。紅葉、これはやらないぞ」

「いらないって…」

「そうか。それならいい」

「はぁ…」


これは…桜のではないな。

美希のでもない。

他の誰のでもないことを確認して、目の前にあった焼き鮭を食べる。

ふぅ…。

疲れるな…。



自分の部屋に戻り、屋根縁で夜風に当たっていると、隣に風華が座る。

もう布団を出ていいのだろうか。

私の手に自分の手を重ねてきて。


「どうしたんだ」

「うん。ちょっとね」

「……?」

「芦原留作道中記。びっくりした?」

「少しな」

「あれ、私じゃないんだ」

「ふぅん」

「それはびっくりしないんだ」

「ちょっと違う雰囲気が感じられた気がしたからな。それが正しかったということだ」

「なぁんだ」

「それで、何だったんだ?何かに取り憑かれたのか?」

「まあね」


そして、イタズラっぽく笑う。

何か、含みがあるようなかんじがするのは気のせいだろうか。


「姉ちゃん」

「ん?」

「今は見えてるの?」

「ああ。まだ月も昇ってないじゃないか」

「うん」

「なんだ。目が赤いって言うのか?」

「うん。真っ赤だよ」

「え?」

「サンと同じ色。夜魔族の色」

「夜魔族?オレが?」

「正確に言うと、姉ちゃんじゃないけどね」

「何か知ってるのか?」

「んー。どうかな」

「知ってるんだな」

「まあ、うん」


遠くの方で、キラキラと光るものが見えた。

たぶんカイトだろうな。

望を置いて、どこに行ってたんだろうか。


「今日は星が綺麗だね」

「ああ。空気が澄んでる」

「天の川は、神様が流した涙なんだって。神様は泣き虫で、よく泣くんだ」

「"星の御子"カルアか」

「うん」

「この前に来たカルアは、えらく正反対なやつだけどな」

「そんなこと言っちゃ悪いよ~」

「事実なんだから仕方ない」

「そうかもしれないけどさぁ」


カイトは真っ直ぐこちらに向かってくる。

夜空の中ではひときわ目立つのに、夜の闇を損なうことはなく。

不思議なかんじがした。


「あ。カイトだ」

「カイトだな」

「何してるんだろ」

「空を飛んでるんだろ」

「…そんなの、見たら分かるよ」

「そうか」

「もう…」

「二人して、相変わらず仲が良いようで何よりだ」


カイトは屋根縁の端に降りると、身体を震わせる。

火の粉ばパラパラと散って、床に落ちる前に消えてしまう。


「どこに行ってたんだ?」

「我が主の使いでな」

「我が主…というと望か」

「ああ」

「ラズイン旅団か?」

「なかなか勘が鋭いな」

「えっ、ラズイン旅団?望、手紙でも書いたの?」

「我が主の秘匿情報に関わることだがな。まあ、そういうことだ」

「へぇ~。タルニアさんに書いてるの?」

「だから、我が主の秘匿に関わることだと言っているだろう」

「あはは、そうだった…」

「ところで、紅葉。その者はどうした」

「その者?どの者だ」

「気付いていないのか?」

「何に」

「ふむ…。まあいい。いちおう言っておくが、その赤い目は、お前に取り憑いた者の影響だ。…それに、それが出てきているということは、今日は月の姿を見ることが出来るだろうな」

「ん?なんでだ?」

「赤い月のことは知らないか?今日はその日だ」

「えっ、赤い月ってホントにあるの?ずっと伝説だと思ってた…」

「昔は頻繁に昇っていたのだがな。最近では滅法見なくなってしまった」

「へぇ~…。赤い月かぁ…」

「風華に見えるとも限らんぞ。もしかすると、普通の月にしか見えないかもしれない」

「なんで?」

「赤い月は、ある条件下の者にしか見えない。そういう特殊なものだ」

「えぇ…。ある条件下って何なの?」

「さあな。私には分からない。知っているのは長老くらいのものだよ」

「長老…?」

「"遥かな大地"クノ。ラズイン旅団の若大将もそんな名前だったが」

「クノっていうのが、長老なの?」

「ああ。私も何度か会ったことはあるのだが、真意が全く掴めない方だった」

「ふぅん…。カイトでも苦手なものがあるんだね」

「いや、苦手なものではない。ただ、長老の前へ出るとな、自然と身体が感知する。この方には敵わない…とな」

「へぇ~。なんか、会ってみたい気もする」

「まあ、また機会があればな」

「えっ、連れていってくれるの?」

「機会があれば、と言ってるんだ」

「楽しみだなぁ」

「私の話を聞いているのか?まったく…」

「ははは。まあ、楽しみにするくらい良いだろうさ」

「まあ…そうかもしれんな」


そう言うと、カイトは後ろに振り向いて、何かを確認するかのように頷く。

そして、少し羽ばたいて屋根縁の反対側の端に移って。


「さあ、紅葉。その目にしっかり焼き付けるといい」

「え…?」


カイトがもともといた場所の遥か向こう。

山の上から、優しい光が射し込んでいて。


「ちぇっ。赤くないなぁ」

「はは、そんなに気安く誰にでも見えるものでもないさ」

「残念…。それより、姉ちゃ…ど、どうしたの?」

「え…?何が…?」

「泣いてるの…?」

「風華」

「あ…ごめん…」


カイトに言われ、なぜか謝る風華。

泣いてる…?

私は…泣いてるのか…?


「姉ちゃん…」

「いや…大丈夫だ…」


もう、月の姿を想像することもない。

本当の月を、今、私は、この目で、見ている。

泣いてるのであれば、今のこの気持ちを涙が代弁してくれているんだろう。

この、心の震えを…。

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