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「はぁ、血ですか」

「何か良い案はないか?」

「そう言われましてもねぇ…」

「そうか…。そうだよな…」

「すみません、力になれなくて…」

「いや、大量に血を手に入れる方法なんて、普通は思い付かないだろうし」

「うーん…」


普通は思い付かないよな…。

しかし、このまま放置して貧血の患者を増やすわけにもいかないし…。


「何の話をしてるの?」

「ん?遙か」

「今日の当番は修?私にもお昼ごはんくださ~い」

「はい、ただいま。朝ごはんも食べにきてくれたら嬉しかったんですが」

「んー。桐華が野外炊飯を始めちゃったからねぇ」

「野外炊飯?また突発的だな」

「いつものことだよ。…それで?何の相談だったの?」

「血の入手方法についてだ」

「血?…あぁ、サンね」

「調べたのか?」

「うん。秘村の資料から、翔が見つけてきたんだ。夜魔族が暮らす村の情報をね」

「秘村の情報まであるのか」

「当たり前じゃない。まあ、秘村って言うくらいだし、最重要機密ではあるんだけど」

「ふぅん…」

「ヒソンってのは何なんです?僕は、そんな資料は見たことないんですが」

「言ってしまえば、秘密の村だよ。今の地図には載ってない村。たまに、昔の地図とか古文書とかに書いてるときもあるんだけど。だいたいは希少な種族がひっそりと生活してたりするんだ」

「へぇ~。希少な種族っていうのは、たとえば?」

「サンみたいな夜魔族もそうだし、この辺にはいっぱいいるみたいだけど、龍なんかもそうだよ。種族的に人口は多いけど、その中でも稀な銀狼とか白狼とかもね~」

「…この城は珍種の溜まり場だな」

「はは、そうだね。まあ、私は紅葉が一番珍種だと思うけど」

「どういう意味だ」

「銀狼で、しかも幼少期は本当に狼だったなんて。世の中広しと言えども紅葉しかいないでしょ。珍種中の珍種だよ」

「お前なぁ…」

「ふふふ。隊長のは、種族じゃなくて境遇だと思いますよ。だから、珍種というには、いささか問題があるんじゃないですか?」

「そうだそうだ」

「じゃあ、珍境遇中の珍境遇?」

「何にでも珍を付けるな!」


遙は困ったように笑って、肩をすくめる。

…困ってるのはオレの方だよ。

まったく…。


「遙さん、出来ましたよ」

「おっ、ありがと~」

「いえいえ」

「さっさと食べて、どこかに行ってしまえ」

「口の悪いお方だ、まったく」

「あ、どこかに行ってしまえといえば、仕事はまだ入ってこないのか?」

「あー、うん。ラズイン旅団も運輸業を始めたみたいだからね」

「商売敵というわけか」

「んー、厳密に言うと違うけどね。向こうは運輸、こっちは護衛だから」

「ふぅん…。よく分からないな」

「こっちの方が大規模なの。重要人物から旅団まで、ありとあらゆるものを対象としてる。一方で、向こうは多くても一家族。ただし、数は揃えてるみたいだけどね」

「ほぅ。それで、なんで住み分けが出来ないんだ」

「私たちは主に要人や旅団の護衛ってだけで、そういう小口の護衛もやってないわけじゃないから。ついこの前にラズイン旅団が連れて行ったから、お客さんがいないんだよ」

「ふぅん。話し合ったりしないのか?」

「タルニアさんは、どこかの誰かさんと違って忙しい人だからね。まあ、今度合流したときに、クノさんかカルアさんに話してみるつもりだよ」

「そうか」

「うん。でもまあ、向こうも空車を埋めるために入れてるってかんじなのかな。空荷が一番の損だからね。特に、ああいう行商が主な旅団にとっては」

「なんで空車が出るんだよ。旅団を拡張したなんて話は聞かないぞ」

「んー。詳しい事情は分からないけどね。でも、最近は裏稼業の方が忙しいみたい」

「ふぅん…。なんでまた…」

「さあ…ね」


盗賊が大規模に動くときは、世の中が乱れているときだ。

天照も、すでにその情報を手に入れているんだろう。

遙の顔は曇っていた。

…また戦が始まったというのか。

哀しみの連鎖を生む結果にしかならないのに…。


「まあ、義賊さまも頑張ってくれてるんだし、私たちは私たちで出来ることをすればいいんだよ。…それしかないしね。私たちは、あまりにも弱すぎる」

「そして、親は子を喪い、子は親を喪う」

「そう深刻にならないの。…なるようにしかならないんだから」

「なるようにしかならない。哀しい言葉だな」

「…うん」

「でも、私は幸せですよ。戦のせいで、親も兄弟もみんな喪ったけど…。けど、旅団天照やこのお城にたどり着けた。新しい親や兄弟が温かく迎えてくれた。戦が良いとは言いませんが、肉親を喪うということが不幸せに直結するわけでもないと思うんです。隊長も遙さんも、そうなんじゃないですか?」

「そうだねぇ…。良いこと言うじゃない。さすがだね!」

「い、いえ…。恐縮です…」

「あはは。恐縮なんて、ねぇ?」


遙は笑いながら、バンバンと派手に修の背中を叩く。

掛け値なしの笑顔で。


「ん。こんな名言を平気で言えるから、美味しい料理を作れるんだね」

「なんか、バカにされてる気分ですね…」

「してないって。ほら、自分でも食べてみなよ。美味しいからさ」

「い、いいですって…」

「悔しいなぁ。なんでこっちに移ったのよ~。まったく、惜しい人を亡くした」

「まだ死んでません!」「ここは墓場じゃないぞ」

「はぁ…。私に、もう少し人を見る目があればなぁ…」

「あとの祭りだな」

「後日祭はいつ?」

「そんなのはない」

「修、戻る気はないの?」「ないですね。まだ」

「そっかぁ…。まあ、いつでも戻ってきなよ」

「はい。分かってますよ」

「まあ、そんなことはないだろうけどな」

「分からないよ~。ね、修?」

「そうですね。万が一ということもありますし」

「万が一では、こっちに分があるな」

「可能性がある限りは分からないよ」


譲らないな、遙も。

まあ、優秀な人材だからな。

自分の手元に優秀な者を置きたいというのは誰しも願うこと。

遙も私も、ご多分に洩れずということだ。

…修は遙に頬を引っ張られて、心なしか顔が赤くなってるようだった。

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