表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/578

152

大人数で食べるのに慣れているのか、それとも全く物怖じしない性格なのか。

あるいは、自分と同じくらいの子供がたくさんいるからか。

とにかくサンは、ずっと前から一緒にいたような、そんな自然な様子で夕飯を食べていた。


「サン。病み上がりなんだから、もっと軽いものを食べろよ」

「……?」

「病み上がりと決まったわけじゃないだろ。ただ寝てただけだし、身体の調子が悪いところもないみたいだし」

「そうだけど…」

「ほら、葛葉のことも気に掛けてやれ。かなり雑に食べてるぞ」

「えっ、あっ。葛葉、もうちょっと前に座れ」

「んー」

「また溢してるぞ。はぁ…。明日にでも、箸の特訓をしないといけないな」

「そうだな。いつまでも匙を使ってちゃ、格好つかないし」

「紅葉、手伝ってくれるか?」

「覚えてたらな」

「はぁ…」


ため息をつきながら、葛葉の溢したものを丁寧に拾って、自分の皿に入れる。

そうしてる間にも、葛葉はまた溢して。

…それにしても、美希、食べこぼしを集めるの、割と楽しそうだな。

葛葉の箸は上達するんだろうか。


「そうだ。旅団天照はいつまでここにいるんだ?」

「さあな。仕事が入り次第だろ。前もそうだったから。いちおうルクレィの中枢だし、情報を集めるのにも都合がいいし。…ここにいられたら困るのか?」

「いや、そうじゃないんだ。むしろ、いてくれた方が、私の料理修行が捗る」

「あぁ…。そういうことか…」

「そういうことだ」


驚くほどに勉強熱心だな。

日々是精進也…ということだろうか。

見習わないとな。


「サン。ほら、これを食べてみろ」

「うん」

「美味しいか?」

「うん。美味しいよ」

「そうか。これは葛葉も美味しいって言ってくれたんだ」

「ふぅん」

「明日も美味しいものを作ってやるからな」

「うん!」


元気よく返事をするサンの頭を撫でて。

その笑う様子を見て顔が綻びそうになるのを、精一杯取り繕っている。

…美希の料理修行は、若干チビたち寄りになりそうだな。

まあ、それはそれでいいけど。



カタカタと食器を片付ける音が、ほとんど誰もいなくなった広間に響く。

いつも通り月を見ていると、二人、こちらに近付いてくる気配。


「どうしたんだ?」

「お母さんが、部屋にいなかったから」

「そうか。迷わなかったか?」

「うん。望お姉ちゃんと一緒に来たから」

「そうだな。優しいお姉ちゃんがいるんだったな」

「うん」


サンはフワリと膝に乗ると、足をパタパタさせる。

望は横に座って。


「お母さん、また月を見てたの?」

「ああ。綺麗だろ?」

「うん」

「サンね、お月さまが好きだよ」

「そうか」

「お日さまも好きだけど、お月さまが好き」

「なんでだ?」

「お月さまが出たらね、お外に出られるから。お外はね、とっても広くて大きいんだよ」

「そうだな。外の世界は、私たちが思ってるより広くて、私たちが思ってるよりたくさんのものに溢れている」

「うん。だから、サンはお月さまが好き」

「…サン」

「なぁに?」

「なんで昼には外に出ないんだ?」

「お昼は危ないって言われたの。悪い人がいるから」

「誰に言われたんだ?」

「んー…?分かんない…」

「そうか…」


昼間に屋根縁で寝てたところを見つけたんだし、日光に弱いからなるだけ当たらせないように…とかではなさそうだな。

やはり、西洋での迫害の記憶が、純粋無垢な子供に今も受け継がれているのか…。


「…サン。もう昼も夜も危なくなんかないぞ。悪い人が来たら、お母さんがやっつけてやるからな。だから、たくさん遊ぶといい」

「ホントに?」

「ああ。ホントだ」

「じゃあ、今日は夜のお散歩はやめて、早く寝なくちゃ」

「夜の散歩?」

「うん。お城の周りをね、グルッて回るの。それで、新しいことを何個見つけられるか数えるんだ。今の最高記録は、十個だよ」

「そうか、十個か」


夜しか外に出ないのでは、それくらいしか楽しみがないんだろう。

毎日、外に出られるのはそんな短い間だけ。

それでも、ちゃんと楽しみを見つけて。

逞しいな、この子は。

…それより、城の周りを回るとか言ってなかったか?

どこの城だろうか。

もしかして、ここか…?


「昨日はね、知らないお姉ちゃんと会ったんだよ。お別れするときに飴を貰ったんだけど、歯磨きをしたあとだったから食べられなかったんだ」

「ふぅん」

「それでね、いつもの銀色の龍が門の前で待っててくれたんだ。サンのお友達だよ」

「銀色の龍って、あいつのことか?」

「うん。あの龍だよ」


サンが身を乗り出して見るから、落ちないように支えて。

…翼もあるし、もしかしたらいらないかもしれないけど。


「あの龍は、セトっていうんだよ」

「セト」

「うん。お姉ちゃんの友達でもあるんだよ」

「望お姉ちゃんの?」

「そうだよ。セトは優しいから、みんな友達になっちゃうんだ」

「うん。サンもお友達だよ」

「そうだね」

「えへへ」


望に撫でられて嬉しそうに笑う。

それにつられて、望も笑っているようだった。


「あっ」

「ん?どうした?」

「早く寝ないと、明日はお昼にお外に出られる日だから」

「そうだな。でも、焦ることはない。これからは、いつでも外に出ていいんだから」

「これから、いっぱい遊ぼ。楽しいこと、たくさん教えてあげるから」

「うん!」


サンは膝から飛び降りると、私の手を引っ張って。

望に合図をして、窓から降りる。


「隊長、ごゆるりと」

「ああ。お前も早く寝るんだぞ」

「はい。了解です」

「早く~」

「はいはい」


サンに急かされ、広間を出る。

よっぽど楽しみなんだな。

ワクワクして寝られない…なんてことにならなければいいけど。

…新しく加わった小さな足音は、なぜか懐かしいようなかんじがした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ