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「ふぁ…」

「お前の目が覚めてもなぁ…」

「ん?」

「この子だよ」

「んー?んー、夜魔族?」

「なんだ、知ってるのか」

「んー…。さっき夢に出てきた」

「話してたのが聞こえてたのか…」

「そうだね~。桐華って、割と聞いてるよ」

「変わった特技だね…」

「それほどでもないよ。それより、遙」

「うん。用意してあるよ」

「どうぞ、冷茶です」

「ありがと~…って、冷たっ!」

「さっきまで氷が入ってたからね。どう?目、覚めたでしょ」

「うぅ…。びっくりするじゃない…。先に言っておいてよ…」

「言ったら効果が薄れるじゃない。それに、翔も冷茶って言ってたでしょ」

「冷たすぎるよ!」


そう文句を言いながらも、少しずつ飲んでいく。

やっぱり、背に腹は代えられないということか。


「翔。遙がこんなことしたら、止めてもいいんだよ?」

「止めてほしいの間違いだろ」

「いや、まあ…。うん…」

「そうですね。また考えておきます」

「頼んだよ~…」


遠回しに断られていることに気付いてないんだろうな。

遙に目で合図を送ると、困ったように笑う。

…まあ、その素直なところが、桐華の良いところなんだけど。


「あっ」

「何?起きた?」

「いや、お茶菓子がないと思って」

「………」

「あたっ!?」

「勝手に自分で取ってきなさい!」

「うぅ…。殴らなくたっていいじゃない…」

「ふん」


桐華は思いっきり殴られた頭をさすりながら、部屋を出ていった。

翔も立とうとしたけど、遙に止められて。


「行かなくていいよ。甘やかしちゃダメ」

「ついていくだけなのに…。それは甘やかすって言うのか?」

「言うよ。どうせ、何か愚痴を聞かされるだけだろうし」

「まあ、それはそうかもしれないな」

「あはは…。桐華さんも大変だね…」

「大変なのは大変だろうけど、一番気楽なのも事実だと思うよ」

「仕事はほとんど遙任せだからな」

「うん」

「でも、団長として、やらないといけないこともあるんでしょ?」

「そうだね。いつも明るく。でも、たまに怒ったりして。団長らしい振る舞いってのは、私たちが考えてるより、案外難しいのかもしれない」

「うん。桐華さんって、やっぱりすごいんだね」

「んー。それとこれとは話が別かな」

「えぇ…」


口ではそう言うけど、遙もきっと同じ考えだろう。

遙も、桐華を団長として尊敬してるんだから。



桐華が大欠伸をしたところに、食べさしの煎餅の欠片を投げ入れる。

すると、怪訝な顔をして、舌を出してそれを乗せて確認する。


「びっくりした…。お煎餅か…」


そして、ガリガリと噛み下す。

…こいつは、なんで煎餅が口の中に飛び込んできたのか気にならないんだろうか。


「お名前は?」

「サン」

「サン?」

「うん…。ふぁ…」

「ふぁ…」


またサンにつられて大欠伸をする桐華の口に、また煎餅の欠片を投げ入れる。

すると、さっきとまた同じことをして、煎餅を食べた。

ある意味、才能だな。


「どこから来たの?」

「んー。山」

「川」

「え?」

「いや…なんでもない」

「……?」

「山って、随分粗い説明だね…。具体的に、どっちから来たとかは分かる?」

「んー…後ろ」

「そっかぁ…。後ろかぁ…」


お手上げだな、こりゃ。

どこから来たのかを聞き出すのは無理そうだ。

またサンは欠伸をして。


「お父さんは?お母さんは?」

「お父さん…は分かんない。お母さんは、ここにいるよ」


そして、私に抱きつく。

小さな翼をパタパタとはためかせて。


「またオレか」

「いいじゃない」

「いいけどな…」


赤い目で見上げてくる。

ニコリと笑うと、鋭い牙が目立った。

と、気になるところが見つかった。

サンの口に指を入れて、確かめる。


「うにゅ…」

「何してるの?」

「ほら、見てみろよ」

「んー?何かあるの?」

「あっ、二牙症だね」

「ニガショウ…?何それ」

「望にでも教えてもらえ」

「望~。教えて~」

「桐華は、もう少し大人としての威厳を高めるべきだね」

「いいじゃない、別に。知らないことを教わるのは悪いことじゃないでしょ?それに、自分の立場がどうか、相手が誰であるのかなんて関係ない。大人が子供に教わろうとも、子供が大人に教わろうとも、その実は変わらない。知らなかったことを知るっていうのが大切なんだから」

「んー…。なんか、それっぽく聞こえてしまった…」

「ぼくだって、いつものほほんとしてるわけじゃないんだよ」

「たまに真面目になるのが、一番対処しにくいよ」

「長い付き合いじゃない。いい加減に慣れてよ」

「はいはい」

「それで、望。ニガショウって何なの?」

「えっとね、牙がふたつあることだよ」

「二牙症か…。牙がふたつあるって?」

「原因は分からないけど、珍しいってほどでもないのかな。望もそうだし、姉ちゃんも二牙症だったよね」

「ああ」

「とにかく、症例は少なくないよ」

「ふぅん…」


サンの頬を引っ張ると、不機嫌そうな顔をする。

でも、ある程度は口の中を見ておく。

虫歯はないし、まだ乳歯も混じってはいるが、綺麗な歯をしている。

歯並びも良いみたいだし、言うことなしだな。

…点検が終わって、しばらくサンの好きなようにさせていると、甘噛みを始めた。

夜魔も甘噛みをするんだな。

頭を撫でてやると、嬉しそうに足をパタパタさせて。

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