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部屋に近付くにつれ、またバタバタと走り回るような音が聞こえてくる。


「もう!あの子たち、また何かやってるの!?」

「いいじゃないか。壊れるようなものも置いてないし」

「でも…!」


そう言って、風華は走っていった。


「光は行かないのか?」

「うん。だって、お母さん、連れて行かないと」

「え?」


光は、私の手を握り直して、少し先行する。


「光…?」

「わたし、お母さんの、"光"になるよ。だって、わたし、光なんだから」

「光…」


光も、この病気のことを知ってたのか?

光の足音に、迷いはなかった。


「着いたよ、お母さん」

「ああ、そうみたいだな」

「こらっ!待ちなさい!」

「わたし、もう疲れた~…」

「明日香!」

「どうしたんだ」

「あ!姉ちゃん!まだ遊び足りないのか知らないけど、明日香が暴れて!」

「そうか」

「ねぇ、捕まえるの、手伝ってよ!」

「構うから、余計に暴れるんだ。無視しておけばいい」

「でも!」

「でもじゃない。追いかけると、遊んでもらってるのかと思うんだ」

「うぅ…」


風華は、もういいよ!と言わんばかりに足音を立てて、布団に潜り込む。

私も光に先導されて、布団へとたどり着く。


「さあ、望、響。もう寝ようか」

「うん」

「ん?響は?」

「あっ!響!そんなとこで寝たら風邪引くでしょ!」

「うぅ~…もう動けないよ~…」

「そんなこと言って!ちゃんと布団で寝なさい!」

「むぅ~…」

「ほら、響。こっちに来い。一緒に寝よう」

「うん…」


ゴソゴソと這い回るような音がして、響が私の布団に潜り込んでくる。


「あ…そういえば、光の布団、あるか?」

「うん。お昼寝のとき、光の分も出しておいたんだ」

「そうか」

「フカフカ~」

「そうでしょ。お日さまの光をいっぱい吸ってるからね」

「ん~」


パタパタと、何か羽ばたくような音が数回聞こえたが、すぐにやんだ。

眠ってしまったらしい。


「…みんな、寝付きが良いみたいだね」

「ああ。しっかり食べて、しっかり遊んでるからな」

「はぁ~。じゃあ、私も寝るかな~。…ん?どうしたの、明日香?」

「クゥン…」

「寂しいんだと。一緒に寝てやれ」

「そうかそうか。ほら、こっちに来な~…って、姉ちゃん、明日香の言ってることが分かったの?」

「え?なんでだ?」

「寂しいんだと…じゃあ、明日香が言ってることを代弁してるみたいじゃない。寂しいんだろ…とかでしょ、普通」

「聞き間違いなんじゃないのか?」

「絶対に違うね」

「自信満々だな…」

「うん。耳の良さには自信があるよ」


今が話すとき、か。

まあ、隠すようなことでもないしな。


「…そうだよ。オレには明日香の言葉が分かる。正確にいうと、狼の言葉、だけど」

「ふぅん?なんで?」

「…私は、昔、狼に育てられてた時期があったんだ」

「え…?」

「戦で親を失ったらしい。ずっと赤ん坊の頃だから、全然覚えてないんだけどな。気付けば、私の親は狼だった。厳しいけど、優しかった」

「………」

「ある日、縄張りの中に人間が入ってきた。母さんは、私がいることをなんとかして気付かせようとしてたみたいだ。そして、その人は私に気付いた。狼の群れの中にいる、人間の子供の存在にな。…いつの間にか母さんたちはいなくなってた。私は、母さんを必死に探した。必死に呼んだ。でも、もう姿を現すことはなかった。私とその人だけが、その場に取り残された」

「…それで?」

「私は、その人に連れて行かれた。今まで怖いと思ってた人間に連れて行かれるなんて、最初は嫌だった。でも、その腕に抱かれているうち、不思議と安心出来た。なんでだろな。母さんと同じ匂いがしたからかもしれない」

「その人って、誰だったの?」

「…ここの、前の衛士長だよ。最初は、オレを狼として扱ってくれてたみたいだ。徐々に人間の生活に慣れさせて。そして、オレは衛士として教育された。ここで生きていくために」

「それで?前の衛士長さん、どうしたの?」

「母さんは死んだよ」

「あ…ごめん…」

「ううん。最期まで立派だったよ。自分の信念を貫いて、死んでいった…」

「………」

「オレを生んでくれた母さん、ここまで育ててくれた二人の母さん。みんな、オレの母さんだ。オレの、大好きな母さん」

「…うん」

「なんで風華が泣いてるんだよ」

「ううん。姉ちゃん、幸せだったんだな…って思って」

「幸せだった、じゃない。幸せなんだ。今も。風華がいて、みんながいて。本当に、幸せ。それに、この子たちには、お母さんって慕われて。あぁ、母親になるって、こんなかんじなのかな…って。母さん、こんな気持ちだったのかなって」

「じゃあ、私もお母さん、って呼んでもいい?」

「呼んでくれるのか?」

「ふふ、やめとくよ。姉ちゃんがお母さんなら、兄ちゃんはお父さんになっちゃうし」

「え?どういう意味だ?」

「あれ?姉ちゃんって、兄ちゃんのこと、好きじゃなかったの?」

「なっ!何をっ!」

「あれ~?違った~?」


絶対ニヤニヤしてるよ!

もう知らない!

布団を頭から被ってしまう。


「あははははっ。姉ちゃんって、兄ちゃんと同じで、ホントに分かりやすいね~」

「………」

「あ、怒っちゃった?」

「………」

「ごめんね、姉ちゃん。でも、ホント…あははははっ」

「何が可笑しいんだ!」

「い、いやぁ、なんでもないからっ!あははははっ」

「なんでもないことないでしょ!」

「くふふ…あははははっ」


何が可笑しいのかは知らないけど、風華はずっと笑い続けてて。

もう!

風華なんて嫌い!

そういうことですね。

…何が?

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