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「それで、カイトはどこに行っちゃったの?」

「知らないよ、そんなの」

「まあ、そうだよね」

「桐華たちはどうしてるんだ?広間にいるのか?」

「うん。いると思うよ。なんで?」

「いや、少しお茶を貰おうかと思ってな」

「じゃあ、私が貰ってくるよ。伊織もそんなだし。みんなを見てて」

「ああ、すまないな」


風華はニッコリと笑って部屋を出ていく。

湯呑みは…向こうに置いたままだったか。


「ふぁ…」


風華が戻ってくるまで耐えられるかな…。

伊織の角を触ってどうにか耐える努力をしてみる。

…しかし重いな、こいつは。

寝てて力が抜けているとはいえ、上半身だけでこの重さか。

龍というのはこんなものなのか?

そういえばこの前、千早が風華の服にくっついてたけど、あれはどうなっているんだろうか。

風華は細かい毛が生えているんだろうって言ってたけど…。

ギュッと服を握っている伊織の手を解いて、手のひらを見てみる。

んー…。

これは肉球だな…。

千早にも小さいのがあったけど。

毛が生えてる様子はないな…。

目では見えないくらい細かいか、別の方法でくっついてるかだな。

それにしても、この触り心地は極上だな。

締まり具合も弾力も絶妙だ。


「ウゥ…」

「起こしたか」

「オォ…」

「そうか。ごめんな」


頭のてっぺんを掻いてやると、満足げにため息をついて。

そして、また眠りに落ちていった。


「ただいま~。はい、しっかり目が覚めるお茶だよ」

「ありがとう。気が利くな」

「姉ちゃん、眠そうにしてたから」

「そんなに眠そうにしてたか?」

「うん。姉ちゃん、眠たいときは尻尾をゆっくり動かして、耳を寝かすんだ」

「ふぅん…。気付かなかったな…」

「無くて七癖。癖って、自分では分からないものだよ」

「…そうだな。風華は考え事をしてるときに髪をいじるよな。何か怒ってるときは頻繁に腕組みをするし、嬉しいときは普段よりよくまばたきをする」

「えぇ…。ホント?」

「ああ。無くて七癖。もう三つも見つかったな」

「うーん…」


唸りながら、風華は髪をいじり始める。

指摘しても面白いだろうが、こうやって黙って見ているのも…


「あっ、やっちゃった…。もう…」

「ふふふ」


こういうことがあって面白い。

…とりあえず一口、お茶を飲んで目を覚ますことにする。

風華の癖を、さらに見つけないといけないしな。



望は大きく伸びをして目を擦る。

そして、もう一度大欠伸をすると、パサリと尻尾を振った。


「おはよう」「おはよ~」

「おはよ、お母さん、お姉ちゃん」

「桐華さんに貰ってきたお茶、飲む?」

「うん」

「有名なお茶なんだって。美味しいよ」

「有名?」

「んー、なんだっけ」

「知覧茶だろ」

「あぁ、そうそう。姉ちゃんの好きなお茶」

「お母さんが?」

「ああ」

「ふぅん」


風華に入れてもらったお茶の匂いを嗅いでみる。

良い香りがするんだろう。

どこか満足げに息を吐く。

そして、口に含んで味を確かめる。


「どう?美味しい?」

「んー…熱い」

「あぁ、そうだね。桐華さんの水筒は冷めにくいから。時間が経っても熱いままなんだよ」

「魔法瓶だな。二重構造になってて、間に熱を逃がしにくい素材を入れてるんだ」

「ふぅん。そうなんだ」「……?」

「はは、望にはまだ難しいかな」

「むぅ…」

「まあ、淹れたてには敵わないだろうが、いつでも熱いお茶を飲めるのは魅力的だな」

「んー…。でも、ちょっと熱いよ…」

「狼なのに猫舌なのか」

「あはは、面白いね」

「…面白くない」

「ふふ、そういうな」


必死になってお茶を冷ましている望の頭を撫でると、不機嫌そうに尻尾を振って顔は上げようとしなかった。

どうやら、うちのお姫さまの機嫌を完全に損ねてしまったらしい。

肩をすくめると、風華も困ったように笑って。


「そういえば、夏月が美希の傍から離れないんだ」

「美味しそうな匂いでもするんじゃないのか?」

「ううん。美希、料理の修行してるでしょ?味見でいろいろ貰えるからだよ」

「あながち間違いではなかったな」

「んー…。でも、いつからうちの子たちはこんなに食い意地が張るようになったのかな…」

「さあな。誰かさんを見てるからじゃないか?」

「あっ、桜だね」

「…まあ、桜もそうだけど」

「え?他にもいるの?」

「お前だよ」

「えぇっ!なんで私なのよ!食い意地なんて張ってないもん!」

「朝ごはんだけでも、ご飯を三杯もおかわりしてるやつがよく言うよ。一日二十杯は食べてるんじゃないか?」

「そんなこと…ないもん…」

「まあ、いつも言ってることだけど、食べることは良いことだ。遠慮することはない」

「むぅ…。食い意地は張ってないんだから…」

「ははは。分かった分かった。食い意地を張ってるのは桜だけだ」

「うぅ…」


風華の背中を軽く叩いてみるが、こっちも唸るばかりで顔を上げなくなった。

…二人目のお姫さまもご機嫌斜めのようだ。

こうなるともうお手上げだな。

ひたすらお茶を冷ましている望に、腹いせに寝ぼけ眼の伊織の顔をグニグニといじる風華。

しばらく相手にしてくれそうにないので、布団の上に寝転がって。

小さく開いている葛葉の口に指を入れてみたりして。

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