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「ん~」

「翔は?」

「厨房じゃない?」

「いなかったぞ」

「じゃあ、分かんないよ」

「そうか」


葛葉の頭を撫でて。

湯呑みに手を掛けると、素直に渡してくれた。


「葛葉、弥生。広間に一緒に行くか?お菓子もあるぞ」

「おかし~」「行く!」

「朝っぱらからお菓子?」

「お茶会だ。桐華主催の。風華も来るか?」

「私はいいよ。でも、あんまり食べさせないでよ。昼ごはんが食べられなくなるから」

「分かってる。そら、行こうか」

「うん!」「はぁい」


弥生はすっかり懐いてくれたんだけどな。

翔もこれくらいだと嬉しいんだが…。

二人が医療室を出ていって、私も行こうかと思ったとき


「姉ちゃん」

「ん?」

「弥生なんだけどね…」

「どうしたんだ」

「暗所恐怖症と孤独恐怖症みたいなの…」

「どういうことだ」

「暗闇と一人ぼっちが怖いらしいの…。夜勤組の見回りさんに聞いたんだけど、夜中に一人で泣いてたみたい。ちょうど、翔が厠に行ってたみたいで…。だから、出来るだけ傍に誰かがいるようにしてあげて」

「分かった」


頷いて、医療室を出る。

暗所恐怖症に孤独恐怖症か…。

昔、夜に何か怖い目に遭ったんだろうか。

恐怖の記憶というのは、いつまでも残り続けるものだからな…。

とにかく、しっかり見ておいてやらないと。



広間に戻ると、蓮と伊織はまだ伸びていた。

そういえば、風華にこいつらのごはんについて言うのを忘れてたな。

…まあいいか。


「お帰り~」

「ただいま」

「あの二人を伸したのって紅葉?」

「そうだけど」

「さすがだね~」

「お前も見てたんじゃないのか」

「龍の喧嘩なんて、滅多に見られないじゃない」

「はぁ…。止めろよ…」

「そういうのは紅葉の役目だし」

「オレは仲裁役でもなんでもないぞ」

「腕っぷしだけは強いじゃない」

「桐華。だけは余計だと思うよ。桐華は能天気で分からないかもしれないけど、紅葉は傷付きやすいんだから」

「ん?」

「…いいよ、もう」

「ほらぁ、拗ねちゃったじゃない」

「拗ねてない!」

「そう?」


こいつらは…。

ホントに、話してると疲れるな…。


「それよりさ、お茶、飲みなよ。良いのが入ってるよ」

「そうだな」

「今朝の淹れたてだよ~」

「今朝なら淹れたてじゃないだろ」

「このお茶は、冷めてからが美味しいんだ~」

「ふぅん…」


湯呑みを桐華の前に置いて。

夢中でお菓子を食べている葛葉と弥生の頭を撫でる。

すると、今気付いたという風に顔を上げて、ニッコリと笑った。


「はい、どうぞ」

「うん」

「美味しいでしょ」

「まだ飲んでないし…」

「早く飲んで」

「ああ」


言われるまでもなく…。

お茶を口に含むと、独特の苦味が広がる。

その苦味も、ごく短いもので。

ゆっくりと甘味へ変わっていく。


「ふむ。変わったお茶だな」

「そうだよ。淹れたてだと苦味だけなんだけど、冷ますと甘味が出てくるんだ」

「ほぅ」

「桐華はお茶ならなんでも飲むけどね。こだわりが強いから難しいよ」

「どんなこだわりがあるんだ」

「とにかく美味しいお茶だね。でも、あまり美味しいと思ってなくても普通に飲んでるから、さらに難易度が上がるんだよね」

「そんなことないよ。美味しいお茶は美味しいって思って飲んでるし、不味いのは不味いと思って飲んでるし」

「不味いお茶があるのか?」

「んー…。苦すぎるのはイヤかな…。やっぱり、甘味がないと」

「ふぅん」

「そうそう。でも、それでも何も言わずに普通に飲んでるから分からないんだよね~」

「オレは尻尾に出るらしいけどな。灯によると」

「尻尾ねぇ…。熊だし」

「そうだったな」

「ん?」

「お前はどこを見たら、感情が分かるんだ」

「いや、感情は分かるよ。全部顔に出るからね。でも、今飲んでるお茶が美味しいのか不味いのかは分からないんだよね」

「そういえば、それはどうやって分かるんだ。美味しいか不味いかって」

「不味いお茶を飲んだ次の日は、すっごく機嫌悪いんだ。それで分かるかな」

「ふぅん。それより、葛葉、弥生。その一個で最後にしておけよ」

「えぇ…」「うん」

「えぇじゃないだろ、葛葉。それで何個目だよ」

「んー…」

「お前は五個目だろ。それ以上食べたら昼ごはんが食べられなくなるぞ」

「うぅ…」

「じゃあ、それを食べてもいいけど、昼ごはんはなしな」

「………」


葛葉はしばらく考えて、右手に持っていた方の饅頭を置く。

よしよし、良い子だ。

頭を撫でてやると、少し寂しそうに笑う。


「そんな顔をするな。昼ごはんをいっぱい食べればいいだろ」

「うん…」

「昼ごはんを食べたら、またお菓子を食べていいから」

「ホント?」

「ああ。ホントだ」

「えへへ」


今度こそ、本当に。

弥生も葛葉につられて笑っている。


「うんうん。やっぱり紅葉は子守担当だねぇ」

「勝手に決めるな」

「満更でもないくせに」

「そうだよ。いつでも子供と一緒にいるじゃない」

「そうか?」

「そうだよ」

「ふぅん…」


そんなに一緒にいるか?

自分では分からないけど…。

言われてみれば確かに、誰かしら近くにいるかもしれない。

城にチビたちが集まってくるようになってからは特に。

ていうか、なんでこんなに集まってくるようになったんだろうか。

どこかに貼り紙でもしてあるのか…?

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