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風華と桜は、チビたちに加わって昼寝をしている。

…私は、そのまま部屋を後にした。


「ん?紅葉、どうした?」

「ぅわっ!い、犬千代…いたのか…」


部屋を出てすぐのところに利家は立っていた。


「ああ。ちょっと散歩にな」

「そうか」

「それより、空、見なかったか?もう帰ったのかな…」

「朝見たきりだけど」

「そっか…頼みたいことがあったんだけど…」

「何だ?」

「いや、村長さんに手紙を届けてほしかったんだ。議会召集の返答があってね。それについてちょっと相談があって」

「伝令班に届けさせようか?」

「いいよいいよ。それに、みんな忙しいだろうし」

「犬千代が来てからは、だいぶ暇になった。オレだって、休日でもないのに、こんなにゆっくりしたのは始めてだ。…前は休日もなかったけどな」

「そうなのか?まあ、あんな王じゃね…」

「…ああ。それより、本当にいいのか?」

「いいよ。自分で考えろってことだろうしね」

「そうか」

「ありがと、紅葉。じゃあ、政務に戻るとするよ…」

「頑張ってな」

「ああ」


ニコリと笑顔を見せて、利家は去っていった。


「…どうしたの、お母さん?」

「ひゃぅ!」

「……?」


思わず変な声を出してしまった…。

いつの間にか、眠い目を擦りながら、光がそこに立っていた。


「…お便所、どこ?」

「こっちだ。ついてこい」

「…うん」


いまだに心臓が早鐘を打っている…。

ホント、びっくりした…。


「うーん…」

「とと、危ない」


まだ寝ぼけているのか、フラフラとして危なっかしい。


「ほら、手、繋いで」

「…うん」


光の小さい手は、私の手より温かくて。

光からすると、私の手は冷たいんだろうか?


「…ううん。あったかいよ」

「ん?そうか」

「…うん」


そうこうしている間に厠に着いた。


「ほら」


戸を開けてやる。

…ボヤァとして、はまったりしないといいんだけど。

………。

そういえば、私はなんで部屋を出たんだっけ…。

何かあった気がするんだけど…。

えっと…。

忘れた。

まあ、忘れる程度のことだったんだな。

うん、そういうことにしておこう。


「…ただいま~」

「お帰り。戻ろうか」

「…ふむ」


…半分寝かけてるな。

仕方ない…。


「ほら、おんぶしてやるから」

「………」


もうほとんど無意識だったんだろうか。

返事をすることもなく背に乗ると、そのまま眠ってしまった。


「あっ。隊長、お疲れ様です。私が運びましょうか?」

「いや、大丈夫だ。もうすぐそこだし。ありがとな」

「いえっ。では、頑張ってください」

「ああ」


たまたま通りかかった恭二に声を掛けられた。

あれだけ周りに気を遣えるんだ。

戦闘班なんかより、医務班の方が良かったんじゃないだろうか。

…まあ、それは恭二の決めることだ。

私がとやかく言うことは出来ないんだけど。


「光、着いたぞ」


光を布団の上に下ろしてやる。

明日香が少し目を開けたが、光だと分かると、また眠りに落ちた。


「私はどうしようかな」


外は雨。

…それに、みんなの寝顔を見ていると、私も眠くなってきた。

ちょっと…寝るかな…。



生温かいものが顔をなぞる。


「うわっ!」

「あ、起きた~」

「…ん?望?」

「ごはんだよ」

「あ、うん、そうか。ありがと」

「じゃあ、明日香。行こっか」


明日香と共に広間へと走っていく。

…今のは、明日香が舐めたのか。

もっと良い起こし方があるだろうに…。

それにしても、もう夕飯か…。

ちょっと寝すぎたな…。


「行かないの?」

「行くよ。光も一緒に行こう」

「うん」


まだ部屋に残っていた光と一緒に広間へ向かう。


「わたしね、一所懸命飛んだんだけど、すぐに、望に追いつかれちゃったの」

「ん?あぁ、昼の話か」

「うん」

「望は光よりお姉さんだからな。まあ、そのうち望でも追いつけなくなるよ」

「そうなの?」

「ああ。白龍は"光"。"光"より速いものはない」

「でも、わたし、望に追いつかれちゃったよ?」

「ふふっ、そうか。そうだったな。"光"。良い名前だ」

「???」


首を傾げる。

"光"の光…か。

これからが楽しみだな。


「あっ!隊長!お疲れ様です!」

「ああ。お疲れ様。お前も夕飯にするといい」

「はっ!」


広間に入ると、すでに戦は始まっていた。


「風華~!また盗られた~!」

「桜!大人気ないことしないの!お姉ちゃんでしょ!」

「望が先に盗ったのが悪いの!」

「おい、狼がお前の、食ってるぞ」

「こら!どっから来たんだ!」

「あ!衛士さん!それ、明日香です!」

「明日香?拾ってきたんですか?」

「はい。あ、それと、あんまり人の食べ物を食べないよう、見張っててくださいね」

「了解いたしました~」


そんなやり取りを聞きながら、いつもの席に座ると、空気が変わった。


「ふふふ…今日こそ討ち取ってあげるからね…!」

「覚悟しててね~」

「望むところだ。お前らこそ、その首を綺麗に洗って待ってろよ」

「あっ!あんまり暴れないでね!後片付けが大変なんだから!」


それは無理だと分かってるだろう?

戦は、常に他の誰かを犠牲にしないと成り立たない。

それがたまたま風華や調理班だったというわけだ…!

私がこの箸を握ったときが開戦のとき。

さあ、今日はどう来る…?


「いただきま~す」


光の声を合図に、箸を取る。

すると、間髪入れず、ご飯に手を出す望。

それを受け流し、同時に漬物へと迫っていた桜の箸へぶつける。


「あっ!」

「隙あり!」


一瞬怯んだその隙を突いて、桜のおかずを盗る。


「あぁっ!いろはねぇ がボクの、盗った!」

「昼、ほとんど桜にやっただろ。それのお返しをしてもらわないとな」


怒りに満ちた矛先が描く軌道は、あまりに真っ直ぐ過ぎるものだった。

それを受け止め、さらに痛手を負わせる。


「ほらほら。本陣がお留守だぞ」

「もう!」


望と共同戦線を仕掛けてみるが、桜が足手まといになってるのは明らかで。

どうしても噛み合わない攻撃を軽く捌いて、桜にさらなる追い討ちをかける。

もはやボロボロの桜。

これで勝負ありだっ!


「あっ…」


獲物が宙を舞う。


「ふふ、オレの勝ちだな」

「くぅ…!」


後は望だけ。

一人だけしかいないなら、何のことはない。

適当にあしらってやる。


「まだまだ!」

「諦めろ。オレに勝とうなんざ、百年早いんだよ」

「うぅ~」


一旦退いて態勢を整えた隙に、すかさず望の皿に手を伸ばしおかずを盗る。


「あっ!」


と、口を開けたところにそれを入れてやる。


「むぅ!」


予想外の行動に怯む。

そして、そのまま一閃、望の獲物も宙を舞った。


「二人とも、まだまだ詰めが甘いな」

「うぅ…」「今度は負けないんだからっ!」

「ふふ、吠えて…」

「いただきっ」

「あっ!」


………。

やられてしまった。

勝って兜の緒を締めよ、とはこのことだ。

響におかずを盗られてしまった。


「お母さんも、まだまだだね」

「くっ…」

「やった!ボクたちの勝ちだ!響、ありがと~!」

「えへへ。どういたしまして~」


ホントに嬉しそう。

…今度は、響も考慮に入れておかないといけないな。

ふふふ…。

二度と同じ手は通用しないぞ…。



昼からの雨はやんで、心地良い風が入ってくる。


「お母さん、何してるの?」

「ん?外を見てるんだ」

「真っ暗でよく見えないよ」

「ジッと見てるんだ。そのうち目が慣れて、いろんなものが見えてくる」

「うん」

「ほら、ここに来な」

「うん!」


膝を叩くと、光は嬉しそうに飛びついてきた。

そして、外を見つめる。


「うーん…」

「根気良く待つんだ。すぐに慣れてくる」

「ん~…」


ジーッと一所懸命に外を見る光の姿が可愛くて。


「あ」

「見えたか?」

「うん。なんか、ちょっと明るくなったみたい」

「向こうの山の方を見てみろ」

「………」

「どうだ?」

「あ。あれ、お月様?」

「ああ。そのうちに良く見えてくるだろうよ。…でも、今日はもう遅い。寝ようか」

「えぇ~…」

「次の新月が過ぎれば、月が昇るのも早くなる。またそのときに、ゆっくり見ればいいさ」

「…うん。分かった」

「ふふ、良い子だ」

「えへへ」


光の頭をゆっくり撫でる。


「やっぱり、光は笑顔が一番だね」

「あ、お姉ちゃん!」


気を遣ってくれたのか、光の笑顔を伝えてくれる風華。


「さ、姉ちゃんも光も、もう寝る時間だよ」

「うん」「ああ」

「じゃ、行こ?」


風華の手に引かれて、広間をあとにする。


「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「…ねぇ、お母さん」

「ん?どうした?」

「なんで、黙ってるの?」

「ん~、なんでだろうな、風華?」

「えぇっ!?私!?」

「お姉ちゃんは、なんで黙ってたの?」

「私は…別に喋ることもなかったからかな」

「ふぅん」

「喋ることがなくても、三人、こうしていることで充分。光は、そう思わないか?」

「うーん…お喋りしてる方が、もっと、楽しいかな」

「ふふ、確かにそうだな」


言葉を交わさなくても、お互いに繋がっていることは分かる。

でも、言葉に表すことで、繋がりが目に見えるようになる。

この真っ暗な世界でも、それだけは見える。

確かな繋がりの糸だけは。

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