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「久しぶりだな、洗濯」

「そうだね」

「これ、葛葉の」

「あ、着替えてなかったんだ」

「ずっとこれだっただろ?」

「うん」


葛葉の寝間着をたらいに入れ、しっかりと洗う。

白地にところどころ赤が入った服で、葛葉によく似合う。

帯は落ち着いた黒で、白と赤の中にしっとりとした印象を与える。


「この服は本当に葛葉に似合うよな」

「うん。桜が作ってくれたんだよ。今はピッタリだけど、最初はすごくブカブカだったんだ」

「へぇ。まだあんなチビだけど、大きくなってるんだな。あ、それで、朝、葛葉が下着を穿いてなかったんだが」

「えっ、また?」

「なんだ、穿いてないことがよくあるのか?」

「暑いのか知らないけど、寝てる間に脱いじゃうみたいなんだ。下着だけじゃなくて服もなんだけど…。近くに落ちてなかった?」

「落ちてたのか。風華が用意したんだと思ってた」

「夜はちゃんと穿いてるからね。まあ、まだおねしょもするから用意するときもあるけど…」

「おねしょか。今日はしてなかったな」

「昨日、夏月がしてたからね~」

「なんだ、香具夜。一緒に寝てたのか?」

「まあね」


香具夜が洗濯物を抱えて乱入してきた。

ていうか、なんで来るんだ。

…洗濯物が増えるじゃないか。


「子供たちが寂しいって言ってくるから、紅葉と風ちゃんがいない間、一緒に寝てあげてたんだ。雑魚寝なんだね」

「ああ。しかし、寂しい…か。あんなにワラワラといるのにな」

「うん。まあ、大人がいなくて怖いっていうのもあったのかもしれないけどね」

「あ、そっか。そういやそうだね。誰かに頼んでおくんだった」

「んー。いいんじゃないかな。みんな分かってるし。子供たちも、自分から来たんだから」

「それならいいけど…」

「それで、昨日の朝早くに夏月が泣きながら私を起こすもんだからびっくりしたんだけど、おねしょだったんだよね」

「もう…。夏月…」

「望がもう起きててキビキビと動いてくれてたから、私がやることはほとんどなかったんだけどね。なんでか知らないけど素っ裸で寝てたみたいで、被害は布団だけだったみたい」

「夏月も脱いでたのか」

「誰か脱いでたの?」

「ああ。葛葉がな」

「ふぅん。可愛いね」

「可愛いのか…?」

「紅葉は昔、服なんてイヤだなんて言って、昼間でも素っ裸だったけどね」

「なっ!ち、小さい頃の話だろ!」

「へぇ~。そうなんだ。小さい頃…」

「そうそう。あの頃は可愛かったなぁ。今みたいに、目付きも悪くなかったし…」

「なんだよ、それは!」

「はぁ…。なんでこんな鷹みたいな鋭い目になったのかなぁ。環境のせい?」

「あー、前王があれだったもんね」

「いや~、やっぱり小さい頃の環境ってのは大事だねぇ」

「お前ら好き放題言って!オレの目の、どこが鋭いって言うんだ!」

「いたっ!痛い!紅葉の視線が刺さる!」

「何を言ってるんだ!」

「あはは、面白いね~」

「面白くない!」


目付きが悪いって言われて面白いわけがあるか!

まったく…。

………。

悪くないよな…?


「ほーら、またここだ。ここは井戸端じゃないんだが」

「あ、兄ちゃん。夏月が昨日、おねしょしたってホント?」

「ああ。朝から布団を洗わされたな。僕と美希が」


そう言って、香具夜の方を見る。

香具夜は利家から目を逸らして。


「はぁ…。まあ、夏月のことだし、別にいいけどな。でも、自分の仕事くらいは自分でやってほしいものだな」

「なんのことかな?」

「しらばっくれて…。そら、洗濯物が全然減ってないぞ」

「これは紅葉の分だよ」

「嘘をつくな」

「なんでもいいから、早く済ませろよ。あと、紅葉。葛葉がお待ちかねだぞ」

「ん?なんでだ?」

「市場に行くんだって、外門のところではしゃいでたぞ」

「市場?」

「そんな約束、したの?」

「いや、全く覚えがない」

「えぇ…」

「まあいいじゃないか。市場に行くなら、頼みたい用事もあったし」

「何だ」

「うん。ちょっと届けてもらいたいものがあるんだ」

「伝令班に頼めばいいんじゃないのか?」

「まあ、そうなんだけど。みんな忙しそうだし」

「…ということは、オレは暇そうだってことか」

「実際、暇じゃない」

「失礼だな、お前も」

「紅葉ほどじゃないよ」

「ははは。じゃあ、頼めるか?」

「ああ。任せておけ」

「愛する夫の頼みは断れないよね」

「そ、そんなんじゃない!」

「あれ?利家のこと、嫌いなの?」

「いや、そういうことじゃ…」

「ふふふ。面白いね、紅葉って」

「どういう意味だ!」

「そのままの意味だよ」


分かったこと。

香具夜は意地悪で、とっても失礼だってこと。


「よし。お喋りはそこまでだ。早くしないと、葛葉が待ちくたびれてしまうぞ」

「…そうだな」

「ホントに約束してないの?朝ごはんのときとかさ」

「オレの記憶にはないな…。してないとは思うんだけど…」

「まあ、早く終わらせて葛葉に聞きに行けってことだな」

「そうだな」

「あ、そういえば。村長さんが、たまには帰ってきなさいって言ってたよ」

「ああ、分かった…って、風華に言っても仕方ないしな…。あとで手紙を書いておくよ」

「それがいいね」

「そうそう。絵手紙、ちゃんと届いてた?」

「届いてたよ~。いろいろ描いてあったね」

「うん。それでさ…」


また別の話題で盛り上がり始める。

…ごめんな、葛葉。

もうちょっと待っててくれよ。

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