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重い。
非常に。
「おい、お前ら。どけろ」
「………」
「重いって!」
「ウゥ…」
布団ごと蓮と伊織を投げ飛ばす。
二人は床にゴロゴロと転がって、寝惚けたように唸り声をあげた。
「ていうか、まだ寝惚けてるのか…」
隣では葛葉と夏月が寝ていた。
他のみんなはもう起きてるのかな。
まあ、ちょうどいいから全員起こすことにする。
「葛葉、夏月。起きろ。朝だぞ」
「うーん…」「むぅ…」
「蓮と伊織も。朝ごはん、いらないのか?」
「朝ごはん!」
「葛葉、起きたか。しかし、お前はホントに食べるのが好きだな」
「うん!」
ボサボサの髪を手櫛で整え、寝間着を脱がせる。
そして、風華が用意したらしい着物を渡す。
…そういえば、この寝間着は一週間くらい着てるな。
洗濯物に出しておこう。
ていうか…
「お前、下着くらい穿いておけよ…。寝間着を脱いだら素っ裸じゃないか…」
「……?」
「…もういいよ。ほら、ここに下着もあるから」
いつもこうなんだろうか。
危なっかしく片足立ちをして下着を穿く葛葉。
…と、葛葉を観察してる場合じゃない。
「夏月、蓮、伊織。起きろ」
「んむ…」
「お、夏月。起きられるか?」
「うん…」
「よしよし。良い子だ」
「えへへ…」
「お前も着替えて。そら、寝間着も脱ぐんだ」
夏月は昨日着替えたばかりだから、洗わなくていいだろう。
うん。
下着もちゃんと穿いてるな。
あーあ、こんなに帯をきつく結んで…。
取れないな…。
「んー…」
「おい、夏月。起きろ。立ったまま寝るな」
「ん…」
はぁ…。
はっきり目が覚めてるのは葛葉だけか…。
目を覚ましてやろうと夏月の頬を引っ張ってみると、よく伸びて面白かった。
「むぅ…」
「起きろ。服も着て。早く朝ごはんを食べにいこう」
「うん…」
よし、帯も解けた。
用意してあった服を渡すと、大欠伸をしながら着替え始める。
…さて、困った寝坊助龍たちだけが残ったな。
「おい、いい加減起きろ。もう葛葉も夏月も起きてるぞ」
「ウゥ…」
「嘘をつくな。昼行性だろ」
「オォン…」
「五分経って起こしたら、また延長するんだろ。ダメだ。今すぐ起きろ」
「ウゥ…」
伊織はゴロゴロと転がって、まだ寝たいと主張する。
まあ、そんなことを許すわけもなく。
重たい伊織の身体を抱えて、無理矢理立たせる。
腰を引いたりして抵抗するが、もう無駄だと分かったのか、観念して立ち上がる。
大きな欠伸をすると、こっちを睨んで身体をバタバタと震わせた。
「よし。あとは蓮だけだな」
しかし、こいつは大変そうだな。
今の大騒ぎでも目を覚ます気配は一向になく、死んだように眠っている。
ピクリとも動かない。
「蓮。起きろ。朝だぞ」
「おきないの?」
「お、葛葉。着替えたか。朝ごはんを食べてこい」
「ううん。ねーねーといっしょに行くの」
「そうか。でも、ちょっと遅くなるかもしれんぞ」
「うん。でも、ねーねーといっしょに行く」
「ありがとう。じゃあ、少し待っててくれ」
「うん」
葛葉は布団の上にチョコンと座ると、首を傾げながら私の奮闘を見物する体勢に入った。
…帯が固結びになってるな。
あとで直してやらないと。
さて…
「よいしょっと…」
蓮を屋根縁まで引っ張っていく。
山から離れ始めた程度とはいえ、朝日は充分に眩しかった。
日射しが入りきらず、まだ少し薄暗い部屋だから起きないんだ。
太陽の光を浴びれば目が覚めるだろう。
「ウゥ…」
「起きたか」
「ワゥ…」
「伊織と同じことを言うな。早く起きるんだ」
「オォン…」
「伊織はもう起きてるぞ」
「……?」
「そこにいるじゃないか。ほら、さっさと起きて」
「………」
「ダメだ」
腰のあたりを叩くと、仕方なくといったかんじで、蓮はのっそりと立ち上がる。
ふぅ…。
作戦成功だな。
これで朝ごはんが食べられるな。
「ねーねー、夏月がねてるよ」
「えぇっ!?」
「ワゥ」
「いや、お前がなかなか起きないからだろ。待ちくたびれて寝たんだ」
「………」
「そんなことより。夏月、起きろ。朝ごはんを食べにいこう」
「んー…」
「ほら、着物もちゃんと着て」
「んぅ…」
上から羽織っただけの着物をちゃんと着せて。
って、ちょっと待て。
こいつはなんで下着を脱いでいるんだ。
まったく…。
葛葉といい、夏月といい。
穿かないのが流行っているのか?
…とにかく、布団の上にあったのを穿かせて、きちんと着物を整えて。
帯をしっかり結んで出来上がり。
「あ、そうだ。葛葉。ちょっと来い」
「なに?」
「帯が固結びになってる」
「かたむすび?」
「ほら。結び目がガッチリ固いだろ?これが固結び。…よし、これでいい」
「これは、なにむすび?」
「蝶々結びだな。ここを引っ張ると簡単に解けるんだ」
「ん」
「あっ!今解くなよ!」
「あぅ…。ごめんなさい…」
「いいよ。また結べばいい話だ。オレの方こそ、大声を出してごめんな」
「うん。ねぇ、ちょうちょむすび、おしえて」
「ああ。じゃあ、まず…」
朝ごはんは…まあいいか。
遅い朝ごはんも、たまにはいいだろう。
夏月と蓮もまた起こさないといけないし。
伊織は布団の上に座って、蝶々結びが出来上がるのを興味深そうに眺めていた。