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赤くなってきた空の下、それぞれの家に帰っていく子供たちを見送って。


「ルウェと話せたのか?」

「え、えぇ?」

「なんだ。せっかくの良い機会だったのに」

「だって…」

「はぁ…。仕方のないやつだな…」

「うぅ…」


祐輔は尻尾の先を左右に振って、指をモジモジさせている。

本当に何も話してないみたいだな。


「まあ、話す機会なんてこれから何回もあるんだから」

「うん…」

「でも、次に次にとやっていけるほどはないぞ」

「うん…。分かってるよ…」

「そうか。それならいいんだけど」

「………」


一途ではあるが、優柔不断なところがある。

もう少し、勇気を持ってくれたらいいんだがな。

せめて、気になる女の子と話せるくらいの勇気は。


「さあ、夕飯だ。しっかりごはんを食べて、明日は話し掛けられるようにしないとな」

「ごはんを食べたら話し掛けられるの?」

「ああ。たぶんな」

「そっか…。じゃあ、たくさん食べないと…」

「そうだな…って、そういえば、前は普通に話せてたんじゃないのか?少なくとも、最初にルウェが城に来たくらいは」

「う、うん…。でも、変なことを言って嫌われたりしないか心配になって…」

「なるほどな」

「それで、なんだか怖くなって…」


分からないでもない。

でも、立ち止まってしまうと前に進めない。

それを分かってくれるといいんだが…。


「姉さま、それより夕飯」

「あぁ、そうだったな」


祐輔の手を取り、城へと戻っていく。

夕飯の美味しそうな匂いを嗅いで満足そうにため息をつく祐輔だが、内心は焦りや不安でいっぱいなんだろうな。

手汗がかなり酷い。

…今日中、もしくは、明日くらいまでには決心してほしいものだが。

ルウェの心は待ってくれないからな。

さて、どうだろうな。



桜の口の中に唐揚げを押し込んで、少し黙らせる。

こいつは、すぐに口出ししようとするんだから…。


「それが悪いとは言わないが、あまりにも五月蝿いのは考えものだぞ」

「んむ…。だって…」

「桜、口にものを入れたまま喋らないの」

「んぅ…」

「それで、献立は完成したのか?」

「いやね、カイトに聞いたら、生のまま食べさせればいいだろうとか言ってさぁ」

「灯が、それじゃあ料理人としての腕が発揮出来ないって言ったら、生で食べさせるのも立派な料理だって。刺身とか寿司とか」

「まあそうだろうな。しかし、生野菜は料理とは言わないんじゃないのか?」

「そうでもないんだよ。風華の本に書いてあったんだけど、サラドってのがあるみたいなんだ。生野菜を綺麗に飾り付けるんだって」

「ほぅ」

「でも、トメィドとかマヨニェゼとか、よく分からないものも使うみたいなんだ。代わりに白菜とかほうれん草を並べても仕方ないし、何より美味しくないし…」

「トメィドにマヨニェゼか。どんな食べ物なんだろな」

「トメィドは、赤くて丸い野菜なんだって。マヨニェゼは油と酢とカラシと…あとは卵黄で作るんだったかな…」

「トメィドはともかく、マヨニェゼくらいは作れるんじゃないか?」

「そうかもしれないけど…」

「一回作ってみればいいじゃないか。それで美味しかったら、また食べさせてくれ」

「うん。分かった」


灯はニッコリ笑うと、鮭の切り身を食べ始めた。

それにしても、マヨニェゼか…。

楽しみだな。


「いろはねぇ」

「なんだ」

「もう喋ってもいい?」

「もう喋ってるじゃないか」

「え?あっ、これは数えないの!」

「…誰も喋るなとは言ってないだろ?節度をわきまえろと言ってるんだ」

「はぁ…。ややこしいこと言わないでよ…」

「それにしても、最近はおかずを盗らなくなったな」

「香具夜にね~。小さい子にバカなことを教えるなって殴られちゃった」

「そうか。それは残念だ」

「えっ。そこは、オレが話を付けてやるから…とか言うところでしょ?」

「望はしっかりお姉ちゃんになってきたのに、お前は全く変わらないな」

「何さ…。ボクだって変わってるもん…」

「ほぅ。どこが」

「えっと…」

「最近、お姉ちゃんぶって髪を伸ばし始めたよね」

「面倒くさいだけじゃないのか」

「お姉ちゃんぶってもないし、面倒くさがってもない!」

「じゃあ、なんで伸ばしてるんだ」

「それは…えっと…」


桜は私の方をチラチラと見ながら、そのまま俯いてしまった。

風華と灯も桜の視線を追って私にたどり着き、納得したように小さく頷く。

…私に何か関係があるのか?



板を一旦全部取り払い、外の新鮮な空気を吸わせるついでにセトに会わせる。

セトはなんともなかったが、蓮と伊織は興味津々なようで。


「二人とも…。セトは珍しいものじゃないんだから…」

「龍ってだけで充分に珍しいと思うが」

「そうかな?」

「オレたちは龍に出会いすぎてるんだ。セト、蓮、伊織だけじゃなくて、森でも会ってるし」

「うーん…」

「響や光、リュウもいるしな」

「あ、そういえば、なんでリュウはこっちに来たのかな?」

「なんだ、聞いてないのか」

「え?聞いてるの?」

「聞いてない」

「えぇ…。じゃあ、なんでそんなことを言うのよ…」

「風華には言ってると思ってたからな」

「オォン」

「ん?」


と、伊織が擦り寄ってきた。

何か言いたいようだが、はっきりしない。


「どうしたんだ」

「………」

「姉ちゃんは鈍感だから、はっきり言わないと分かってくれないよ」

「どういう意味だ」

「そのままの意味だよ」

「………」

「ん?何?聞こえなかった」

「ワゥ…」

「あぁ、そんなことか。良いぞ、別に」


子供っぽいところもあるんだな。

いや、まだ子供なんだろう。

あの姉弟も、まだまだ子供だった。

…無事に生き延びてくれよ。

また…会いにいかないといけないんだから…。


「蓮も来るか?」

「………」

「そうか。じゃあ、一緒に行こう」

「ふふ、また部屋が狭くなるね」

「ああ」

「オォ…」

「セトはダメ。ていうか、どう考えても無理じゃない」

「………」

「もう…分かった分かった…。分かったから、今日はもう寝なさい」

「ワゥ!」

「そうだね。明日香が一緒に寝てくれるんだから」

「オォン」

「うん。お休み」


風華はセトと明日香の頭を撫でて。

そして、私と二人の新入りの方を向く。


「行こっか」

「ああ」


セトと明日香に見送られ。

月の光の下、部屋へと戻っていく。

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