13
「あぁっ!早く帰らないと!」
「ん?なんでだ?」
「お昼過ぎまでに布団、取り込まないといけないんでしょ?」
「あぁ、そんなこと言ってたな」
「ちょっ、これ、持ってて!私、急いで取り込んでくるから!」
「ああ。頼む」
「じゃあね!」
風華は、私に荷物を預けると、急いで帰っていった。
…まだもう少し大丈夫だって言ってやった方が良かったかな。
「まあ、いいか」
私はのんびり帰るとしよう。
部屋には、すでに布団が取り込まれており、チビたち三人が、明日香と一緒に昼寝をしていた。
「はぁ…はぁ…」
「そんなに焦らなくても良かったのに」
「そ…そういうことは先に言ってよ…」
「まあ、急ぐに越したことはないからな」
「結局何だったの…?」
「もうそろそろ分かる」
言うか言わないかというところで、空がだんだん暗くなってきた。
「え…?」
「窓、閉めておこうか」
つっかえ棒を取って閉めるとすぐに、雨粒が窓を叩いた。
「姉ちゃんすごいね!なんで分かったの?」
「さあな。オレも理由は分からない。でも、今日は雨が降るなぁって分かるんだ」
「へぇ~。じゃあ、次はいつ降るの?」
「それは分からない。その日にならないとな」
「うーん…。便利そうで、ちょっと不便だね」
「でも、布団と洗濯物は濡らさずに済んだだろ?」
「そうだね。ありがと」
「どういたしまして」
「さて…雨に降られると、やることないなぁ」
「こいつらと昼寝でもしたらどうだ?」
「そうだね…って、そういえば、この子、誰なの?望に引っ張り回されてたみたいだけど」
「光だ」
「ふぅん…光、か。白龍だね」
「ああ」
「この髪、姉ちゃんみたいに綺麗…」
「光の方が綺麗だろ」
「ううん。姉ちゃんのも綺麗だよ」
「そ、そうか?」
「うん」
光の、キラキラと輝く白髪…に近い銀髪を撫でる風華。
腰の辺りまであるだろうか。
響のように切り揃えることもなく、ずっと伸ばしてきたんだろうな。
私は…切るのが面倒だから伸ばしっぱなしなんだけど…。
「桜、どうしてるかな」
「まあ、雨宿りでもしてるんじゃないか?」
「そうだといいんだけど…」
「ん?何か問題があるのか?」
「うん…。桜、雨なんて気にしないから、ずぶ濡れで帰ってくることがあるんだよね…」
「風呂の準備をさせておこうか?」
「そうだね」
一旦立ち上がり、部屋を出る。
「あ、私も行くよ」
「ああ」
そして、風呂場へと向かう。
「それにしても、このお城って複雑な形、してるよね」
「ああ。複雑だと、仮に城内まで攻め込まれても、すぐには奥まで辿り着けないだろう?敵兵が迷ってる間に討ったり、王を逃がしたりするんだ。ほら、通路も狭いから、大勢攻めてきても少数対少数に持ち込みやすいし」
「ふぅん。いろいろ考えてあるんだね」
「この城もそうだが、城の周りに堀を掘るのも、戦略のうちのひとつだ。堀を渡る手段が、たった一本の橋だけなら、その橋を上げてしまえば攻め入られない。食料さえ充分にあれば、そのまま籠城してもいいだろう。それに、橋で防衛線を敷けば、この通路と同じく、少数対少数に持ち込めるからな。あ、そうそう、畳にエダルの蔓を織り込んで籠城戦に備えてる王もいるみたいだぞ。まあ、そういった、戦に特化した住居の極限が『城』というわけだ」
「へぇ~。よく知ってるね」
「伊達に衛士長はやってないからな」
「あはは、そうだったね。忘れてたよ」
「衛士たちに隊長って呼ばれるまで、オレも忘れてることがよくあるからな」
「えぇ~、それはダメでしょ~」
「そうか?」
「…まあ、いっか」
「そうだろ」
そして、二人して笑った。
…最近、ホントによく笑うようになったな。
後で、一人のときに考えてみると、私自身、すごくびっくりすることなんだけど、風華たちと一緒にいると、それが当たり前のように感じられる。
ううん。
きっと、当たり前でないといけないんだと思う。
人が、なぜ笑顔に惹かれるか。
それは、人が笑顔を求めているからに違いない。
求めているものを手に入れられたら嬉しい。
求めているものが手に入らないのは哀しい。
だから、笑う。
一緒に笑う。
私は、今まで笑えなかった分も含めて。
みんなが、求めているものを手に入れられるように。
みんなが、幸せになれるように。
…まず出迎えたのは水飛沫だった。
「もう!桜!ちゃんと拭きなさいって、いつも言ってるじゃない!」
「えぇ~…。面倒くさいじゃん…」
「風邪引くよ!」
「いいもん」
「また、苦いお薬飲まないといけなくなるよ?」
「うぇ~…それは嫌…」
「じゃあ、ちゃんと拭きなさい!」
「うぅ…分かったよ…」
桜は、少し早めに買い物を切り上げて帰ってきたらしい。
私たちが風呂場に着いたとき、ちょうど一風呂浴びて出てきたところだったみたいだ。
身体を震わせて水を切っていたところに、私たちが入ってきたというわけ。
「着替えは?」
「衛士さんが用意してくれたよ」
洗濯物籠の横に置かれた服を指差す。
…誰が用意したのかは知らんが、これは衛士の服じゃないか。
まあいいけど…。
「ふふ、ボクも衛士さんに見える?」
「服だけならね」
「えぇ~、酷い~…」
「伝令班に入ったんだろ。桜も立派な衛士だ」
「えへへ、いろはねぇ、ありがと。…それに比べて風華は」
「な、何よ」
「はぁ…」
ため息をつき、首を横に振る。
「衛士さんに見えないから見えないって言っただけじゃない!」
「なんで見えないのさ!」
「そりゃ…ちっちゃいから…」
「あぁっ!酷い!」
「桜が理由を聞くからでしょ!」
「そういうところは隠しておいてよ!」
「こんなところで嘘言っても仕方ないでしょ!」
「ほらほら、お前ら、喧嘩するな」
「だって…!」
「風華。衛士は、みんな、自分の力が発揮出来るところで働く。力を発揮するのに大きいも小さいもないだろ?それと、桜。小さいことを気に病むことはない。小さい分、心を大きく持てばいいんだ。他の人に負けないくらい、大きな心を持つ。背では負けても、心では負けない。それでいいんじゃないのか?」
「………」
「………」
「二人とも。やることがあるだろ?」
「…ごめんなさい」
「ううん…。私の方こそ、ごめんなさい」
「よし、この話はこれで終わりだ。部屋に戻ろうか」
「うんっ!」「うん」
喧嘩するほど仲がいい…か。
喧嘩をすればするほど仲がよくなる…だけじゃなくて、喧嘩が出来るほどの仲ってのもあるんだろうな。
友達同士、家族同士。
絆が深ければ深いほど。
自分のことを、自分の考えを、もっと相手に知ってもらいたくて、喧嘩をする。
仲直りをする頃には、さらに絆は深まっている。
もちろん、喧嘩をせずに伝えられるのが一番だけど。
さっきの喧嘩が嘘のだったかのように楽しく笑い合う風華と桜を見て、それを痛感した。
好きな人に自分の想いが伝わらなかったら、喧嘩してみてください。
最終手段ではありますが、これで伝わることが多いです。
そして、喧嘩したあとは仲直り。
これがないと始まりませんよね。