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「それで、あの大群はどうしたの?」

「連れて帰ってきたんだ」

「なんでまた…。みんな弁当持ちだし…」

「いいじゃないか。広場を使う用事なんてないんだから」

「そうだろうけど…」


香具夜はため息をついて元の席に戻る。

態度こそ不機嫌ではあるが、悪い気はしていないはずだ。


「あまり嬉しそうに尻尾を振るな」

「なっ!」

「香具夜は、本当に感情を隠せないよな」

「隊長もですよ。はい、お昼ごはんが出来ましたよ」

「灯は外見では全然分からないよな。振らないときはピクリとも振らないし」

「隊長たちより、感情の制御が出来てるんですよ」

「いや。お前は雰囲気で分かるから」

「えっ、どういうこと?」

「敬語が抜けてるぞ。まあ、それは置いといて。灯は感情が滲み出てるんだよ。いろんなところから。だから、尻尾を見なくても分かる」

「えぇ…おっかしいなぁ…」

「一番分かりやすいよね、灯は。逆に、縁とかはいつもニコニコしてるからよく分かんない」

「そうか?」

「香具夜班長、呼びましたかぁ~?」

「お、縁。ちょうどいいところに。昼は食べたのか?」

「いいえ~。今からなんです~」

「じゃあ、一緒に食べよう」

「はぁい。分かりました~」


縁はニッコリ微笑むと、ゆっくりと厨房に入ってきて、のんびり席に着いた。

その間に、灯は縁のごはんの準備を済ませて。


「はい、縁。ゆっくり食べてってくださいね」

「はぁい。ありがとうね、灯ちゃん」

「いえいえ」

「はぁ~。久しぶりですね~、隊長と一緒にごはんを食べるのは」

「そうだったか?」

「夕飯は一緒ですけどね~。でも、こうやって隊長とお喋りしながら食べるのは久しぶりですよぉ~」

「まあ、ほとんどみんなそうだと思うよ。元々、紅葉って一人で食べることが多かったし」

「そうなんですかぁ?じゃあ今度からは、隊長と同じくらいに私もお昼にしようかなぁ」

「オレは別にいいけどな」

「隊長は、いつも息子や娘たちを引き連れてきますからね。騒々しいですよ」

「望むところですよ~。私、子供が大好きですからぁ~」

「そういえば、代表のみんなが連れてきた子たちの管理責任者に立候補したんだったよね」

「はい~。やりがいのある仕事ですよぉ~。みんな、良い子で~」

「管理責任者って、具体的に何をしてるんだ?」

「えぇ…。隊長なのに知らないの…?」

「…いいじゃないか、別に。オレが知らなくても機能してるんだから」

「あはは。管理責任者というのはぁ、要するに親の代わりですよ~。議会で忙しい代表のみなさんの代わりに、子供たちの面倒を見るんです。議会に乱入したり、イタズラなんかしたりしたら、きちんと怒るのも私たちの仕事なんです~」

「ほぅ。なるほどな」

「みんなやんちゃ盛りなので、叱り甲斐がありますよ~。美希さんなんて、今ではスッと手を挙げるだけで子供たちがピタッと静かになるんですよぉ~」

「ふぅん…。美希か…」


さしずめ鬼教官といったところか。

そういえば、遠足のときもだいたいそんなかんじだったな…。

まあ、そんなカミナリオヤジみたいな役割のやつが一人くらいいれば便利なのかもな。


「でも、私はダメですねぇ。なかなか叱ってあげられないんですよぉ…」

「何も、叱るだけが親じゃないだろ?優しく微笑んで、頭を撫でてやるのも親の役目だ。叱るのは、これはと思うもの以外は美希に任せればいい。子供たちも、叱られてばかりでは窮屈だろうしな。親はお前だけじゃないんだ。周りにたくさんいる。それに、他のやつらもお前の力を必要としてる。一人で全部やろうなんて思うな」

「…はい」

「養育係じゃないけど、私たちも力を貸せるんだから。遠慮なく頼ってよ」

「そうそう。責任者だからって、気張ることなんてないんだよ」

「…ありがとう。香具夜さん、灯ちゃん。私、なんだか自信が出てきましたぁ~。そうですよね。私の周りには、たくさんの家族がいるんですよね!」

「ああ。助け合って、支え合って。みんな、縁の家族だ」

「よぉし。じゃあ、速くごはんを食べて、子供たちと一所懸命遊んできますねぇ~」

「はいはい」


縁が言う"速く"というのは、私たちの"普通"と同じくらいなんだけど。

それでも、必死にごはんを食べ進める縁の表情を見てると、笑いをこらえるのがやっとだ。


「やっぱり、隊長や班長と一緒にごはんを食べられてよかったです~。自分一人で、延々と悩み続けるところでしたぁ。出口のない迷宮から、隊長たちが壁を壊して脱出させてくれたんです~」

「壁を壊して、か。ふふ、紅葉にはピッタリだね」

「なんだ。香具夜のことじゃないのか?」

「両方でしょ…」

「灯だったりしてね」

「私は可憐な白狼だもんね。野蛮な銀狼とは違うの」

「ふん。どの口がそんなことを言うんだか」

「ね、縁。野蛮な銀狼の二人のことを言ってるんだよね?」

「そうですねぇ…。秘密です~」

「えっ、秘密って!ねぇ、縁!」

「そういえば、さっきからずっと敬語が取れてるな」

「そんな下らないことなんていいの!」


あれだけ頑なに続けてたのに、あっさり中断してしまったな…。

あと、野蛮かどうかは灯が言い出したことであって、縁に他意はないと思うんだけど…。


「ねぇ、縁!」

「ふふふ。秘密ですよぉ~」


まあ、面白いからいいか。

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