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「オレはここで降りるよ」

「えっ、なんで?」

「市場を通って帰ろうかと思ってな。お前たちも一緒に来るか?」

「んー、私はいいかな」

「わたしは、お母さんと、一緒に、行きたいな」

「わたしも行きたいの」

「葛葉はね、お母さんといっしょにかえる」

「そうか。じゃあ、龍の二人と一緒だな」

「そうだね」

「私たちは、新しい王に挨拶しないといけないから」

「えぇ~…。ぼくも紅葉にいろいろ買ってもらいたかったのに…」

「…自分の金で買えよ」

「ぼくのお小遣いの少なさを見くびられちゃあ困るな」

「胸張って自慢するところじゃないだろ」

「まあ、とにかく。団長も一緒に来てもらいますからね」

「うぇ~…」


桐華はガックリと肩を落とす。

まったく…。

こいつはいつまで経っても子供だな…。


「そうだ。今日は、ちゃんと正門から入ってくれよ。城壁を登ったり、地下水路を通ったりとかは絶対に禁止だからな」

「えぇ~…。いつも楽しみにしてるのに…」

「お前、押さえにかかったやつらを片っ端から伸していくだろ。オレがいない今日は、何があっても禁止だ。守らない場合、未来永劫ユールオ内でお茶を飲めないようにしてやるからな」

「大丈夫であります、隊長!今日は大人しくしていますです!」

「分かればいい。じゃあ、光、リュウ。行こうか」

「はぁい」「うん」


龍の二人と一緒に馬車から飛び降りる。

そして、先に城へ帰り隊に手を振る。


「じゃあ、またあとでね」

「ああ」


そのまま、馬車が市場に入ったのを見届けて。

二人に合図を送る。


「よし、行こうか」

「うん!」「おーっ」


目的地はもちろん。

子供たちがはしゃぐ声のする方へ向かった。



ところどころ、木の板でぞんざいに補修された床。

雲雀が鳴かない場所はないくらいだった。


「えへへ。ようこそ!なんだぞ」

「あ、ああ…」

「まさか衛士長さまが来られるとは思っていなくて、何の用意もしてませんで。汚いところですが、ゆっくりしてください」

「どうも、ご丁寧に…」

「ルウェ、ヤーリェ。失礼のないようにな」

「ルウェは、ぼくが見張ってるから大丈夫だよ」

「むぅ…。どういうことなの?」

「では、私はこれで。ちょっと野良仕事があるんで」

「わざわざすまなかったな」

「いえいえ」


そして、一礼をすると部屋を出ていった。

礼儀正しいな。

しかし、これは…。


「なんだかボロっちいの」

「お、おい、リュウ…」

「えへへ。ボロっちいでしょ~。でもね、ここは自分たちの大切な家なんだよ」

「うん」

「しかし、孤児院がこんなにボロいとはな…」

「狼の姉さま、どうしたの?」

「いや…」


こんなところに、ルウェやヤーリェや他の子供たちが住んでいるのか…。

大切な家だとは言っても、これでは少し地震や台風が来ただけで壊れてしまうぞ…。


「紅葉お姉ちゃん?どうしたの、キョロキョロして?」

「いや、なんでもないよ…」

「ここが壊れそうなのが気になるの?」

「…まあ、そうだ」

「大丈夫だよ。この前ね、利家お兄ちゃんがここに来て、辰彦おじちゃんと話してたの。ギカイってところで、ヨサンに孤児院へのエンジョキンを組み込めるように提案するって言ってた」

「…そうか」


利家はすでにここに来て、問題を見ていたんだな…。

満足な家にも住めない、この状況を。

予算に援助金を組み込むということは、国を挙げて孤児院の補助をするということだ。

そして、その議題は可決されるだろう。

そうすれば、少なくともユールオでは子供は安心して暮らせるんだろう。

…果たしてそうなのか?

金の管理をするのは大人だ。

子供たちではない。

辰彦は信頼出来る者かもしれないが、そうでない者もいる。

予算案が出来れば、私腹を肥やすために孤児院を建てる者も出てくるだろう。

利家のことだ、対策を充分に練ってから提案するのだろうけど…。


「紅葉お姉ちゃん、聞いてた?」

「えっ、何を?」

「もう…。狼の姉さま、しっかりしてほしいんだぞ」

「す、すまない…。それで、何の話だ?」

「あのね、みんなで、一緒に、お昼ごはん食べようって。ここに住んでる子も、みんな集めて、お友達を、たくさん作るの」

「あぁ、なるほど。良いんじゃないか?」

「うん!それでね、お城に行ってもいい?広場で食べたいなって話してたんだ」

「ああ。いくらでも来ればいいよ。それで、昼ごはんはどうするんだ?」

「えっとね、おにぎりを作って持っていくの!」

「ほぅ、おにぎりか」


厨房や旅団天照に言えば、なんでも用意してくれるだろうけどな。

まあ、みんなで一緒に何かをやるというのは大切なことだ。


「それで、みんなを集めなくていいのか?それに、ご飯もたくさん炊いてもらわないといけないだろ?早くしないと、すぐに昼だぞ」

「あっ!大変!」

「い、急ぐんだぞ!」

「じゃあ、ルウェとリュウは、みんなを、呼んできて。わたしとヤーリェは、ご飯の用意を、頼んでくるから」

「分かったの」

「悠奈、七宝。みんなを呼び戻すの手伝って!」

「ワゥ!」「ァン!」


光の的確な指示の下、四人はそれぞれ散っていった。

いや、悠奈と七宝を合わせて六人だな。

…いつの間に名前を決めたんだろ。

ていうか、リュウはいつの間にあれだけ馴染んでいたんだろうか…。

子供っていうのは、やっぱりすごいな。

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