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「じゃあ、姉ちゃんを知ってる森の住人がいたんだ」

「ああ。人間は不釣り合いなくらい長生きするからな…。森にはもうオレの居場所はない気がしたんだけど、今、ひとつ見つけられたみたいだ」

「ふたつでしょ?」

「…ああ。そうだったな」


目の前に再び現れた赤い龍。

蓮は出掛けたときのままの格好で、洞穴の前で眠りこけていた。


「おい、蓮。起きろ」

「……!」

「はぁ…。それで、謝る決心はついたのか」

「………」

「そうだよ。他に誰が謝るのよ」

「………」

「ダメだよ。それに、蓮にはやってもらわないといけないことだってあるんだから」

「……?」

「伊織を引っ張り出すことだよ。なんとしても、伊織を城に連れて帰りたいから…」

「オォン」

「もちろん。蓮も一緒だよ。伊織の病気のことが気になるし、カイトあたりに聞けば何か分かるかもしれないって思ったんだけど…」

「……?」

「あぁ、カイトってのは聖獣だよ。不死鳥なんだって」

「オォン」

「それは分からないけど…。でも、手掛かりくらいは知ってると思う。知識の量だけは豊富みたいだからね」

「あれでもっと堅苦しくなければ良いんだがな」

「ふふ、そうだね。でも、やっぱりあれくらいの威厳は欲しいかも」

「そうか?」

「うん」

「………」

「そういうことだから。蓮、協力してね」

「……!」

「いつまでそんなこと言ってるのよ!蓮は、伊織のこと、心配じゃないの?」

「………」

「じゃあ、お願い。意地なんて張らないで」

「………」


蓮は一度、風華から目を逸らした。

そして、後ろ足で頭の裏を掻いて立ち上がると、また風華と目を合わせる。


「ゥルル…」

「うん」

「よし。じゃあ、行こうか」

「ワゥ」


一度身を震わせると、蓮は洞穴の中に入っていく。

風華と私もそれに続いて。

目が慣れるのを少し待って、さらに奥へと進む。

昼にいたところより、まだ奥に伊織はいて。

こちらに背を向けて丸まっていた。


「オォン」

「………」

「………」

「………」

「ゥルル…」

「ウゥ…」

「……!」

「ちょっと、伊織…」

「待て。口出しするな」


風華の口を押さえる。

こういうことは、本人たちで決着させるのが一番良い。

口出しするのは、どうにもならなくなったときだけだ。


「オォン…」

「………」


謝る蓮に向かって煩そうに尻尾を振る伊織。

蓮はしどろもどろになって、こちらへ助けを求めるような視線を投げ掛けるが、自分でなんとかするようにと睨み返す。


「オォン…」

「ウゥ…」

「………」

「ウゥ…」

「ゥルル…」

「………」

「オォン…」

「………」


そして蓮は伊織に近付き、額を伊織の腹に擦り付ける。

伊織はそっぽを向いて不機嫌そうに尻尾を振っていたが、それも次第に収まってくる。


「………」

「オォン…」

「仲直り、だね」

「ワゥ」

「なんで礼を言うんだ。お前たちが自分で解決したんだろ」

「………」

「うん」

「じゃあ、次は伊織だ」

「……?」

「オレたちと一緒に、城に帰らないか?風華はお前の身を案じて言ってるんだ」

「………」

「伊織…!」

「オォン」

「そうだよ!蓮もこう言ってるんだし…一緒に帰ろ?」

「………」


伊織は前足に頭を乗せると、ため息をついた。

城に行く気はないということだろうか。


「ゥルル…」

「………」

「ねぇ、伊織…」

「………」

「何か行けない理由があるのか?」

「え?そうなの?」

「………」

「なんだ。言ってみろ」

「…オォン」

「えっ、なんでよ」

「いいじゃないか。すまないが、少し外に出ていてくれないか?」

「…うん。分かったよ。行こ、蓮」

「………」

「ね、行こ」

「………」


そして、二人は洞穴から出ていった。

それを気配で確認すると、伊織は起き上がってこちらに向き直る。

ジッと私の目を見詰めて、しばらくそのまま動かなかった。

やっと口を開いたとき、出てきた言葉は予想外にも予想通りのものだった。


「………」

「ん?」

「オォン…」

「なんで、そう思うんだ?」

「………」

「お前の知らない世界はたくさんあるだろう。その中に、お前の言う怖い世界もあるかもしれない。でも、それが全てじゃないだろ?蓮を見てみろ。オレは今日知ったばかりだけど、あいつは全く物怖じしないで、いろんな世界に翼を広げていってるってことは雰囲気で分かる。蓮は、怖い世界に出会ったからといって、進むのをやめない。その先に、今よりもっと良い世界があることを知ってるからだ。でも、それも最初から知ってたわけじゃない。何回も経験して、失敗して。それから知ったんだ。オレは、お前にも知ってほしい。怖がっていたら、何も見えないままだってことを」

「………」

「ん?そうだな…。昔のオレがそうだったから。蓮からは、昔のオレと同じ匂いがする」

「……?」

「冒険と発見の匂いだ」

「………」

「まあいいじゃないか。それで、どうだ。一緒に帰る気はないか?」

「…オォン」

「ふふ、そうだな。その向上心が重要だ」

「ゥルル…」


伊織はゆっくりとこちらに近付いてきて、額を腹に擦り付ける。

私もそれに応えて、背中をゆっくりと撫でてやる。

すると、その手に逆鱗をそっと触れさせてきて。

…まさか、逆鱗にまで触らせてくれるとは思わなかった。

半日ほどでここまで信頼してもらえたのは嬉しい。

カリカリと逆鱗を掻いてやると、気持ち良さそうに喉を鳴らして。

ということで、風華と蓮への報告は少しくらい遅れてもいいよな。

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